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吉例顔見世大歌舞伎・夜の部 [舞台]

11月7日(日) 新橋演舞場

歌舞伎興行の中心が演舞場に移って初めての顔見世だが、これで顔見世?と思うくらい寂しい顔ぶれと演目。12月南座の顔見世の豪華さと比べると、なんともはや、という感じである。

一、ひらかな盛衰記(ひらかなせいすいき)
  逆櫓
船頭松右衛門実は樋口次郎兼光    幸四郎                     
お筆    魁 春                
船頭日吉丸又六    友右衛門                
同 明神丸富蔵    錦之助                
同 灘吉九郎作    男女蔵                
槌松実は駒若丸    金太郎                   
畠山の臣  尾上右 近                   
畠山の臣    萬太郎                  
女房およし    高麗蔵                  
漁師権四郎    段四郎                   
畠山重忠    富十郎

権四郎内の場の後の、遠見というか逆櫓を仲間に教える場を省略。時間の都合だろうけど、面白い場なのに残念。

いつも口跡の悪さに不満を持つ幸四郎の時代物だが、今回はなかなか。特に一度引っ込んで二度目の出からの、「権四郎、頭が高い」の朗々とした響きや、その後の若君と自分の素性を明かす物語の堂々とした台詞、それがまた世話に戻って義父に侍として身を立てさせてくれと頼む誠実さなど、丁寧な台詞回しでよく聞かせて立派。律義さも感じられ、武将としての大きさもあり、久々に時代物で好演。
ただ、後半の捕り物の立ち回りは、なんだか体が重そうで動きにも切れがなくて、迫力がない。いったん花道へ出てから六方で戻るところなどよたよたして見えてひやりとした。考えれば幸四郎ももう70歳近い。そろそろこういう豪快な立ち回りは難しくなってきたのかもしれない。

段四郎の権十郎はよくニンに合って、台詞がまだ完全でないところがあってもたつく時もあったものの、人の好い、しかし一徹な船頭の親父の味があって上々。孫が死んだと知ってお筆に怒りをぶつける肉親の情と、婿と若君の素性を知って驚きあきれる身分低い者の悲しさの落差を見せ、最後に若君だけでも助けようとする情愛で樋口の誠実に応えて、観る者の胸に迫る出来。

魁春のお筆、高麗蔵のおよしはまずまず丁寧。

最後に出てくる富十郎の重忠が、足こそ不自由そうなものの、相変わらずビンビンと響く台詞で存在感たっぷり。全てを見通した重忠の懐の深さと樋口への情けを見せてさすがに立派で、舞台を大きくした。こういう役者が一人出てくるとこないとでは、全く芝居の印象が違ってくるんだなあ、と改めて実感。

二、梅の栄(うめのさかえ)
梅野    芝 翫                    
雄吉郎    種太郎                    
佑太郎  尾上右 近                    
暁之丞    種之助                    
修之助    米 吉                    
駒之丞    宜 生

紅白の梅の書き割り、長唄に琴の入る伴奏、と先月もよく似たのを観た気分。
前半は、播磨屋の若手3人に右近という、考えると珍しい組み合わせ。種太郎はもういっぱしの役者の端くれだが、種之助、米吉はまだ子役を卒業したばかりというところ。これから場数を踏んで、播磨屋を盛り立ててくれればうれしい。踊りでは、さすがに右近が一枚上手で、きびきびと切れの良い動きで目を引いた。
後半は芝翫 が孫の宜生の手を引いての踊りで、まあ正直なところ、取り立てて見所もない舞台。

三、傾城花子 忍ぶの惣太
  都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)
   序 幕 三囲稲荷前の場       
        長命寺堤の場   
   二幕目 向島惣太内の場   
   三幕目 原庭按摩宿の場           
忍ぶの惣太/木の葉の峰蔵    菊五郎   
傾城花子実は天狗小僧霧太郎実は吉田松若丸    菊之助                 
葛飾十右衛門    團 蔵                   
下部軍助    権十郎                  
吉田梅若丸    梅 枝                  
植木屋茂吉    男女蔵                 
御台班女の前    萬次郎                     
お梶    時 蔵                  
宵寝の丑市    歌 六

昔菊五郎の花子(松若丸)で観たことがあるはずなんだが、最後の捕り物のシーン以外覚えていないんだよね。
今回はその菊五郎の持ち役に菊之助が挑み、菊五郎は惣太に回る形。

ストーリーがほとんど記憶になかったので、黙阿弥らしい因果話のややこしさにちょっと閉口。あらかじめチラシなどでざっとあらすじを読んでおいたから良いものの、全く知らずに見たらきっとついて行けないだろうな。
特に第二幕などは、人の出入りも多くて、その中で、実は…。が展開するから、話しについて行くのが大変。

菊之助は、傾城花子としては、色気はさすがに今ひとつ。でも考えれば、ほんとは男が化けてるんだからそれでちょうど良いのか、と思ったりもする。だがやはり、花子としての女っぷりが良ければ良いほど、正体が表れた時の面白さも大きくなるわけで、それに惣太をたらし込むおかしみなどももう一歩突っ込みがほしいところ。
見物は終幕、丑市を相手に女から男に戻ったり、また女になったりの変化。声や仕草ががらりと変わるところが絶妙で、この人は声も良いから、男としても決まる。
丑市殺しでは凄味もあり、黒の着付けに着替えたところは水もしたたる色悪振りで、女の花子としては今一の色気が十分。終盤のご飯を食べながらの立ち回りはご愛敬。

菊五郎は、本来律義な家臣であった男が落ちていった哀しみのようなものが今ひとつ。黙阿弥の描く、一つの躓きからどんどん転がり落ちていく運命の悲惨さのようなものが感じられない。そういう陰を見せるには、菊五郎の持つ華が邪魔してしまうと言うか。目が不自由なようにもあまり見えないし。どこまでも男前で颯爽としている惣太なんだな。
終幕、早替わりで出てくるのはご馳走。こういうのもやっちゃうところが音羽屋のサービス精神。

時蔵が惣太の女房役。この人らしいしっとりとした世話女房。でも花子が押しかけてくるところなど、もうちょっと焼き餅を焼いて見せても面白い気がするが、あっさり。最後は夫の眼病を治すために自分を犠牲にする悲しい役。
それにしても、歌舞伎って、何とかの女の生き血を飲めば治る、って多すぎ。ありえん。男の生き血、は聞いたことないし。

梅若丸の梅枝が若様らしい気品と哀れさがあって立派。丁寧で行儀良く務めていて、大したもんだわ。
歌六が珍しい悪役で、いつもながらきっちりと作っているが、やや面白味に欠けるか。

菊之助も菊五郎も格好良くて、音羽屋の魅力は味わえるけど、物語としてはさすがに入り組みすぎていて、あっけにとられてるうちに終わってしまったような感じではある。黙阿弥らしいと言えばらしいけど。
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