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吉例顔見世大歌舞伎昼の部 [舞台]

11月21日(月) 新橋演舞場

2回目の観劇。この日も昼夜通し。

一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
  土佐将監閑居の場              
浮世又平    三津五郎            
狩野雅楽之助    権十郎            
土佐修理之助    松 也             
将監北の方    秀 調              
土佐将監    彦三郎             
女房おとく    時 蔵

三津五郎の又平は、私が観るのは2回目。前も確か時蔵のおとくだったかと。この人の良いところは、過剰なことをやらないことで、かといってあっさりしすぎと言うこともなく、丁寧に又平の苦しさ辛さ、絶望を見せ、最後は一転して喜びに浮かれる様子を演じていて、とてもわかりやすい。今月初めに観た時は、それが逆にやや物足りない気もしたのだが、2回目のこの日はとても胸を打たれた。特に、師匠に向かって「死にたい」と訴える場面では、又平の命と引き換えでも名字がもらいたい執念が感じられて、泣けてしまった。

とはいえ、吉右衛門などで観るとこの又平は、ただ朴訥としているのではなく、もうちょっと複雑な陰影のある男にも感じるのだが、三津五郎だとどちらかというと「いいひと」に見えて、むむ、それはどうなんだろうという気もする。

時蔵のおとくも、しゃべくりと言っても出過ぎず、気立ての良い夫思いの良くできた女房。甲斐甲斐しく又平の世話を焼く様子が健気で暖かい。ちょっと品が良すぎる感じもしなくはないけど。

彦三郎の将監が威厳があり、厳しくとも根は思いやりのある老骨の師匠の風情が上々。
松也の修理之助も行儀良い。

全体的に、品良くこじんまりまとまった感じの舞台で、自然と泣かされた。

二、道行初音旅(みちゆきはつねのたび)
  吉野山        
佐藤忠信実は源九郎狐    松 緑              
逸見藤太    團 蔵               
静御前    菊之助

夜の楽しみが道成寺なら昼はこれ。
松緑と菊之助は今年春に「男女道成寺」でも良い舞台を見せてくれたが、今度も期待に違わず素晴らしい出来だった。
特に松緑が良い。きっぱりとメリハリの効いた動き、神経の行き届いた手先、ぶれない下半身。これまで芝居の時などは顔の表情をつけすぎる嫌いもあったが、このところだいぶその癖が押さえられてきて、この忠信でも落ち着いた様子で凛々しい二枚目振り。静御前との男雛女雛のシーンは一幅の絵のようで、戦物語での連れ舞も息の合ったところを見せた。
最後の花道の引っ込みも、ちょっと狐の本性を見せて愛嬌たっぷりに、颯爽と。

菊之助の静も品があり、美しく、それはそれはうっとりするほど。一度目観た時は、ちょっと気の強そうな静御前というか、なんだか堅物の家臣をからかってるお姫様みたいな(笑)雰囲気があったが、この日はあまりそう言うこともなくて、はんなりとした雰囲気。

二人の醸し出す、ふんわりと清潔感溢れる空気が本当に心地よくて、いつまでも観ていたい、このまま終わらなければいいのに、と思うほどだった。
松緑と菊之助、若手ではこのコンビがいちばん好きだなあ。
夜の部の菊ちゃんの道成寺もだが、観ていてとても幸せな気分にさせてもらえた。ああ、ええもん観たなあ、、。

  新皿屋舗月雨暈
三、魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)
魚屋宗五郎    菊五郎             
女房おはま    時 蔵              
小奴三吉    松 緑             
召使おなぎ    菊之助            
茶屋娘おしげ  尾上右 近              
丁稚与吉    藤間大河              
岩上典蔵    亀 蔵          
菊茶屋女房おみつ    萬次郎              
父太兵衛    團 蔵            
磯部主計之助    三津五郎            
浦戸十左衛門    左團次

菊五郎の魚宗、何を今更言うことがあろうか。前半の沈んだ様子から、飲んで暴れる姿への豹変の面白さ、流れるように全てが運んで、粋で格好良くて、でも可笑しくて悲しい宗五郎。

時蔵のおはまも先程のおとくとは又違って、おかみさんらしいちゃきちゃきした様子ながら亭主思いの優しさがあり、菊五郎との息もぴったり。

菊五郎と時蔵のコンビは、やっぱり鉄壁。歌舞伎界でも随一のゴールデンカップルだと改めて認識。

菊之助のおなぎも品の良いお女中で、お蔦が死んだいきさつを語るところが様子が目に浮かぶようで上々。
松緑の三吉も小奴らしい元気の良さと気の良い様子がなかなか。
なお、酒屋の丁稚で松緑の息子の大河君が出演。まだ幼稚園(?)、小さいのにとてもしっかりしていて、ただ出ているのじゃなくちゃんと芝居していて感心した。いやあ、先が楽しみだわ。
團蔵の父親も、下町の親父らしい様子。

今回の魚宗では、面白さももちろんだが、宗五郎始め一家のお蔦を思う悲しみと愛情がいつも以上に伝わって、それが宗五郎の酒に紛らわせる苦しさとの好対照となり、磯部邸での「酔って言うんじゃございませんが」につながって、泣けてしまった。

後半の磯部屋敷では、左團次の家老がさすがにどっしりとした貫禄と懐の深さを見せ、意外にも初役という三津五郎の主計之助が誠実さをのぞかせて立派。

今月の演舞場は、昼も夜も菊五郎劇団の充実振りに感服。梅幸と先代松緑の良い追善になったことだろう。
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