SSブログ

壽初春大歌舞伎・夜の部 [舞台]

1月19日 歌舞伎座
この正月公演から来年にかけて、いよいよ現在の歌舞伎座が取り壊される前の「歌舞伎座さよなら公演」と銘打った興行が行われる。その第一段としての今月の初春公演は、顔見世並みの顔ぶれと演目が並んだ。ちなみにチケットの値段も顔見世並み。

一・壽曽我対面
吉右衛門の曽我五郎、菊五郎の十郎、幸四郎の工藤祐経、魁春の舞鶴、芝雀の大磯の虎、菊之助の化粧坂少将、染五郎の近江、松緑の八幡、梅玉の鬼王
いや~、びっくりした。吉右衛門の五郎である。配役を見たときも驚いたけど。失礼だがこのお年(64)で五郎ってどうなの、と内心思ったがとんでもない。まず登場前の揚げ幕の中から聞こえる声の力強さ。花道を出てくるときの勢い。常に工藤に挑みかからんとする、気迫みなぎる姿。どれを取っても超一流の五郎、どんな若手もかなわない立派さである。とにかく、表情はもちろん、頭の先から足の先までずっと力が入っているようで、どこかの若旦那みたいに眼力だけ効かせているのではない。声もずっと血気にはやった若者らしい朗々たる高音を響かせる。あまりの迫力に呆気にとられてしまうようだった。
横で八幡の松緑が食い入るように見ていたのが印象的だった。きっと後々自分がやるときに生かすことだろう。
お年を考えても、吉右衛門はもう二度と五郎はやらないだろうなあ、と思ったら、思わず初めて舞台写真を買ってしまった(笑)。いやいや、このお元気さなら、来月の弁慶も楽しみである。
舞台写真.jpg
菊五郎の十郎もさすがに品良く落ち着きがあり、吉右衛門との釣り合いもとれた立派な様子。思えば当代の菊吉の組み合わせを観るのはかなり久しぶり。もっとたくさんの舞台を見せて欲しいものだ。

幸四郎の工藤は、初めこそいつもながらのもごもごとした口跡が気になったが、だんだん普通になってきて、大きさを見せてさすがに存在感を示した。でもきっと、この人の中ではこういう時代物の様式で見せる役は得意ではないんだろうな。なにしろ幸四郎の好きなリアルさとはいちばん遠い役柄だから。

魁春の舞鶴はやや線が細いが、まずまずというところ。
芝雀と菊之助が美しく花を添えた。
他も豪華な顔ぶれが揃って、まさに壽な大舞台となった。

二・春興鏡獅子
勘三郎の弥生後に獅子の精
勘三郎の踊りはやっぱり上手い。一時期よりはさすがに切れが落ちた気もするけど、前と後と、両方これだけ見せられる人は今のところ他にいないと思う。
前シテの弥生としては大奥の小姓らしい品と可愛らしさがあり、踊りも体の柔らかさを生かしてしっとりとこなしていく。二枚扇の扱いなど、昔はこれ見よがしな感じもしたがそういうあざとさが薄くなってかえって良くなった感じ。
後シテの獅子の精としても、毛振りこそ以前の豪快さが減ったが、凛々しさと気迫もあって十全な出来。
胡蝶は千之助と玉太郎。こんなに小さいのに偉いねえ、といつも子役の胡蝶の精には感心するが、この二人もよく頑張りました。可愛かった~。

三・鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)
勘三郎の猿源氏、玉三郎の蛍火、彌十郎の海老名なむあみだぶつ、染五郎の博労六郎左衛門、亀蔵の藪熊次郎太、東蔵の亭主
三島由紀夫作というのが不思議なほど、他愛もないといえば言えるような喜劇である。あの三島なら、青果顔負けの新歌舞伎を書きそうな気がするけど。
勘三郎と玉三郎は再演を重ねているだけあって、すっかり手に入った様子。特に勘三郎の可笑しさはちょっと他の人には真似できないもので、これだけ観客を笑わせることができる歌舞伎役者は今いないだろう。問題はそれが芸なのか、ただ勘三郎のキャラなのか、というところではあるが、こういう芝居でそれを言ってもしょうがない気がする。でも自分のギャグに自分で笑うのはやめていただきたい。

玉三郎はさすがに傾城らしい艶やかさと、実はお姫様という品を併せ持った美しさで見せる。この人が客を笑わせる役なんてほんとに珍しい気がするが、鰯売りのかけ声など実に楽しそうに言っていて可笑しい。
染五郎はこういう三枚目はちょっと苦手そう。
彌十郎と亀蔵は手に入った風情。
まあ、あまり堅いことは言わずに、正月公演の打ち出しらしく、笑って楽しく劇場を後にできたからいいか、という芝居ではある。
nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(2) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 2

anan

はじめまして。歌舞伎をはじめ、いろいろお詳しく、また批評も的を得ていて素晴らしいです。自分の書いたものと比べ、恥ずかしく思います。
私もお正月の歌舞伎座夜の部を見ました。自分のブログで壽曽我対面を書かなかったのは、吉右衛門の立派さに対し、幸四郎の口跡の悪さが気になり、その辺をどう表現したものやら、と思ってしまったのです。また菊五郎も、おっしゃるように抑えていたのかも知れませんが、なんだかオーラが失せてしまったような気がして…。
でも吉右衛門が素晴らしかったので、来月の弁慶は絶対見に行きたいです。
これからも拝見させていただきます。よろしくお願いいたします。

by anan (2009-01-22 20:35) 

mami

ananさん、はじめまして。ようこそお越し下さいました。
過分なお褒めのお言葉、ありがとうございます。かえって恥ずかしいです。専門的なことなどわからずに、勝手に思ったことを書き綴っているだけなんです。

吉右衛門さんの五郎はほんとうに素晴らしかったですね!
菊五郎さんの十郎は、ここは吉右衛門に花を持たせた、というところではないでしょうか。
二人にひきかえると幸四郎が見劣りしてしまった感は否めませんね。

またどうぞお寄り下さいませ。こちらこそよろしくお願いします。
by mami (2009-01-22 23:47) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。