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吉例顔見世大歌舞伎・夜の部 [舞台]

11月10日 歌舞伎座

一・寺子屋
仁左衛門の松王丸、梅玉の源蔵、藤十郎の千代、魁春の戸浪、段四郎の玄蕃、孝太郎の園生の前、松江の涎くり

今月の歌舞伎座は昼夜とも仁左衛門が大車輪というところ。先月の平成中村座に引き続きのご活躍はファンとして嬉しい。
仁左衛門の松王丸は久しぶりかも。いつもながら端正できっちりとした役作りの中に、情のこもる様子が十分で暖かい。前半の見所首実検では、あまり過剰な思い入れをせず、意外に淡々と首桶を開けて進むが、それでもちゃんと松王丸の苦悩と悲痛は伝わるのが上手さだろう。下手ほどここを大仰にやってしまうもの。でもこの人らしさが出るのはやはり後半で、犠牲となった子を思いやり、千代をいたわり、先に死んだ桜丸を悼む、その悲しさに思わず落涙するところは圧巻。仁左衛門、本当に泣いていた。

千代は藤十郎で、さすがに子供を思う母の情が溢れて哀れを誘う立派な出来。

対する梅玉の源蔵も立派。菅秀才を守るためには人の子を身代わりに手に掛けるのも仕方ないと思い極めながらも、やはり思い迷う苦悩が「せまじきものは宮仕え」の一言に凝縮された。
魁春の戸浪も源蔵とともに苦悩し、真相がわかってからは松王丸夫妻へのいたわりを十分に見せて上々。
全体に非常に行儀の良い舞台で、気持ちよく泣かせてもらえた。

二・船弁慶
菊五郎の静御前・知盛の霊、富十郎の義経、左團次の弁慶、芝翫の舟長
前に菊之助がやったのは見たことがあるが、菊五郎のこの役を観るのは初めてだと思う。前半の静御前が、この「船弁慶」の静としては他の人より色っぽい感じ。普通は、能掛かりなので、義経と別れるのが辛いと言いながらももうちょっと文字通り能面のような無表情なのだが、菊五郎のはもちろん顔の表情が大きく動くわけではないのに、何だかすごく生々しいというか、変な言い方だが人間くさい静のような気がした。玉三郎などとは対照的とでもいうか。
知盛の例となってからは動きも大きく長刀の扱いも鮮やかで立派だった。

富十郎の義経はさすがに存在感があり、気品もあり、まったくお年を感じさせない若々しさはこの人らしい。知盛の霊が現れたときの「その時義経少しも騒がず」の声の朗々として力のみなぎった様子の素晴らしかったこと!

弁慶は左團次でそつなくこなしていて、四天王は松江、種太郎、萬太郎、尾上右近と若手が揃ったのに対し、舟長が芝翫で舟子が東蔵、歌六、團蔵というのはたぶん今まで見た中で平均年齢がいちばん高い(笑)、めずらしい顔ぶれかも。さすが顔見世と言うべきか。

三・八重桐廓噺 
時蔵の八重桐、梅玉の源七・実は時行、歌昇のお歌、錦之助の太田十郎、梅枝の澤瀉姫、孝太郎の白菊
当代の祖父三代目時蔵の五十回忌追善狂言。2階のロビーには写真や縁の品が展示されている。兄の初代吉右衛門、弟の先代勘三郎との写真もあり、ああそうか、と改めて歌舞伎界の血のつながりに思い至る。

時蔵はいつもながら上品な色気があり、夫との思いがけない再会に腹を立てた様子も可愛げがある。眼目の「しゃべり」のところは、他の人はどうだったか覚えていないが、義太夫との掛け合いで時蔵がしゃべる部分は思ったより少なくちょっと肩透かし。時行の魂が体内に入って超人的な力を得ての花四天との立ち回りも勇壮と言うのではなくてあくまで女形らしい美しさで見せるのがこの人らしい。最後はぶっ返りとなって幕。

時行は梅玉で、前半の煙草売りとしてが上方の男らしいはんなりとした面白さ。十郎を煙草責めにして追い払うところなど可笑しい。時行とあらわれてからは武士らしいきりっとした様子も見せ、さすがに幅の広い梅玉らしい出来。

孝太郎の白菊に、武家の女らしい芯の強そうな凛とした様子があり上々。

歌昇、錦之助、梅枝と萬屋一門が追善らしく顔を揃えたが、梅枝のお姫様はともかく、歌昇のお歌、錦之助の十郎ともにいささか真面目で三枚目の面白さが今ひとつ。萬屋の面々はあまり受け狙いをするようなのは苦手なのかも、などと思った。まあ、過ぎたるは及ばざるがごとし、とも言うし、行儀がいいのは悪いことじゃない。

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