SSブログ

国立文楽劇場文楽公演千秋楽 [舞台]

8月9日観劇

大阪の国立文楽劇場に足を運んだのは9年ぶりくらい。例年の夏休みの日程だとこの夏公演が終わった後なのだが、今年はイベントの関係で少し早い休みになって、ぎりぎり千秋楽を観ることができた。
先日は、綱大夫と清治が人間国宝に選ばれたニュースもあり、文楽ファンとしては嬉しいところ。

夏公演は例年三部構成。第一部は子供向けなので第二部と第三部だけ拝見。

第二部 名作劇場
平日の昼とは言え、千秋楽なのに空席が目立つ。大阪では文楽は集客に苦労しているという噂は聞いていたが、かなり深刻なようだ。東京公演は平日でもチケットが取りにくいくらいなのに。文楽は大阪が本場なのだから、がんばってほしいなあ。

夏の興行らしく、出演者はみんな白の着物で見た目にも涼しげなのが嬉しい。

一・鎌倉三代記 
    入墨の段
    絹川村の段
玉女の安達藤三郎実は佐々木高綱、清之助の妻篝火、紋豊のおくる、勘十郎のおらち、紋寿の時姫、和生の三浦之助、玉英の三浦之助母

「鎌倉三代記」は、時姫が三大赤姫の一人と言われるくらい有名な作品だが、縁がなくてこれまで歌舞伎でも文楽でも観たことがなかった。
物語は「近江源氏先陣館」の「盛綱陣屋」の続き、とでも言えば早いか。息子の命を犠牲にして死んだと見せかけた高綱の次なる計略。今度は百姓藤三郎になりすまして、北条時政を討つ機会をうかがう。
一方時政の娘時姫は、敵方の三浦之助を慕って、病身のその母の看病に来ており、時政の使いが迎えに来ても従おうとしない…。
「絹川村の段」前半では、赤姫の時姫が前掛けをして炊事をしようとするがらちがあかない、と言った笑える場面もあって楽しい。
終盤、高綱が松の木に登って物見をしたり、三浦之助の母がわざと時姫に討たれたりするところは、「絵本太功記」の「尼ヶ崎の段」にちょっと似ていたりする気も。

人形ではやはり玉女の充実ぶりが目を引く。はじめ百姓の振りをしているところではあくまでおどおどとした態度で、最後に高綱と顕わしてからは十分な大きさと風格を見せて立派。
紋寿の時姫に、姫らしいおっとりとした美しさと、芯の強さがあり、さすがの出来。
和生の三浦之助も、颯爽たる若武者の悲痛を描いて上々。
勘十郎のおらちはごちそう。こういうコミカルな役もこなすのはさすが。

義太夫では「絹川村の段」奥の十九大夫・富助が、息子の未練をたしなめる老母の気丈さ、一途に三浦之助を慕う時姫の思い、深手を負いながらそれを隠し母と時姫に対面する三浦之助の苦しさを表現して立派。
さらに綱大夫・清二郎がクライマックスの高綱の物語を勇壮に語り、藤三郎女房おくらの悲しみ、老母の覚悟をしみじみ語ってさすがに立派。

二段合わせて約三時間、休憩なしの上演はちょっときついが、見応えある舞台だった。

二・釣女
文吾の太郎冠者、和生の醜女、玉輝の大名、和右の美女
醜女を遣うはずだった文雀さんが休演されてがっかり。お年がお年だけに心配だが、9月は復帰されることを祈りたい。
この演目は歌舞伎でもおなじみ。最近も5月に吉右衛門、歌昇らで観たばかり。珍しく歌舞伎の方が先行で、文楽化されたのは昭和12年と言うから、比較的新しい作品と言うことになる。
ストーリーは全く同じだが、文楽では醜女が足をバタバタさせるなど、人形ならではの動きもユーモラス。

文吾は剽軽な動きの中にも落ち着きを見せてさすが。
和生も大袈裟な身振りで笑わせながら可愛さも見せて上々。

義太夫は千歳大夫の太郎冠者に飄々とした味がありさすがの出来。
三味線は清治、喜一郎ら5人が並び、可笑しくも華やかな舞台を盛り上げた。

第三部 サマーレイトショー (なんだかいまいちなネーミングなんですけど)
この部は始まりが6時半と、会社帰りの方も来られるせいか、ほとんど満席で少し安心した。

一・契情倭荘子 蝶の道行
清之助の助国、勘弥の小巻

昨年の国立劇場での公演でも観た演目。元来歌舞伎の作品で並木五瓶の作と言うが、歌舞伎でかかった記憶はない。
この世で結ばれなかった男女が、死後雌雄の蝶となって在りし日のことを思い舞い踊るが、最後は修羅の責め苦を受けて狂い舞うという、美しくも悲しいお話。
初めは朱色と水色の揃いの着物の二人が、美しい四季の花が咲く中で優雅に舞う様が、まさに天国のようで美しい。
後半は、一転白黒の(紋白蝶のように見えなくもない)衣装に変わって、苦しげに舞う様子が切ない。
清之助の助国に気品があり均整の取れた動きが美しい。
勘弥の小巻も可憐でなかなか。
初めは優雅に踊っていたのが、最後は蝶のように両手をバタバタとさせて激しい動きで大変そう。
義太夫は津駒大夫、咲甫大夫ら七人、三味線は寛治以下五人が並んでにぎやか。景事にふさわしい華やかな演奏。

