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国立劇場12月歌舞伎公演 [舞台]

12月24日(火)

1312国立.jpg

11,12月と歌舞伎座では仮名手本忠臣蔵の通しだったが、国立でも忠臣蔵外伝というのか仮名手本じゃないもの、それも珍しい三作品を取り上げた。

一・主税と右衛門七
矢頭右衛門七 = 中村歌昇(4代目)
大石主税 = 中村隼人(初代)
娘お美津 = 中村米吉(5代目)
大石内蔵助 = 中村歌六(5代目)
乳母お粂 =京蔵

初演が昭和34年、現幸四郎と吉右衛門がまだ10代の頃にやったという作品。討ち入り前夜の、赤穂義士の中で最年少の二人を描いた、叙情的な新歌舞伎。
歌昇の右衛門七が複雑な思いに揺れる若者(と言うより少年)の心の動きを丁寧に見せてなかなか。一時期ちょっと顔芸に走り気味だったけど、楽日近いこの日はとても丁寧に少年の寂しさ、死への恐れ、恋への憧れ、などが痛いほど伝わってきた。右衛門七は、お美津のことが好き、というよりは娘に自由に恋することができる身の上への憧れがあったんだろうな。

米吉のお美津はそれはそれは可愛らしい。右衛門七が大好きで、恥ずかしがったり、拗ねて見せたり。でも台詞の方はいつになく平坦で棒読みに近い。う~ん、どうした。先日の研修会で七段目のおかるやった時あんなにできたのに。お手本のない芝居はまだ難しいのかしら。頑張ってほしい。お琴を弾く場面があって、それはなかなか。

隼人の主税も、育ちの良い少年の素直さ、迷いなどを率直に見せた。

歌六の内蔵助がさすがに貫禄。大人の包容力と大きさ、息子や右衛門七への厳しさと同時に優しさを見せる。歌六さん、老け役ばかりじゃなくもっとこういう役もやってほしい。

乳母の京蔵が絶品。すべて心得た、と言う風な、頼れるおばさん。若手三人を相手になんだか園長先生のような趣もあって、ふふっと笑えた。

二・弥作の鎌腹

百姓弥作 = 中村吉右衛門(2代目)
千崎弥五郎 = 中村又五郎(3代目)
百姓畦六 = 澤村由次郎(5代目)
百姓田吾作 = 大谷桂三(初代)
柴田七太夫 = 嵐橘三郎(6代目)
女房おかよ = 中村芝雀(7代目)

秀山十種のうちの演目で、初代吉右衛門が得意にしたので当代もずっとやりたかったのだそうで、念願の初演。
先月は由良之助やってた人が、ここではむさ苦しい百姓役。大根背負って登場するし、ひょえ~、となってしまう(笑)。始めは女房と仲睦まじい様子がかわいく、弟弥五郎とのやりとりに人の良さを見せる。思いがけない事態に陥る慌てようが可哀想だがおかしくもあり、思い詰めた表情も弟から切腹の作法を聞く必死さも、滑稽味があふれる。その可笑しさを保ったまま、鎌での切腹という悲劇に突入するそのギャップにこちらは動転。百姓が身分の低いなりに思い詰めたゆえの義理の立て方の悲しさが哀れすぎる。
吉右衛門は普段滑稽な役が得意ではないが、ここではむしろ笑わせようという気はなくひたすら真っ正直な弥作を大真面目にやってかえって笑いを誘うことに成功している。

又五郎が真面目一途な弥五郎でぴったり。
芝雀のおかよも人のよい、亭主と仲の良い可愛い女房。
橘三郎の七太夫が強欲で権柄な代官を好演。
由次郎と桂三が幕開きのんびりとした会話で弥作の普段の穏やかな生活をうかがわせた。

三・忠臣蔵形容画合(チュウシングラスガタノエアワセ)
大星由良之助 = 中村吉右衛門(2代目)
斧定九郎・与市兵衛 = 中村歌六(5代目)
遊女おかる = 中村芝雀(7代目)
高師直・奴武平 = 中村又五郎(3代目)
寺岡平右衛門 = 中村錦之助(2代目)
狸の角兵衛 = 中村松江(6代目)
桃井若狭之助・奴桃平・めっぽう弥八 = 中村歌昇(4代目)
塩冶判官・奴半平・種ヶ島の六蔵 = 中村種之助(初代)
腰元おかる = 中村米吉(5代目)
腰元吉野 = 大谷廣松(2代目)
早野勘平 = 中村隼人(初代)
大星力弥 = 中村鷹之資(初代)
おかや = 中村東蔵(6代目)
顔世御前 = 中村魁春(2代目)

黙阿弥作の忠臣蔵のパロディで大序から七段目までを舞踊でつなぐという驚きの趣向だが、実に楽しい。
各場面は短いが、工夫を凝らしていて面白い。

大序と二段目の本蔵屋敷は又・歌・種の親子三人で。又の師直が立派で、本公演で見たくなる。早替わりで奴のなるのが面白く、酔った踊りが楽しい。でもこの三人は割と真面目なので、もっと軽さが出た方が面白いかも。

裏門では米のおかるが可憐。今月、お美津の方はいまいちだったがこっちは良かった。絡んでくる判内を見下したような目線が末恐ろしい(笑)。隼人の勘平が二枚目振りを発揮。

四段目は魁春の顔世と鷹之資の力弥が本役並み。鷹之資君は11月は七段目の力弥を勤めていて、こちらでも凛々しい様子。この子はほんとに目に色気がある。

五段目、歌六が与市兵衛と九大夫を早替わりで勤める。特に定九郎が白塗り悪役で素敵。本公演でなかなかこういう役は見られないが、もっといろいろやらせてみたくなる。定九郎が生き返った(?)与市兵衛が猪に扮したのと絡んだり、鉄砲で撃たれた定九郎がすっぽんに消えていくのも面白い。

六段目は寡婦となったおかやに猟師仲間が念仏踊りを習うという可笑しさ。東蔵が達者なところを見せる。

七段目は平右衛門とおかるを人形振りで。芝雀のおかるが綺麗。そして最後の最後に登場した吉右衛門の由良之助が、ほんの一言二言の台詞ですべてをさらっていって、仲居や太鼓持ちが踊る中賑やかに幕。いや~、やっぱり播磨屋の由良之助、最高に格好いいわ!最後に扇をばっと開いたところなんて「よっ、日本一~!」って叫びそうだった。

播磨屋さんの公演では珍しい、軽い演目で、理屈抜きに楽しかった。
でも、出番がちょっとの人が多くてもったいなかったな。
ともあれ、これで気持ちよく今年の観劇納めができた。
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