SSブログ

南座顔見世・昼の部 [舞台]

12月21日(火)
顔見世は、昼の部も10時30分開演と普通より早い。前の晩の終演が10時40分だったから、12時間足らずでまた劇場に戻ってきた形(苦笑)。

前記事で書き忘れましたが、今回は大奮発して、昼夜ともお席は一等、しかも最前列の真ん中あたり!
本当に通な観客はかぶりつきって避けるんでしょうね。俗に「とちり」という6~8列目あたりがいいとか言いますし。でも最前列って一度経験すると病みつき。なんたって、前の人の頭を気にしなくていいから楽だし、それに時々役者さんと目が合うし(気のせいかもしれないけど)。
といってもさすがに毎回一等には財政上行けませんから、吉様が良い役をなさる時だけに限っております。

第一 羽衣(はごろも)
天女       孝太郎               
伯竜       愛之助

これまでこの天女をやってきたのは玉三郎や菊之助など美形でならす女形が多い。そういう人に比べると孝太郎はどうかしらねえ、と失礼ながら思っていたが、いやこれがなかなか良かった。孝太郎はここ数年ぐっと綺麗になってきていて、今日もそれを十分に感じさせた。綺麗だし、たおやかな品があってなかなか。

愛之助の伯竜は二度目だが爽やかで優しい好青年といった風情がぴったり。あまり踊りの見せ場と言うほどのことはないが、孝太郎との息も合って、若松嶋屋のコンビが艶やかに幕開きを勤めた。

第二 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
   寺子屋
松王丸       吉右衛門               
千代       魁 春               
戸浪       芝 雀           
涎くり与太郎       種太郎             
園生の前       扇 雀             
春藤玄蕃       段四郎             
武部源蔵       梅 玉

夜の部の七段目と同じく、今回楽しみにしていた演目。吉様の松王丸久しぶりだし。
その吉右衛門の松王丸、前半の時平の使者としての時は、声音も低く、冷徹さを装いながら、戸浪に机の数を質したり、奥で首を打つ物音が聞こえた時に、はっと一瞬本性をのぞかせる。眼目の首実検では、首桶を開けて一瞬宙をにらみ、首が我が子でなけらばならぬ、しかし万に一つ違っていてほしい、という思いを断ち切って首を検め、ああ、やっぱり、と安堵とも絶望ともつきかねる表情をほんの、本当にほんの一瞬見せて「でかした、源蔵、よく討った」となるのだが、その「でかした」は源蔵にではなく、打たれた我が子に向かって声をかけているのが、視線の動きで見て取れた。その心理描写の細やかさ、的確さに涙涙。
何しろ、首実検は、最前列の私の席のまさに目の前で行われたので、文字通り固唾をのんで、息するのも忘れて見入ってしまった。こんなに手に汗握って緊迫した首実検は初めてかも。

後半、真実を明らかにしてからも、源蔵に遠慮しながらも父としての情愛を存分に見せた。特に源蔵に小太郎の最期の様子を聞いて「笑いましたか」から、先に死んだ桜丸を思い、大泣きに至るところはこらえにこらえていた感情がほとばしるようで、もうこちらも大泣き。吉右衛門自身目も赤くて、本当に泣いてるようだった。
この後半では声質も前半より少し高めに変えて、印象を変えることも怠らない。メークも前半より青たいを薄くしたりちょっと変えてるかな?
とにかく、由良之助同様、いちいちの感情表現が過剰でないのに的確で、見ている者の胸を打たずにいられない。大きくて懐深くて、家族への情に溢れてそれはそれは立派な松王丸。

対する梅玉の源蔵も手に入った役。菅秀才を守るためには小太郎を身代わりにせねばと決意しながらも、「寺子と言えば我が子も同然」とその罪におののき、「せまじきものは宮仕え」と嘆く姿が真摯。松王丸の首実検を見守るところでは気迫を見せ、後半松王丸夫婦に対する態度に深い同情がにじんでさすがの出来。

昔、この演目を初めて観た頃は、「せまじきものは」の台詞は松王丸のものと勘違いしていた。忠義のために我が子を犠牲にする松王ではなく、人の子を手にかけざるをえない源蔵に言わせたところに作者の偉大さを感じる。

芝雀の戸浪も、源蔵に寄り添い、ともどもに小太郎を犠牲にする辛さ切なさをにじませた。また、後半千代を思いやる様子に優しさが見えるのがこの人らしい。

千代は魁春で、武士の妻らしい覚悟と、それでもこらえきれない母親の情を見せてこちらも上々。

玄蕃の段四郎は大きさ、憎々しさがあってさすがに上手い。
涎くりの種太郎は、この演目唯一の和ませ役、珍しい喜劇的な役だが、一生懸命。
扇雀の御台も品良い。

第三 阿国歌舞伎夢華(おくにかぶきゆめのはなやぎ)
出雲の阿国       玉三郎             
女歌舞伎       笑 也             
女歌舞伎       笑三郎             
女歌舞伎       春 猿             
女歌舞伎       吉 弥              
男伊達       愛之助              
男伊達       翫 雀            
名古屋山三       仁左衛門