二・伊勢音頭恋音刃
   古市油屋の段
   奥庭十人斬りの段
勘十郎の貢、和生のお紺、簑助の万野、玉女の喜助

こちらは歌舞伎でおなじみ。昨年も仁左衛門らで上演された。
違いは、冒頭お紺が、貢の叔母から貢と別れるように言われて苦悩する様子が演じられ、さらに万野からも貢と手を切って岩次を客に取るように勧められる。そこでお紺が、命懸けで岩次から折紙を取り戻すために偽りの縁切りをする決心をする…。と言うくだりがあるので、話が分かりやすい。
その他も細かいところはいろいろ違うが、話の筋は同じ。ただ文楽の方が運びがスピーディ。お鹿の出番などかなりあっさり目。
反対に十人斬りの場面では、斬られた人形の足や首が跳んだりするのは文楽ならでは。本来かなり残酷な場面だが、それほどに感じないのは人形のなせる技だろうか。

簑助の万野が秀逸。歌舞伎の造形よりやや滑稽みの強い役作りで、嫌味で口の達者な遣り手の風情を表して十分。団扇の使い方一つにも気が配られたさすがの出来。
勘十郎の貢も二枚目ながらやや短気な男の様子がきちんと出て立派。
和生のお紺、玉女の喜助と回りも揃って充実した舞台。

油屋の段は住大夫と錦糸で、いつもながら余裕の語り口だが、なんと言っても万野が絶品。いかにも小うるさそうな遣り手の口のきき方、ねちねちと憎しげで、でもどこか滑稽な、何とも大阪のその辺にいるおばはんみたいな(笑)、なんだか耳について離れない言葉遣いが傑作。昨年、歌舞伎で福助の万野を観たときは、これは笑いを取る役じゃないだろう、と思ったが、今回簑助と住大夫のを見聞きすると、そうでもないのかなあ、という気がしてきた。
もちろん、その他のお紺の苦悩、貢の怒りなどもしっかり。
奥庭は咲大夫と燕三。緊迫した場を力強く語り、燕三の三味線も盛り上げて上々。


nice!(0)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 4

愛染かつら

こんばんはー。
文楽は東京では凄い人気ですのに、大阪ではそうでもないのですねぇ~。
どうしてなのでしょうね。

「蝶の道行」は一昨年の納涼歌舞伎の第二部でかかりましたね。
染五郎丈と孝太郎丈での踊りでしたが、山本武夫の美術がサイケで衣装も悪趣味、せっかくの踊りが台無しになってしまった記憶があります(苦笑)。
by 愛染かつら (2007-08-16 02:52) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。

>「蝶の道行」は一昨年の納涼歌舞伎の第二部でかかりましたね。
そうだったんですね~。実はあの月は都合で歌舞伎を観られなかったので、その舞台も拝見していなくて、記憶にありませんでした。
それにしても、サイケな美術の舞踊って、一体…?文楽の方は、普通のお花がいっぱい咲いてる舞台でしたよ。
by mami (2007-08-17 00:03) 

nori

7月の松竹座歌舞伎でコメントしたnoriです。文楽もよく観ておられるのですね。私は、1月に国立文楽劇場で、冥途の飛脚をみたのがはじめてでしたが、観客の少ないのに驚きました。
 ところで、18日に国立文楽劇場での上方歌舞伎会という、普段は脇役の俳優たちの公演をみてきました。名門の血筋をひいた俳優は華やかですが、それを支える人たちの精進をみて、少し複雑な気持ちになりました。
by nori (2007-08-20 23:15) 

mami

noriさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
大阪の文楽公演も、昔私がそちらにいた頃(10年近く前)にはもう少し人が入っていたように思うのですが。あれでは大夫さん達も張り合いがないだろうと気の毒でした。noriさんも、ぜひどんどん足を運んで下さいね。

歌舞伎の世界は、文楽と違って世襲制なので、研修所出身の方などには本公演ではなかなか大きな役は回りませんね。でも少なくとも脇役では、もう彼らなしでは公演が成り立たなくなっていますし、頑張って研鑽を積んでいただきたいです。
by mami (2007-08-20 23:52) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。