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二月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

2月14日 歌舞伎座

今月は十七代目勘三郎の二十三回忌追善公演として、昼夜とも縁の演目が上演されている。
十七代目さんは88年に亡くなっていて、残念ながら私はタッチの差で生の舞台は拝見していないようだ。
劇場入り口には遺影が飾られ、二階には舞台写真などの展示コーナーもあって、故人を知る人には懐かしいだろう。当代や孫の勘太郎、七之助の幼い写真もあって微笑を誘う。

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一・爪王
彌十郎の鷹匠、七之助の鷹、勘太郎の狐、錦之助の庄屋
鷹と狐の闘いを舞踊化した劇。
七之助の鷹の衣装が白地に銀の羽根模様のようなので、鷹というより鶴か鷺みたい。
勘太郎の狐も、庄屋の台詞では「老獪な狐」ということだったが、どう見ても凛々しい若狐なのはどうなんだろう(笑)。
それはともかく、二人が息のあった踊りを見せてなかなか面白い一幕。ただの日舞と違って、狐と鷹の闘いを擬人化したものなのでそれなりの激しさもあり、特に勘太郎の体の切れ、動きの良さには改めて目を見張るものがあった。狐つながりで早くこの人の「四の切り」など本公演で見たいものだ。
七之助も無表情な中に内に秘めた激しさのようなものを見せて、美しさもありなかなか。

二・俊寛
勘三郎の俊寛、勘太郎の成経、七之助の千鳥、扇雀の康頼、左團次の瀬尾、梅玉の丹左衛門

「俊寛」の前が口上だと思い込んでいたので、幕が開いて「あれっ」という感じ。普通、追善狂言の前に口上をやるんじゃなかったっけ。

勘三郎は俊寛には向いてないと思っていた。上手い下手じゃなくて、この人には舞台で人を引きつける華や色気があって、俊寛のようなうらぶれた役をやるとどうも無理してるという感じに見えてしまうのだ。(といって、もちろん当たり役にしている吉右衛門に華や色気がないというのではないのだが、タイプが違うとでもいうか)
だが今回見ていて、考えてみれば俊寛は年寄りじみて見えるが実はまだ壮年で、妻を恋しいと思う男なんだな、というのが改めて実感できた。これはやはり勘三郎の色気のせいだろう。だからこそ、その愛しい妻を清盛に殺されたと知って、都へ帰る希望を捨てる俊寛の悲痛さが胸を打つ。

前半はいたって神妙。成経と千鳥の祝言を喜びながらも寂しさが募る様子を上手く見せる。
船が来て、赦免状に自分の名前がないとわかった驚愕と戸惑い、絶望を必死に手紙の裏表を改める様子から見せるあたりから、一気にヴォルテージが上がり、瀬尾を斬り、罪を覚悟でとどめを刺して、クライマックスの見送りへ持っていくのが、畳みかけるようなテンポで進んで息もつかせない。
船が出て行くところでは、普通はとも綱を掴むがそれはせず、声を限りに叫びながら岩に登って呆然と見送るのは誰でも同じだが、幕切れの表情が、寂しさとも悲しみとも、または諦めとも絶望とも自己憐憫とも何とも判別できない、複雑な、そして素晴らしくいい顔だった。

こういう芝居が出来るなら、勘三郎もまだまだ行けると安心した次第。変に受けを狙ったりせずに、真っ直ぐに取り組んでいただきたいものだ。

勘太郎の成経が品の良い、清々しい若者の様子でぴったり。千鳥を思う様子に真剣な態度があって、千鳥が乗れないなら自分も船には乗らない、というところに純粋さが見えて立派。
千鳥は七之助。やや堅いが、出過ぎず行儀も良く、素直な出来。
左團次の瀬尾が憎々しさ十分でさすがに立派。やっぱりこの役はこれくらい、これでもかというほど嫌らしくやってくれないとね。
梅玉の丹左衛門が好対照に切れ者の情のある役人振りでこれも手に入った風情で上手い。

