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芸術祭十月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

10月5日 歌舞伎座

一・恋女房染分手綱 重の井
福助の重の井、小吉の三吉

俗に「重の井の子別れ」と呼ばれる名作。文楽では前に半通しのような形での上演を観たことがあるが、歌舞伎ではこの場以外はない。この場だけだと、重の井が三吉の父と別れた理由などが、重の井の述懐によっておぼろげに察せられるだけなので、重の井のただ乳母としての体面を保たなければならないだけではない、主人への恩や義理を立てねばならない辛い立場がいささか理解しづらいかもしれない。

福助では3年ほど前にも見ているが、前よりずっと良くなっていたように思う。
今回特に良かったのは、大名家の乳人としての品と母親としての情の揺れが自然で、どちらに偏りすぎることなくいい按配に保たれていたこと。いつも何かというとやりすぎの福助だが、三吉が我が子と知っての驚きや、名乗りあえない辛さなど程良く出して上々の出来。

小吉も素直な演技で子役の大役を良く勤めた。健気でいじらしい様子があり、重の井が与えようとした金を突き返す誇りも見せ、幕切れの馬子唄も義太夫との掛け合いを懸命にやって泣かせた。
通称「いやじゃ姫」こと調姫は片岡葵。誰か松島屋のお嬢ちゃんかしら、こちらも一生懸命で微笑ましい。
全身赤ずくめの家老本田は家橘。珍しい老け役だが好々爺の雰囲気で和ませる。それにしてもいつ見てもあの衣装には笑える。

二・奴道成寺
松緑の左近
「娘道成寺」の花子を男の狂言師に置き換えて踊る立ち役の舞踊。去年だったか三津五郎で見ている。
松緑は、はじめの部分で動きが硬いような気がする。爪先で拍子を取るところなど妙にカクカクとした動きなのだが、あれはわざとだろうか?
男と顕わしてからは軽快な動きで見せ場を作っていく。踊りとしてはまずまずなのだが、三津五郎のような面白味がないのは、おそらく松緑に余裕がないからだろう。面を次々に取り替えていくところなど、手順に追われていっぱいいっぱいと言う雰囲気があり、ちゃんとこなしてはいるが観ていて「おお~」と歓声が上がるところまでは行かない。ま、まだ初日から間もないのでこれから千秋楽に向けて頑張ってほしい。

終わりには花四天が出てきて、花道で「とう」尽くしだが、今日は「納豆」「ヨーグルト」「ポカリスエット」など食べ物ネタが多かったのは偶然?

三・魚屋宗五郎
菊五郎の宗五郎、玉三郎のおはま、権十郎の小奴三吉、菊之助のおなぎ、團蔵の太兵衛、左團次の浦戸十左衛門、松緑の磯部主計之助
このところ、勘三郎、幸四郎と続いたが、やっと本家本元の登場と言う感じ
菊五郎の宗五郎が悪かろうはずはなく、始めの抑えた様子から、ついに酒に手を出して人が変わって暴れ出す様子への変化を無理なく描いてさすがに巧い。酒を飲み出してからのテンポの良さが小気味よく、いかにも江戸っ子の風情。
磯部屋敷に乗り込んでからも、酔いが醒めてからの様子に滑稽さ軽さがあり最後まで気持ちよく見せた。やっぱりこういう役は菊五郎がいちばん。

玉三郎初役というおはまは、無難にやってはいたが、まだ菊五郎との息がぴったりと言うところまではいかず、運びの調子が今ひとつ。そう言えば菊五郎と玉三郎の共演って比較的珍しいのかも。
良かったのは権十郎の三吉。いかにも下町の気のいい男の雰囲気が良く出て、場を盛り上げて上々。
菊之助のおなぎは行儀良い雰囲気。
團蔵の太兵衛はもうちょっと老け作りでも良いか。
左團次の家老は手に入った様子で十分、松緑の殿様も癇性な雰囲気だが素直に宗五郎にわびる様子が気持ちよく立派。

四・藤娘
芝翫の藤の精
芝翫の傘寿の記念という舞台。真っ暗な場内にチョンパで明かりがついて、その華やかさに声が上がるのは誰がやっても同じかもしれないが、この芝翫の可愛らしさはどうだろう。とても80歳とは思えない。あえて美しいとは言わない、愛らしいのである。芸の力とはすごいと思うのはこういう時だ。80歳の老人が娘になりきることができる、その力。踊りそのものは、正直に言えばもう動きも流れるようにとはいかず、たどたどしささえ感じる場面もなくはなかったが、そう言うことを超越して、ただ芝翫が藤娘を踊るのを目にすることができる眼福を喜びたい。
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