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九月大歌舞伎夜の部 [舞台]

9月14日

一・浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)
鞘當
松緑の不破伴左衛門、 染五郎 の名古屋山三、芝雀 の茶屋女お京 
幕が開くと舞台はおなじみの吉原。長唄の三味線が床几に腰掛け、唄の人が後ろに立っているのが珍しい。
花道から松緑、舞台上手から染五郎が笠をかぶって登場。そこで台詞の応酬となるが、それぞれの台詞に南北の180年忌と歌舞伎座さよなら公演が盛り込まれているのが今年らしい趣向。舞台中央へ来てから笠をとって立ち回りとなるが、まあ振りとかがそんなに面白いものでもなく、二人のニンにあった華やかさを楽しむところ。芝雀の茶屋女が出てきて止めにはいるが、せっかく吉原なんだから、茶屋女でなく花魁が出てくればいいのにと思う。

鈴ヶ森
梅玉の白井権八、吉右衛門の幡随院長兵衛
何度観てもこの立ち回りって笑えるよねえ。顔を切られたり、手や足を切られたりする雲助が滑稽で。たぶん文楽の人形のを写してるのだろうと思うけど、よく考えるとかなり残虐なシーンを喜劇的に仕上げてしまう歌舞伎の様式に感心するやら呆れるやら。
梅玉はすっきりした前髪の若衆ぶりがよく似合う。今回は黒の着付け。
立ち回りも面白いが、舞台が俄然締まるのは吉右衛門の長兵衛が登場してからで、一言も発せずに駕籠の中から権八の立ち回りを眺めているだけで何とも言えない貫禄が漂う。そして「お若えの、お待ちなせえやし」からの台詞の名調子がまさに聴き惚れるような気持ちよさ!やってる方も気持ち良いだろうなあ。目だけじゃなく耳も楽しませてもらう歌舞伎の面白さを堪能した。 

二・勧進帳
幸四郎の弁慶、吉右衛門の富樫、染五郎の義経
今年二月に吉右衛門の名舞台で観た「勧進帳」。まさか年内にもう一度やるとは。しかも数を重ねる割には評判の悪い幸四郎の弁慶である。まさか「弟がやったんだから俺にもやらせろ」と言ったわけではないだろうが…。

幸四郎の弁慶ってなんか「普通」じゃない。まず登場して花道で義経に「いかに弁慶」と呼ばれて、普通は「はあ~」と返事するが、幸四郎は声を出さずに目礼だけで済ましたので「えっ!?」と思った。私は何となくこの第一声で、この日の弁慶役者が自分の好みかどうか判るのだけど、それがないなんて(笑)。ここでずっこけて、その上その後のここでの台詞もなんだかフワフワして変なイントネーションで全然心に響かない。5月の富十郎なんてここでもう泣かされたのに。
その後もその変な調子は続いて、勧進帳の読み上げも、富樫との問答も、なんか変。どこがどう、とはっきり言えるほど詳しくないけど、他の役者とは違う感じがつきまとう。こういう演目で独自色を出されても困るんだけど。
やっと面白くなるのは、一度引っ込んだ富樫が酒を持って現れて、その酒を飲んで踊るところから、と言うのは後半やっと調子が出てきたからではなく、ここが富樫も義経も相手にせず、一人舞台になるからじゃないのか。相手とのアンサンブルを気にせずに自由にやれるところは個性を発揮されてもこちらも気にならないと言うこと。
大きさがないとは言わないが、溜飲の下がる気持ちよさのない弁慶だった。

対する吉右衛門の富樫は、懐の深い二枚目ぶり。弁慶の時とは全く違う声色で気品ある様子がさすが。弁慶との問答などいかにも切れ者の能吏の様子で緊迫感があり、舞台を大きくした。でもあの弁慶相手ではやりにくかろう。終わり近くの弁慶が酒を飲むくだり、じっと見ている富樫がなんだか呆れているように見えたのは私だけ?(苦笑)

染五郎の義経は品と憂いある風情が似合い。「判官御手を」の場面の情のある様子も良い。どうかお父さんじゃなく叔父さんの弁慶を見習って欲しい。

三・松竹梅湯島掛額(しょうちくばいゆしまのかけがく)
吉祥院お土砂
櫓のお七
福助のお七、吉右衛門の紅屋長兵衛、錦之助の吉三郎、東蔵の母おたけ、歌六の釜屋武兵衛、歌昇の十内
始めの「お土砂」の場は喜劇で、アドリブのギャグが入ったりしていつも楽しい。吉右衛門が喜劇をやるのは比較的少ないが、この紅長さんは持ち役で何度もやっていて本人も楽しそう。でも「ポ~ニョポニョ」っていくらなんでも去年のネタですよ~(苦笑)。今回は錦之助が「慶應ボーイでプレイボーイで」といじられていた。最後のお土砂をみんなにかけまくっちゃうところは、黒衣やつけ打ちさんまで芝居気たっぷりで大笑い。
錦之助が色男のお小姓でニンにあった様子。
東蔵のおたけも娘に甘いおかみさんの風情。
長沼六郎の桂三が無理のない三枚目ぶりで好演。丁稚の玉太郎が可愛い。

福助は吉祥院では世間知らずのお嬢さんで、吉三郎恋しいだけのちょっとお馬鹿さんぶりが上手い。
櫓のお七での人形振りがなかなかの熱演で、面白く見せた。普通の踊りより変なところに気を配らないといけないからかえって大変だと思うが、いかにも人形らしく、でもやっぱり生身の人間がやっているというさじ加減がいい按配で、表情のない中にもお七の狂気が見えるような、不思議な瞬間だった。
この場の雪がどんどん降ってくるところはいかにも歌舞伎らしい様式美があって美しかった。
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