海老蔵休演で仁左衛門が山三を務める。阿国らが念仏踊りをしていると、山三の幻が現れて一緒に踊る、という幻想的な舞台。
海老蔵には悪いが、仁左・玉の共演となってかえって良かったというファンも多かった。実際、二人の息のあった様子はため息が出るほどの美しさを生み、まさに夢か現かとでも思われるような艶やかな舞台。
周りの女歌舞伎の面々もそれぞれ美を競うように華やかで、男伊達の二人もすっきり。
ただ、玉三郎も仁左衛門も、元禄の若衆風の鬘と衣装だが、今ひとつぴったり似合っていなかったような気がする。仁左衛門は代役だから仕方ないのかもしれないが、玉三郎は元々顔の小さい人なので、こういうボリュームの小さい鬘だと映えない。揚巻みたいに豪華な頭の方が良いのに、と思いながら観ていた。

   十三世片岡仁左衛門を偲んで
第四 伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)
   沼津
呉服屋十兵衛       仁左衛門            
平作娘お米       秀太郎             
池添孫八       進之介            
荷持安兵衛       歌 昇             
雲助平作       我 當

9月に播磨屋ファミリーで観たばかりの演目で、こちらは松嶋屋ファミリーでの上演。三人揃ってのこの演目での共演は初めてだそう。
こういう和事の味のする演目の巧さはさすがで、三人共に柔らかみと、上品なおかしみがあって魅せる。

仁左衛門の十兵衛はすっきりした男前で、平作への態度に気さくさ優しさがあって、お米に惚れるところなど軽みのある可笑しさもある。平作が実の父と解ってからは、一転、孝行と義理のせめぎ合いに苦悩する姿に悲しさ辛さがあり、幕切れ、死にゆく父への最後の孝行に股五郎の行き先を教える姿に哀切があってさすがに立派。

平作は我當。身なりは貧しくとも真っ正直で、娘への愛情が溢れる様子が良い。十兵衛とのやりとりでは、巧まずしておかしさが出るといった風で、さすがに息のあった雰囲気。終盤、命を捨てて娘のために敵の居所を聞き出そうとする執念と、息子への愛情を丁寧に見せた。

お米の秀太郎、なんと今年顔見世出演60回目という。ということは御年は、となるがそんな野暮なことは感じさせない、元傾城という上品な色気がにじみ、親孝行な様子と、常に夫のことを気遣ういじらしさと哀れさが見えて立派。義太夫の糸に乗ったクドキがさすがに上手い。

孫八は進之介。ややメークがキツイ感じ。
安兵衛は一人播磨屋から歌昇だが、こちらも手に入った役で、アンサンブルを壊さないのはさすがに上手い。

松嶋屋は播磨屋よりも手を取り合ったり、肩を抱いたりと言った型が多い気がする。いわばスキンシップ。それによって、同じ十兵衛でも、吉右衛門だと男気の人でやや武張った感じ、仁左衛門だと柔らかさの方が強く出る。柔らかさと温かさが良く出た舞台で、ストレートに泣かせてもらった。

余談だが、かぶりつきに座っていると、この芝居冒頭の茶店の場面で旅人らの役の人たちが、後ろの席だと聞こえないがちゃんと台詞を言っているのがわかって面白かった。たとえば弁当を食べる夫婦(今回は松之助と松之丞)が「お腹すいたやろ」とか(のどに詰めて)「ああ、死ぬかと思うた」とか。芝居が細かいね。

昼の部は夜の部よりは短いが、それでも5時間以上、こちらも松嶋屋、播磨屋、大和屋とそれぞれが得意な演目を見せてそれはそれは見応えがあり、堪能させてもらった。ここ数年の顔見世ではトップクラスの充実感、わざわざ行った甲斐が大いにあったというもの。

SN3N0025.jpg

SN3N0027.jpg
nice!(4)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 4

コメント 2

とみた

mamiさん、こんにちは。
25、26日に観てきました。
本当に、宿に十一時少し過ぎくらいに戻って、すぐ寝て明日に備えなければならなかったです。
観劇中、普段はたいていどこかで眠ってしまうのに、今回は眠くなりながらも本格的には寝なかったので、自分ながらよくがんばったと思います。

昼は迷ったのですが、玉三郎と仁左衛門のコンビも、あと十年見られるかどうかわからないし、とチケットを買って、また道楽をしてしまったと思ったのですが、あの2人を見たら、これで破産しても本望だわ、と吹っ切れました。2人で踊るのは久しぶり、私はこれが観たいから歌舞伎見てるんだ、と自分の歌舞伎の原点に立ち戻った気持ちです。

種太郎君のよだれくり、予想通り面白くて、これも観られて良かった。彼は、七段目の三人侍のときも、由良之助の言葉に一々反応して怒った様子を見せていて、ちゃんと役づくりする人なんだ、芝居が好きなんだなあ、とますます将来が楽しみになりました。

by とみた (2010-12-27 12:48) 

mami

とみたさん、
千秋楽にご覧になっててうらやましいです。
昼夜とも長くて体力的には確かにきつかったですが、とても充実感がありましたよね。

>玉三郎と仁左衛門のコンビも、あと十年見られるかどうかわからないし

仁左・玉だけでなく、吉右衛門も藤十郎も、10年後はどうなってるか解りませんよね。もちろん、自分だって明日のことはわかりません。観られるものは観られるうちに観ておこう、という気持ちが年々強くなってきます。
私は播磨屋さんのファンなので、七段目と寺子屋が観られて本望でした。

種太郎君もがんばっていましたね。今回、同年代の壱太郎君が出ていなくて残念でしたが、若手もどんどん育っていて楽しみです。
by mami (2010-12-27 18:52) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。