SSブログ

ゴヤ ―光と影― 展 [美術]

11月27日(日) 国立西洋美術館
http://www.goya2011.com/

ちらし.JPG

ちょっと久しぶりの上野。日曜日なので、動物園に行く人や美術館に行く人でいっぱい。

ゴヤ展が日本であるのは久しぶり、かな?プラド美術館展やスペイン絵画展などはよくあるが。フランス絵画ほど人気はなさそうだし、ましてや印象派の画家に比べると、人気も知名度も劣りそう。
私自身、昔はあんまりゴヤに興味はなかった。スペインならベラスケスの方が有名じゃない?なんて。
それが俄然ゴヤに関心を持ったのは、堀田善衛さんの「ゴヤ」を読んでから。以前から堀田さんの本が好きだったので読んでみたらとても面白く、また勉強にもなる本だった。ゴヤの評伝なのだが、ゴヤ個人だけでなく、同時代のスペイン、ヨーロッパ史としても秀逸。お薦めです。

さてそれで、今回のゴヤ展。目玉はかの「着衣のマハ」だが、全体を見渡すと、油絵よりも素描や版画の数の方が多く、地味な印象。だから「マハ」くらいしかゴヤを知らなくて見に来るとかなりびっくりすると思う。
しかもその版画類の大半は「カプリッチオ」シリーズや「戦争の惨禍」シリーズからのもので、はっきり言って暗い。重い。難しい。

ゴヤはスペイン宮廷画家として着飾った国王一家や貴族達の肖像画を描きながら、一方でそういった人間の業や深層心理に迫る絵も生涯描き続けた。まったく一筋縄ではいかない、複雑な人間なのだ。

だからこの「ゴヤ展」が『光と影』として、艶やかなマハや、宮殿を飾ったタペスリーの原画などだけでなく、版画や素描をきちんと見せたことは正しい。たとえ客の何割かが、がっかりしていたとしても。

1a.JPG
日傘 (1777年)
宮殿を飾るタピスリーの原画。牧歌的な理想化された男女。ロココ風だが、あんまり上手とも言い難い。


ゴヤと言えば肖像画だが、ゴヤ以前の画家との決定的な違いは、モデルの内面に迫る表現である。
単に似ているというのではなく、モデルの性格までもキャンパスに写し取るゴヤの透徹した眼差しの恐ろしいまでの鋭さ。中には、よくこれでモデルが怒らなかったなと思うようなのも。国王一家の肖像画なんて、ほとんど軽蔑しきってるのがわかるくらい。

2a.JPG
ホベリャーノスの肖像 (1798年)
ゴヤの友人で当時のスペイン知識人の代表だった人物。
この絵などは、そんなゴヤの肖像画の中では突出してモデルに尊敬の眼差しを注いでいるのがわかる。

4a.JPG
着衣のマハ(1800~1807年頃)
絵画史上もっともスキャンダラスな絵とされ、モデルが誰かでいまだに論争が続いている、裸のと着衣のとセットの絵。これはやっぱりセットで観ないとあまり意味がない気がするけれど、まあ仕方がない。
上気した頬、挑戦的な眼差し。裸よりこちらの方がむしろエロティックでさえある。裸とこれが男女の営みの前後であるという説も肯けて、その射るような視線に思わず目を伏せてしまう。決してゴヤ最高傑作とは思わないが、これもゴヤの一面だろう。
ちなみにモデル論争では堀田さんは、当時の宰相ゴドイの愛人説に一票を投じている。何しろこの絵が掛けられていたのがゴドイ邸だったのだから妥当な説だろう。

3a.JPG
『夢』1番 作者は夢みている
版画集「ロス・カプリーチョス」43番「理性の眠りは怪物を生む」のための素描。怪物はいずれ世界を覆うまでに成長していくだろう。

これはまだしも、「戦争の惨禍」シリーズの目を覆わんばかりにむごたらしい絵の数々には息を呑む。これも現実から目をそらさないゴヤの恐ろしさ。

人間の心の奥の闇や悪夢、業の深さ罪深さ、社会の底辺の人々。これら、18世紀までの絵画に描かれることのなかったものを描いたのがゴヤ。ドーミエの風刺画、象徴主義のルドンや、ルオーのミゼレーレなどに先立つこと100年。その先駆性を、しかし宮廷画家の顔の下に隠してしたたかに動乱の時代を生き抜いた、美術史上一の怪物かもしれない。

ただ単に綺麗な絵、ほっとする癒しの絵が見たい人にはお勧めしない。でも一度は観ておくべき画家だと思う。


ゴヤ  1 スペイン・光と影 (集英社文庫)

ゴヤ  1 スペイン・光と影 (集英社文庫)

  • 作者: 堀田 善衛
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2010/11/19
  • メディア: 文庫



タグ:ゴヤ
nice!(5)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 5

コメント 2

palette

私も先日行ってきました。
ゴヤのことをあまり知らなかったな〜と、つくづく思いました。
風刺の効いたエッチングや素描、庶民の姿が興味深かったです。
期待していた「マハ」は、どういうわけかあまり感動できなかったのですが...見る目が無いのかなあ(^^;

by palette (2011-12-03 11:00) 

mami

paletteさん、
素描や版画、初めて見るとちょっとびっくりしますよね~。

「マハ」は有名だけど、ゴヤの最高傑作というわけではないと思います。
今回の出品作は、油絵に関して言えば、それほど良い絵が来ていなかったように私は感じました。
でもゴヤの全体像を見渡せる、良い企画展だったと思います。
by mami (2011-12-03 21:47) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました