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平成中村座「仮名手本忠臣蔵」Aプロ [舞台]

10月6日

浅草寺裏手に作られた仮設小屋で演じられる平成中村座。5年ぶりと言うことだが、私は初めて。
出入り口が狭いので、入退場時は大混雑。靴を脱いで入るので、これから行かれる人は、絶対にブーツや紐靴などはお避けになった方が良いと思う。今日は特に雨も降っていたので、傘立てに人が群がってちょっと大変だった。
建物自体は仮説なので窓もない簡素な作り。ここで大地震があったら終わりかも、などとちょっと思ってしまった。
また完全防音でないので、外で大きな音がするとかすかだが聞こえる。今日など一時激しい雨の音も感じられ、もしも来月総選挙になったら、絶対選挙カーの騒音が入るだろうなあ、と心配になった。
とは言え、そういうことも全部ひっくるめて、昔ながらの芝居小屋の雰囲気を楽しむ、という風におおらかに考えるべきなのだろう。
特筆しておきたいのは、スタッフの感じの良かったこと。若い人が多かったが、案内やゴミ集めなどもとても一生懸命にやっていて気持ちよかった。休憩時間にトイレに長蛇の列ができても、「この最後尾でも10分以内に必ず順番になりますからご安心下さい!」などと言ってくれて親切。なんとしてもこの「平成中村座」を盛り立てよう、成功させよう、という意気込みが感じられてうれしくなった。芝居小屋を作っているのは役者だけではないとあらためて感じさせてくれた。

中に入ると、いかにも昔の芝居小屋を模したようなこじんまりとした作り。一階前方は桟敷席になっていて座椅子が並べられ、後方は椅子席。前でかぶりつきで見るのにも惹かれたが、やっぱり足腰に負担がかかりそうなので椅子席にした。

今月の演目は大作の忠臣蔵。それもただ通しでやるのではなく、上演する段、配役を変えて4つのプログラムを組むというもの。A,Bがいわば普通の通し、Cは本蔵一家を中心とした筋、Dは若手の挑戦、といったところか。
全部観たいところだが、お財布の事情もあり、ABCだけにして、今日はまずAプロを拝見。

仮名手本忠臣蔵
大 序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
三段目 足利館表門進物の場
       同 松の間刃傷の場
       同 裏門の場
四段目 扇ヶ谷塩谷判官切腹の場
       同 表門城明け渡しの場

仁左衛門の由良之助、勘三郎の塩谷判官、橋之助の高師直、孝太郎の顔世御前、勘太郎の桃井若狭之助・早野勘平、七之助の足利直義・おかる、彌十郎の石堂、亀蔵の薬師寺、新悟の力弥

「忠臣蔵」通しの慣例通り、幕開き前に人形による配役の紹介の後、47回の柝の音にのって幕が開く。歌舞伎座と違って舞台の間口が狭いので、並び大名の数が少ないのは仕方ないところ。それ以外は後の段まで特に「中村座」らしい演出もなく、普通通りだったようだ。

この顔ぶれで義太夫狂言の大作中の大作「忠臣蔵」をやるというのはかなりな冒険と思われた。歌舞伎座でも同じ役をやれそうなのは仁左衛門と勘三郎くらいだし。つまりは、Dプロ以外でも初役の多い挑戦の舞台ということ。

中でも橋之助が師直というのはちょっと気の毒かと思われたが、かなり声を低めにしてなんとか老け役敵役の形はできていた。意図的かどうかはわからないが、特に大序では色気が感じられたのが年甲斐もなく顔世に言い寄る師直の性根として意外にはまっていて面白かった。ただところどころで大きく口を開けて決まるのは、文楽を意識してのことかと思うが、生身の役者でやってはあまりに戯画的に感じられて品がない。三段目の判官いじめは若いだけに逆に迫力があって、年配の役者がやるのとは一味違う面白さがあった。

勘三郎の判官ははまり役。一度この人で観たいと思っていた。この人にしてはかなり抑制の効いた演技で、大名らしい品を落とさず、師直に侮辱され怒りを耐えかねた様子を上手く見せ、切腹の場での無念さもじっくりと見せて上々の出来。

顔世は孝太郎。気品があり、おっとりとした雰囲気は大名の御台らしく、四段目での悲痛も良く出てなかなか。

Aプロでいちばん目を引いたのは勘太郎のがんばりではないだろうか。
まず若狭之助としては、血気にはやった若者の雰囲気を良く見せ、特に三段目で師直を斬りつけようとするところの勇んだ様子から、「馬鹿な侍だ」の捨て台詞まで一気呵成に演じて見せて立派な出来。
「裏門」での勘平としては、「色にふけった」色男ぶりは弱いが、失態に狼狽しながらも判内をあしらう様子に颯爽とした二枚目の味がありなかなか。

七之助は直義としてはまずまずだったが、おかるとして勘平を慕う一途さが出たのは何より。課題の色気もだいぶ出てきたようだ。
彌十郎の石堂、亀蔵の薬師寺はいささか大きさが足りないが、まあ勤めは果たしていた。
新悟の力弥はお小姓らしいか細さは似合いだが、ちょっと襟を抜きすぎでは。

最後にやっと登場した仁左衛門は、やはりさすがに格の違いを見せつけた感があり、この人が出てきた途端空気が一変したような気がした。判官の無念を受け止める懐の大きさ、評定で家士をまとめる統率力、そして幕切れの長い長い、台詞すらない一人舞台を最後まで観客を惹き付ける求心力、どれを取っても不足のないそれは立派な由良之助だった。
東京では他に播磨屋を始め由良之助役者がたくさんいて、なかなか仁左衛門で観ることができないが、これを見てますます「七段目」が楽しみになった。


浅草寺



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