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芸術祭十月大歌舞伎・夜の部千秋楽 [舞台]

10月26日 歌舞伎座

先日、歌舞伎座の建て替えがついに正式に決まったというニュースがあった。
遺跡ではなく、現に商業施設として使用されている以上、安全性や快適さが求められるのは当然なので仕方ないことだろうが、ちょっと寂しい気がするのは事実。私のように歌舞伎座に通い初めて10年足らずの者でもそう思うのだから、建てられた頃から通っておられるような方はなおさらだろう。
間もなく閉館になる大阪のフェスティバルホールの建て替えが発表されたとき、山下達郎さんが「ああいう由緒あるホールには音楽の神様が棲んでいるんだから壊しちゃ駄目」と言ったそうだが、それなら歌舞伎座にも歌舞伎の神様がきっといるはずだ。ちゃんと新しいところに移り住んで下さるよう祈るほかないか。

十月ももう月末で、この日は千秋楽。

一・本朝廿四孝
 十種香 
 狐火
玉三郎の八重垣姫、菊之助の勝頼、福助の濡衣、團蔵の謙信、松緑の白須賀六郎、権十郎の原小文治

玉三郎の八重垣姫が20年ぶりとはちょっと意外。今いちばん当たり役に出来そうな人なのに。さすがに赤姫の拵えが溜息が出るほど美しい。気品も十分で、始めに勝頼を思って嘆く様子に哀れみがあり、簑作を見て驚きつつも恋に突進していく様子を情の溢れる、さりとて品を落とさずに見せたのは立派。濡衣が「実はこれは勝頼様」と明かしたところで、やっぱりそうか、と思いながら嬉しいようなでも恥じらう様子を見せたところに、お姫様らしい可愛らしさがあって魅せた。

菊之助の勝頼も落ち着きと品があって美しく、女二人のやり取りを中央でほとんど動かずに聞いているだけなのだが、常に話の中心にいることを意識させるだけの求心力のようなものを感じさせたのは立派。
福助は前半は行儀良く勤めていたが、終盤八重垣姫と勝頼が寄り添ったところで、上手に移って扇でぱたぱたやるところが何だか下司っぽくなってしまったのは残念。
松緑が切れの良い動きで元気の良いところを見せた。

続く狐火の場では、チラシなどでは八重垣姫は人形振りと言うことだったが、実際にはそうではなく、演出を変えた模様。人形遣いとして名前が載っていた右近は、従って狐の人形を持って出ただけになってしまったのはちょっともったいない気も。

ここでの八重垣姫はまず藤色の着物で登場、狐の精が乗り移ってから引き抜きで白の着物に変わるのだが、印象があまり鮮やかに変わらずもったいない感じ。
玉三郎はここでも勝頼を慕う一途な様子を見せるが、情念や狐が憑いた激しさなどはあまり感じられない。

この場面、照明が明るすぎる。狐火が出ても全然目立たないし、幻想的な夜の雰囲気がまったく伝わらないのはなんとかならないのかしら。

二・雪暮夜入谷畦道 直侍
菊五郎の直次郎、菊之助の三千歳、田之助の按摩丈賀、團蔵の丑松

実は生の舞台で観るのは初めて。菊五郎の当たり役の一つと言うことで楽しみにしていた演目。
花道の登場から、いかにも寒そうな素振り、雪の中を歩く様子などに、ご家人崩れの江戸っ子らしい粋な雰囲気がさすがに菊五郎らしい。蕎麦を食べるシーンなど、この後蕎麦を食べたくなった人がいっぱいいるだろうなあ、などと感じてしまう。
三千歳とのやり取りにも、相手を思いやる情があって、お尋ね者とは言え根が悪いのではない、気の良い男の雰囲気があって上々。
菊之助の三千歳も、はんなりとした色気があって、死んでも直次郎とは別れないと言う一途さ、可愛さがあってなかなかの出来。
田之助の丈賀に何とも言えない飄々とした、暖かい味があって、さすがの存在感。

この後半の寮の場面では、舞踊のように浄瑠璃が舞台上で演奏されて、歌詞が義太夫のように場面のナレーションになっているのが珍しく面白かった。

三・英執着獅子
福助の傾城後に獅子の精

先月時蔵のやった「枕獅子」に似た趣向の獅子物。
福助は、始め紫の病鉢巻をした傾城姿がさすがに美しく艶やか。
後半獅子の姿となってからは赤い毛の鬘で、石橋物には珍しく出てきた四天をあしらいつつ、最後は毛振りも見せたが、これがまたかなりの回数を回していた。一度しか見ていないが、おそらく千秋楽だから普段よりたくさん回していたんではないだろうか、鳴り物の人たちが「まだ?」という顔で合図を待っていたように感じられてちょっと可笑しかった。まあ、回数が多ければ良いってものでもないんだろうが、とりあえずはよく頑張りました、という感じ。
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