三・口上
芝翫を筆頭に幹部俳優が並ぶ。芝翫さんが時々言葉に詰まるので冷や冷やしてしまった。ほとんど皆が、先代勘三郎には可愛がってもらって、という話だったが、中では三津五郎が「自分は子供の頃から当代と一緒に遊んで悪さもしたが、ある時おじさんに、大人になってもずっと仲良くしてやってくれ、と言われたのが忘れられない」というようなことを言っていたのが印象的。
さらには錦之助が唯一故人の親戚として、「萬屋、そして小川家を代表して」と言っていたが、確かに先代の実兄の孫達の播磨屋や萬屋一門から他に列席していないのが寂しいし、それが当代の今の境遇を反映しているような気もしてやや複雑な思いもする口上だった。

四・ぢいさんばあさん
仁左衛門の伊織、玉三郎のるん、勘三郎の甚右衛門、翫雀の久右衛門、橋之助の久弥、孝太郎のきく
仁左・玉の当たり役の印象が強すぎて、他の人がやるのをあまり想像できない位なのだが、公演記録を見るとそうでもなく、るんを菊五郎がやったりもしているようだ。だがやはり、今の歌舞伎界で「おしどり夫婦」がこんなにぴったりなのは仁左・玉を措いて他にない。特に第一場の若夫婦のいちゃいちゃ振りは、弟の久右衛門でなくても「お邪魔しました」と言いたくなるくらいで、馬鹿馬鹿しいと言えばそうなのだが、それが全く嫌味でなく美しい若夫婦の風景に見えるところがこの二人のすごさで、だからこそこの後二人を襲う悲劇が際立つというものだろう。

そしてその美しかった二人が、終幕では共に白髪の老人になり、腰も曲がり、足元もおぼつかなくなり、老眼鏡がなくては字も読めない。そんな二人の老いた姿をユーモラスさもまじえながら嫌味なく、しかし情感こめて演じる二人の息のあった上手さに感服。別れて暮らした37年もの年月、言い尽くせない苦労があったろうが、「もう過ぎた昔を悔やむのは止めよう」という伊織の台詞に万感がこもり、決して悲しい芝居ではないのに、温かい涙があふれて止まなかった。

勘三郎は嫌味で憎まれ者の隣人をきっちり演じて上々。あ~、いるいる、こんな奴。ほんとやだよね~、と言う感じが上手い。
橋之助と孝太郎の若夫婦が、行儀の良い、律儀な風情で感じよく、老夫婦との好対照を見せて上々。
翫雀の久右衛門も人はよいが短気な様子がありなかなか。

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さよなら時計もいよいよ80日を切った。
タグ:勘三郎
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コメント 2

nori

 歌舞伎座もあと3カ月足らずで、閉館ですね。3月の演目は魅力的ですが、わざわざ大阪から行くかどうか迷っています。
 私は、30年ほど前に、南座の顔見世で、先代の勘三郎と勘九郎の連獅子をみたことがあります。二人が連獅子を親子で舞う形をはじめたらしいですね。
 仁左衛門の「ぢいさんばあさん」は歌舞伎座で1回、平成20年の南座顔見世で1回(この時は玉三郎)見ました。二人のこどもが「疱瘡」で亡くなったというところで、思わず涙ぐんでしまいました。(職業柄、毎日子どもを相手にしていますので)
 今年は関西でも7回の歌舞伎公演がありますので、楽しめそうです。
by nori (2010-02-16 23:10) 

mami

noriさん、こんばんは。
もう後2ヶ月半で歌舞伎座も閉館かと思うと寂しいですね。
3月は確かに、仁左衛門か玉三郎のファンでないと、遠征するのは迷いますね。なにしろ3部制なんて言う、松竹も因業な商売してますからね~。

先代の勘三郎さんをご覧になってるんですね。うらやましいです。勘九郎との「連獅子」はさぞ見応えがあったでしょうねえ。

一昨年の南座での「ぢいさんばあさん」は私も観ました。仁左衛門と玉三郎はほんとに仲の良さそうな夫婦に見えて気持ち良いです。何度見ても、ポロポロと泣いてしまいますね。

5月の團菊祭にはGWの休みを利用して行くつもりです。東京の歌舞伎公演がどうなるのか心配ですが、関西は多くなって楽しみですね。
by mami (2010-02-17 00:38) 

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