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御名残三月大歌舞伎・第一部 [舞台]

3月8日

現歌舞伎座での公演もいよいよ後2ヶ月を切った。今月と来月はそのせいか3部制である。3部制は8月の納涼歌舞伎でやっているが、それ以外では異例なことで、その上料金は2部制とたいして変わらないのだから、松竹のぼったくりと言われても仕方ない。確かに顔ぶれは豪華ではあるけれど。。。
新しい劇場を建てるのにお金がかかるのは理解できるが、今のうちに見ておきたいファンの心理につけ込んでこんな荒稼ぎをしていては松竹も観客にそっぽを向かれかねない。
その上、歌舞伎会員向け会報には「こけら落とし公演ボーナスポイント制」などと言うわけの解らない企画が載っているし、まったくなんだかなあ、である。劇場がどこだって、役者がちゃんと芝居をしてくれればファンは観に行くだろうに、変な企画に頭を使わないでもっと演目や顔合わせに知恵を絞って欲しい。

一・加茂堤(かもづつみ)
梅玉の桜丸、時蔵の八重、孝太郎の苅屋姫、友右衛門の斎世親王、秀調の三善清行

今月の三部と来月の「寺子屋」で「菅原伝授手習鑑」をやると言う変則的な上演。しかもこの段と「賀の祝」は去年上演している。どうしてその時一挙にやってしまわなかったのだろう。こういうところも最近の松竹のプロデューサーの感覚を疑ってしまう。

梅玉と時蔵は若くむつまじい夫婦の雰囲気がぴったりで、下世話な台詞もこの二人だと下品にならないのはさすが。
孝太郎の苅屋姫がこの人にしては珍しくちょっと色っぽすぎる感じで、もうちょっと楚々とした雰囲気が欲しい。
秀調はなんでもこなす人だが、この清行は任ではないかも。もう少し三枚目の軽さがあっても良い気がした。

二・楼門五三桐(さんもんごさんのきり)
吉右衛門の五右衛門、菊五郎の久吉
歌舞伎ファンでなくても知っている「絶景かな、絶景かな」の台詞で有名な一幕。一幕というより一場面と言った方が良いくらい短い演目だが、歌舞伎らしい様式美とある種の馬鹿馬鹿しさに満ちているのが人気の理由だろう。定式幕が開くと浅葱幕が掛かっていて、立て三味線の大薩摩。幕開きには珍しいかも。たぶん巳太郎さんと里長さん、人間国宝二人揃う豪華版。大薩摩っていつどれを聞いても格好いいなあ。

そして浅葱幕が切って落とされると、一面の桜の中、南禅寺の山門の上にド派手な衣装を着て悠々と煙管を加えた五右衛門が。。。!と、いきなり例の台詞。吉右衛門の口跡はやっぱり気持ち良い。朗々と響いて、歌舞伎の台詞を聞く楽しみを満喫させてくれる。そしてちゃんと大悪人という雰囲気がぷんぷんしている。気持ちよく台詞をうたいあげながらも、影や闇がしっかり感じられる。とにかくスケールが大きくて圧倒されるような存在感。

そしてその吉右衛門に見劣りしないのが久吉の菊五郎。ほんとにあっと言う間の出番なのに、二枚目の品と風格を見せてまさに「ご両人!」という風情。五右衛門が投げた小柄を柄杓で受けるところ、どうなってるのかやっぱり解らなかった(笑)。

前日の新聞に載っていた小さな訃報記事。右忠太と左忠太を勤める歌六と歌昇のお母様が亡くなったとのこと。でも当たり前のように今日も二人は舞台に出ていた。役者稼業は辛い。心の中でそっと手を合わせた。

それにしても今月国立劇場では橋之助と扇雀でほぼ同じのをやっている。何も同じ月にぶつけなくてもいいだろうに、松竹も意地が悪い。

三・女暫

巴御前  玉三郎            
蒲冠者範頼  我 當            
轟坊震斎  松 緑             
女鯰若菜  菊之助            
猪俣平六  團 蔵             
武蔵九郎  権十郎             
江田源三  彌十郎             
東条八郎  市 蔵             
根井行親  寿 猿              
局唐糸  家 橘              
茶後見  隼 人            
木曽駒若丸  萬太郎              
紅梅姫  梅 枝            
木曽太郎  松 江           
手塚太郎  進之介           
清水冠者義高  錦之助             
成田五郎  左團次          
舞台番辰次  吉右衛門

玉三郎は意外に口跡の悪い人だ。それは前に「三人吉三」の『大川端』で証明済みで、特に歌い上げるように心地よく台詞を言うことが出来ない。まあ女形がそう言う台詞を言う役は少ないから、発声も鍛えていないのだろう、しかたない部分はある。なのでこの巴御前も期待していなかったが、やっぱり予想通りの出来だった。
見た目はもちろんとても美しくうっとりするくらいだが、この演目の見せ場である花道でのつらねが何とも聞きづらく、抑揚もなく、面白くない。ここでぐっと観客の心を掴んでくれなくては、この演目の面白味は半減である。その上海老蔵のような眼力があるわけではないので、引っ込んでくれと頼みに来る者達に睨んで見せても、なんで彼らがたじたじと引っ込んでしまうのか解らない始末。なんでこの演目を玉三郎にやらせたのか、理解に苦しむ。正直言って、前に見た萬次郎の方がずっと面白く見応えがあったくらいだ。

まわりは適材適所の役者が揃って安定している。
特に松緑、菊之助の二人が余裕を持って芯となる役を勤めていて立派。菊之助なら声も良いから巴御前をやっても良いだろうと思った。
我當の青隈というのも珍しいが、貫禄がありさすがに上手い。
左團次の成田五郎以下腹出し連中も顔ぶれが揃っていて面白く見せた。

だがいちばんの見物は、定式幕が閉まって後、舞台番辰次の吉右衛門が出てきてから。玉三郎に六方での引っ込みのしかたを教える二人のやり取りが何とも可笑しく、最後の玉三郎が「おお、はずかし」と言いながら引っ込んでいく後を追いかけていく播磨屋に何とも言えない江戸の味わいがあり、さっきまで「松緑も菊之助も立派になって」なんて思っていたのが一瞬にして霞んでしまった。これだから芝居は最後まで観ないといけない。
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