SSブログ

12月国立劇場歌舞伎公演 [舞台]

12月20日

0912国立.jpg

今月の演目が発表になって、正直「うへえ~」という感じで観に行くかどうか迷った。なにしろ私の苦手な新歌舞伎の中でも特に嫌いな二演目である。主演が吉右衛門でなければ絶対行かないだろうけど、ファンとしてはやっぱり観ておきたいかなあ、といささか重い足を運んだ。

一・頼朝の死
吉右衛門の頼家、歌昇の畠山重保、芝雀の小周防、富十郎の尼御台政子、歌六の大江広元

青果の作品だが、とにかく最初から最後まで、登場人物が泣いてるか怒ってるかしてる芝居で、観ていてほんとに疲れる。
今回の出演者はみんな台詞も達者で、演劇としては見応えはあるのだが、なにしろくどいというか、鬱陶しいというか、最後まで救いがないのよねえ。
結局、作者としては最後の尼御台の一言、「家は末代、人は一世」を聞かせたくて書いたんだろうなあ。

その御台は富十郎で、これはもうさすがの貫禄。頼家なんて全然頭が上がらないのが、出てきただけでわかる大きさ。長刀を手にしての眼目の台詞も気迫が溢れて、周りを圧する様子がすごい。この一言だけで、この芝居の本当の主人公はこの御台かと思わせる存在感だった。

そんな尼御台を母に持ち、亡き父親の頼朝を思慕する頼家は吉右衛門だが、ちょっとニンじゃない感じ。この役は梅玉の方が良かった。もちろん、いつもながら台詞は明解で、苛立つ頼家の心情をはっきりと描き出してはいるのだが、怒りと苛立ちが全面に出て、頼家の孤独や寂しさ哀しさが幕開きの横顔から立ち上るようだった梅玉には及ばないような気がした。

重保は歌昇で、頼朝の死の秘密を明かせない苦悩を全身に表すしんどい役を手堅く演じて上々。
小周防の芝雀が良い。重保を慕う楚々とした様子が可憐で、何より幕切れ近く、頼家に真実を語ろうとする理由が、前にやった福助だと、秘密を言えば重保に嫁がせてもらえるから、という風に見えたのが、芝雀は言えば重保を救うことになると考えたから、と言うのがはっきりと見えた点が大きい。これで小周防の造形が全然違って見える。そしてそれによって、そんな小周防を斬らねばならない重保の悲劇は一層大きくなった。

二・一休禅師
富十郎の一休禅師、魁春の地獄太夫、愛子の禿
坪内逍遙作。踊り、と言うほどの見せ場もあまりない短い演目。チラシでは墨染めだが舞台では黄色の衣を着た一休さんと、名前の通りどくろに火炎模様という地味派手な打ち掛けの地獄太夫。だがいちばん客席の拍手をもらっていたのは禿の愛子ちゃんで、まがりなりにも一人でちゃんと踊っていた。富十郎も地獄太夫そっちのけで禿に関心が行っているのが丸わかりで、付き合う魁春がちょっと気の毒。この日は富十郎夫人と鷹之資も見に来ていた。

三・修善寺物語
吉右衛門の夜叉王、芝雀のかつら、高麗蔵のかえで、段四郎の春彦、錦之助の頼家、種太郎の下田五郎

岡本綺堂作。これも私にはなんで人気があるのかさっぱりわからない。芸術家の業か何か知らないが、娘の死に際し、死に顔を描く好機とばかりに筆を取る夜叉王の非情さに共感できないからだ。
それでも吉右衛門は、面作師としての誇り高さと、芸術家気質、死に顔を描くのは娘の面影を残しておきたいという愛情もあってのことではないかと思わせる複雑さを見せたのはさすがに立派。

芝雀のかつらと高麗蔵のかえでというのは、ニンから言って逆じゃないのかと思ったが、気位が高く今で言う上昇志向の姉娘を芝雀がきっちりと演じていて、あらためてこの人の演技力に感心した。
一方の高麗蔵も、こちらは素直で孝行心のある妹を好演。
錦之助の頼家に高貴な雰囲気と、寂しさがあり上々。
段四郎の春彦というのはちょっと意外な配役だったが、実直な弟子であり婿の様子があり上手い。
種太郎が頼家の家臣で、達者な立ち回りを見せていた。

しかしまあ、やっぱり見終わってどっと疲れるプログラムだった。「頼朝の死」も「修善寺物語」も、笑うところはもちろんなく、と言って可哀想で涙が出るところもない。「元禄忠臣蔵」ならそれなりにカタルシスを感じられるがそれもなく、やってる方もしんどいだろうなあ、ご苦労様、と言う気分。
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 1

コメント 2

とみた

mamiさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

国立劇場は千秋楽に観てきました。
頼家の吉右衛門さん、まわりの観客も貫禄がありすぎるとか
言ってましたが、私は、すごく好きでした。今まで観た吉右衛門さんの
中で一番良くて、この人は新歌舞伎に会う、さすがに染五郎の叔父さんだ
と思いました。

修善寺物語は去年、大昔の舞台をテレビで見ました。段四郎さんは
あの舞台でお父さんの段四郎がやっていた春彦なんですね。種太郎君の
役は当時二十歳くらいの、今の猿之助。
種ちゃんの立ち回りがかっこよくて、その前少しうとうとしてましたが
しっかり目が覚めました。
by とみた (2010-01-05 12:25) 

mami

とみたさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

吉右衛門さんは口跡がとても良いので、新歌舞伎も優れていらっしゃると思います。
この頼家ももちろん上手かったんです。でもファンとしてはこういういじいじしたお役の吉右衛門さんはあんまり観たくないと言うか(苦笑)。ただの我が儘なんですけどね。

種ちゃんの立ち回り、颯爽としていて良かったですよね!
そろそろ花形歌舞伎か何かに参加して、大きな役に挑戦してほしいです。
by mami (2010-01-05 22:52) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。