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「大老」 [舞台]

10月27日
国立劇場十月歌舞伎公演「大老」千秋楽

大老2.JPG

吉右衛門の井伊直弼、梅玉の長野主膳、魁春のお静、段四郎の仙英禅師、歌六の水戸斉昭・古関新一郎、芝雀の昌子の方、東蔵の宇都木六之丞、歌昇の古関次之介

北条秀司の新歌舞伎の大作「大老」を北条の十三回忌追善として上演とのこと。
桜田門外の変前夜を扱った「井伊大老」は前に見たことがあるが、これはそれを膨らませて、井伊直弼の若き日から暗殺までを描いたいわば大河ドラマ。

序幕とも言える第一幕では、まだ若い部屋住み時代の直弼の、自ら豆腐を買いに行くようなつつましい、しかし穏やかなお静との暮らしぶりが描かれ、後半生との対称をなす。
続く第二幕からは既に大老職に就いた直弼の苦悩、対抗する水戸藩士らの苛立ち、お静や昌子の方の心配などを見せながら、時代の大きなうねりの中に巻き込まれていった人々を描いていく。

吉右衛門は、直弼を傑出した英雄ではなく、悩み戸惑い、苦悩しながらも自分の信念を貫いた男として表出してさすがに立派。序幕埋木舎の場でもう少し若々しい意気盛んな風が見えても良いような気もしたが、大老となってからは政治家としての理念に背かず、といって冷徹でもない、家族も愛する暖かい男の大きさを見せた。こういうお殿様役が本当によく似合う。

魁春のお静が、出自が低い故に大老の側室という立場になじめない悲しさと、それ故なお一層直弼を愛する心優しい女性を可愛らしさを持って演じて秀逸。死の前夜の雛祭りの場は、悲しみに覆われながらも直弼とお静が深く理解し合った様子が不思議に暖かく、涙を誘った。

梅玉の長野主膳が学者としての聡明さ、官吏としての冷徹さを見せて立派。
段四郎の禅師に飄々とした味わいがある。序幕でのメークがまるで達磨大師みたいだった。
歌六は水戸斉昭として癇の強い老公ぶりを見せ、新一郎としては落ち着きのある、弟思いの雰囲気があり上々。
歌昇は血気にはやる、しかし気性の真っ直ぐな青年。

芝雀は、おっとりとしたお姫様育ちの正室を嫌味なく演じた。でもこの昌子の方の言葉遣いがちょっと不思議。お静に向かって「お茶を飲んでいかない?」とか、この人だけ妙に現代風。これは北条のせいなんだけど何だか違和感があった。
劇中、昌子が「娘道成寺」を踊る場面があり、そういえばこの人のはまだちゃんと見たことがないなあと思った。

今回は初演時よりはかなりカットをしたそうだがそれでも長大な作品。う~ん、でもやっぱり新歌舞伎って好きになれない。上手く言えないけど、歌舞伎じゃなくて演劇なんだな~、と思う。つまり、歌舞伎役者じゃなくてもやれそうな感じ。

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コメント 2

TaekoLovesParis

ご訪問いただきありがとうございました。
新歌舞伎、どんなのかな、と思っていたのですが、ていねいに感想を書いてくださっているので、ようすがよくわかりました。
<お茶を飲んでいかない?」>
→これを芝雀が言うのでは、とっても違和感ありますね。
私は道成寺が好きなので、結構いろいろな人のを見ていますが、芝雀の
なかなかよかったですよ。
by TaekoLovesParis (2008-11-02 23:47) 

mami

TaekoLovesParisさん、こんばんは。
こちらこそありがとうございます。先日はご挨拶もせず失礼いたしましたが、いつも展覧会の記事など読ませていただいています。とても詳しくて参考にさせていただいています。

新歌舞伎はちょっと苦手なので、これも吉右衛門さんの主演でなければ行ったかどうか(苦笑)なのです。
芝雀さんの「道成寺」をご覧になったことがあるんですね!先日のはほんのさわりだけでしたので、ぜひちゃんと拝見したいと思いました。
by mami (2008-11-03 18:59) 

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