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国立劇場「仮名手本忠臣蔵」 [舞台]

12月26日(日)

国立劇場12月.JPG

早いもので今年もあとわずか。この日が今年の観劇納めとなった。芝居自体も千秋楽。

仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)  五幕
       三段目  足利館松の間刃傷の場
       四段目  扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
              同 表門城明渡しの場
       浄瑠璃  道行旅路の花聟-清元連中-
       七段目  祗園一力茶屋の場
       十一段目 高家表門討入の場
              同 奥庭泉水の場
              同 炭部屋本懐の場
              引揚げの場

変則的な半通し、といったところ。
三段目から始まるのは良いが、若狭之助と師直の件は終わった後、ということで、幕開きは茶坊主達がここまでの経緯を噂話としてかいつまんでするというへんてこなもの。べつにいらないんじゃないの、そんなの。第一、茶坊主が鶴岡八幡宮での出来事を知ってるのはおかしい。判官さえ知らないのに。
そしてなぜか幸四郎の師直は、大序と同じ衣装で、花道から登場する。判官が現れても葛桶に座ったまま、というのも妙。う~ん、なんで変えなくても良いところをわざわざ変えるんだろう。

それはともかく、幸四郎初役の師直は、眉毛がやけに太くてゲジゲジ。文楽の人形の顔に似せてるのかな。ちょっと戯画っぽくて笑えた。ねちねちと嫌味たっぷりな師直。師直は敵役だが、位は高い人物なので、その辺の品は落とさず、幸四郎が元来持っている大きさもあってちょっと不気味に立派すぎる(変な表現だが)感じも。

染五郎の判官は、お育ちの良いお坊ちゃん風(お殿様だから当然だが)。師直の言い掛かりにだんだん怒りが募ってくる、その過程がややわかりにくいので、切りつけるのが唐突に見えた。

四段目はほぼ通常通りなので落ち着いて見ていられた。ここはさすがにみな神妙な出来。石堂は左團次、薬師寺が彦三郎で、普段薬師寺が多い左團次だが情け深い官僚の様子をきっちり見せたのはさすが。
ここでの染五郎は品良く、覚悟を決めた様子に悲しみが見えてなかなか。
顔世は福助で、ここはあくまで行儀良く勤めた。
力弥は高麗蔵、ややとうが立った感じは否めないが、さすがに落ち着いた様子で凛々しい若衆振りが似合う。まあ本来ならもうちょっと若い人に振りたい役だが、まさかに児太郎にやらせてぶち壊す蛮勇は誰にもなかったらしい(笑)。亀鶴でも良かったんだけどね。

先の師直に替わって、今度は幸四郎は由良之助。手慣れた役だけに懐の深さ、判官の無念を引き受ける決意を「委細、」と胸を叩いて見せて表すところなど間も上手くてさすが。
続く評定は文楽にはない場面で、後年付け足されたのかなんだか新歌舞伎風。だが幸四郎の由良之助のニンとしては、七段目よりもここの方が合っていて、いきり立つ家臣らを押しとどめる度量の大きさがある。
表門の場では、思い入れたっぷりに判官形見の九寸五分を取り出して付いていた血をなめ(実はこのシーン苦手)、後ろ髪を引かれる思いで去っていく様子を一人芝居でじっくりと見せた。城門が遠ざかるところ、国立の舞台は奥行きがあるので装置がずずっと奥に下がって見せたのに、由良之助が残した提灯の残骸がそのままだったのが気になってしまった(苦笑)。

道行は染五郎と福助で。かなり寝てしまったのだが、この二人はどうも釣り合いが悪いように思えて仕方ない。福助は綺麗なんだけど、なんだか無理矢理勘平を引っ張って、勘平は渋々ついてきた、みたいな。いやまあ、実際の筋もそうなんだけど、なんか違うんだよな。浮き浮きしすぎなのかなあ。
伴内は亀鶴。軽妙な味がありなかなか。

七段目もかなりカット。だからか幕開きに講談師が省いた5,6段目をざっと説明するサービス(?)付だが、3段目の茶坊主の話同様なくもがなという気がする。

芝居は九大夫と伴内の場面から。ここからだと、由良之助の見せ場が半減してしまい、幸四郎としてはやりにくかろう。幸四郎は四段目には良いが七段目だと、見せかけにしても遊びほうけて酔いつぶれているくだけた感じが薄く色気不足。なのでお軽相手にじゃらじゃらするところが面白くない。最後に出てきて九大夫を折檻する場面などは、苦衷が見えて立派だが。

福助のおかるは由良之助に請け出されると聞いて無邪気に喜ぶ様子などはまずまずだが、平右衛門とのやりとり、特に斬られかかって柴折り戸の外に逃げた後がこの人の悪い癖でふざけがちというか行儀が悪い。戻って勘平が死んだと聞いた後の嘆きやクドキなどは哀れさ健気さもあってなかなかなだけに、惜しいというか、詰めが甘いというか。

平右衛門の染五郎はもう何度目かになるので落ち着いた出来。今回務めた三役の中ではいちばんか。若さと勢い、妹への愛情と、敵討ちに加わりたい一途さも見えて上々。

討ち入りの場では児太郎と錦之助の立ち回り。児太郎は前に観た時は台詞棒読みの酷い大根振り(失礼!)だったが、予想よりはだいぶましになっていた。まあ、前は変声期だったかな。まだ高校生だし、御曹子なんだから嫌でも役はついてくる。今のうちにお稽古を積んでいただきたい。錦之助は高家側だがもうけ役。若い児太郎相手に奮闘でご苦労様。

花水橋の引き揚げの場では、普通は幕府の服部某が出てくるのを、四段目の上使役の石堂を再登場させたのは、話がぐるっと回って完結した感があり、わかりやすくて良い。ここでも左團次が情のある様子でなかなか。
最後は浪士みなが花道を通って、しんがりに由良之助の幸四郎が感慨を込めてゆっくりと入って幕の大団円。

まあ、七段目は先週顔見世で当代一のを観ちゃったので、比べるなと言われてもつい比べてしまうし、通しと言うにはかなり無理な構成のような気はしたが、それでも12月に忠臣蔵を観るのはやはり日本人で良かったな、という気分になれる。
これにて今年の観劇納め。とはいえ、来週にはすぐ初芝居。実は幸四郎に終わって幸四郎に始まるのだわ。

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コメント 4

nori

本年も楽しい観劇の記事をありがとうございました。そしてお会いすることができて本当によかったです。正月は3日の午後に文楽、4日の午後(職場の組合の貸し切り公演)に松竹座に行きます。来年もよろしくお願いします。いいお年をお迎えください。
by nori (2010-12-29 20:48) 

mami

noriさん、こちらこそ今年も拙い記事にお付き合い頂きありがとうございました。
来年もよろしくお願いしますm(_ _)m

正月は私も3日の文楽昼夜通しで参ります。夜の部でご挨拶できればと思います。松竹座は4日の昼だけですれ違いですね。
by mami (2010-12-29 22:40) 

そらへい

幸四郎さんは、染五郎時代の
「ラ・マンチャの男」しか知りませんね。
18歳の頃、初めて見たミュージカルで感動しました。
歌舞伎役者なのに歌も歌える染五郎さんにも感心しました。
by そらへい (2010-12-30 18:58) 

mami

そらへいさん、
幸四郎は、ミュージカルや洋物をやる歌舞伎役者の草分け的存在ですね。今ではそういうのも珍しくなくなりましたが、昔は風当たりも強かったと思います。
by mami (2010-12-30 20:44) 

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