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六月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

6月22日 歌舞伎座

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金太郎ちゃんの初舞台がニュースで流れたりして、歌舞伎に興味のない友人にまで「今月は見ないの?」などと聞かれる。高麗屋の三代揃い踏みばかり話題だが、よく見れば松嶋屋、成駒屋、加賀屋も三代揃って出ている珍しい今月の歌舞伎座である。

一・正札附根元草摺
松緑の曾我五郎、魁春の舞鶴
ああ、やっぱり松緑のこういう役はよく似合って良いな。隈取りもよく合っているし、踊りもきっぱりとした力強さ、若々しさが見えて立派。
魁春もはんなりとした色気があり、美しく、向こう見ずな五郎を引き止める大人らしい様子も見えて良い。

二・双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)  角力場
幸四郎の濡髪長五郎、吉右衛門の放駒長吉、染五郎の山崎屋与五郎、芝雀の遊女吾妻、錦吾の茶店主人
吉右衛門がさすがに上手く、若々しく、純なまだあどけなさの残る長吉を見せる。前半の、濡髪に勝って有頂天な様子に可愛さがあり、後半勝ちを譲られたと知った腹立ち、恥ずかしさ、濡髪の話に納得のいかない一途さが刻々と変わる表情から見えて、長吉が可哀想で仕方なかった。

一方の幸四郎の濡髪はさすがに貫禄も大きさもあり、重厚な関取の様子を見せる。だがあのメークのせいもあってなんだか悪役みたいなんだなあ。他の役者は濡髪でああいう薄隈みたいなメークをしないと思うんだが。ここでの濡髪はお主への義理から放駒にわざと負ける律儀な人柄を見せないと、後段へつながっていかない。なのに幸四郎だと、年も格も上の濡髪が放駒を脅してるみたいに見えてしまう。この幸四郎の濡髪が「引窓」に出てくるのを全く想像できない。

幸四郎がそんなだから、後半の吉右衛門とのやり取りも、なんだかすれ違ってしまってる感があり、期待したほどの舞台にならなかったように思う。

染五郎の与五郎には柔らかみはあるが、もう少し力の抜けた可笑しさが出れば。
芝雀の吾妻がさすがに色気のある様子。吉之丞と歌江の仲居が付き合うのもごちそう。

三・蝶の道行
福助の小槙、梅玉の助国
文楽では観たことがあったが、歌舞伎では初見。
福助の小槙は綺麗だが、初めの衣装が黒地のせいと色っぽすぎるのとで、武家娘の精じゃなくてまるで芸者みたいなのは何とかならないんだろうか。
梅玉の助国はさすがにきちんと行儀の良い様子。
なので、二人の雰囲気がまるで合ってなくて、おやおやと思ううちに終わってしまった。

衣装も文楽に比べると豪華で華やかだが、中の縞地のはあんまり趣味が良いとは思えないし、最後のも文楽のモノクロの方がいかにも地獄の責め苦にあっている、という様子で話に合っているような気がした。
こういう踊りの演目で、文楽の方が良いと思うことはほとんどないのだが、これは例外らしい。

四・女殺油地獄
仁左衛門の与兵衛、孝太郎のお吉、梅玉の七左衛門、歌六の徳兵衛、秀太郎のおさわ・小菊、梅枝のおかち

今月、金太郎の初舞台以上に注目なのは、この仁左衛門一世一代の与兵衛。
期待に違わず、いやそれ以上に凄いものを見せてもらった。
いつも若々しい人だから、若い与兵衛を演じて全く違和感がないのはもちろんだが、とにかく一つ一つの表情や仕草が与兵衛の内面を手に取るように表していて、余すところがない。序幕での無鉄砲できかん気で、その実臆病者の様子。二幕目での親の意見など全く聞く気のない暴れ者で我が儘放題な姿。それらをちょっとした目つきや口許の歪め方で見せていく。
そしてなんと言っても眼目の豊嶋屋内でのお吉とのやり取り。「不義になって貸して下され」と言うところのゾッとするような目つき、そしてついにお吉を手に掛けてからの、仁左衛門曰く「猫が鼠をもてあそぶような」常軌を逸した楽しげな顔つき。歌舞伎で殺しの場面はいくらでも観てきたが、これほど鳥肌が立つような怖さを味わったのは初めて。
そして最後にお吉が息絶えると、また小心者の顔に戻ってがたがたと震えながら逃げていく、与兵衛の弱さ危うさ。
全ての表現をきっちり計算しているはずなのに、全く自然に見える仁左衛門の凄さに改めて感じ入った。
ご本人は「若い人のエネルギーで見せる役」と言うが、それだけではこんな役作りはとても出来ない。まあ、あの殺しの場は体力は要りそうだが、出来ることなら一世一代といわず、まだまだ見せてほしいものである。

孝太郎のお吉に、きちんとしたお店の世話好きな女房らしい風情があり、仁左衛門と並んで「親子」には見せなかったのは立派。
継父の徳兵衛は、本来なら我當で観たいところだったが、歌六が義理堅く、継子に遠慮する優しさ弱さのある父親を見せた。
秀太郎のおさわも気丈なようで息子を見捨てられない母の辛さを見せてさすがに上手い。
梅枝のおかちが行儀良く素直な様子で好演。

終盤はまさに手に汗握る感じで観ていたので、終わったらなんだか「はあ~」という感じでちょっと疲れてしまった(笑)。

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