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芸術祭十月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

10月9日観劇 歌舞伎座

一・芦屋道満大内鑑 葛の葉
魁春の葛の葉、門之助の保名

文楽では観たことがあるけれど(確か去年も観た)、意外にも歌舞伎で観るのは初めて。
序盤、本物の葛の葉姫と、狐の化身の葛の葉を早変わりで見せるのは歌舞伎ならではのサービス。

魁春は、赤姫のなりの葛の葉姫と、世話女房の葛の葉を演じ分けて無理がない。子どもに別れを告げるシーンは情愛が感じられ、しっとり。狐の本性を現してからの、狐言葉や仕草は、人によってはもっと露骨にケレンを強調してやるかもしれないが、割に控えめのように感じた。眼目の曲書きはまだいささか不慣れな手つきが感じられるが、あれは難しいだろうなあ。そういえば文楽では文雀さんがそれは立派な字を書いてらしたっけ。
最後は花道で、引き抜きで狐の衣装になっての引っ込みだったが、3階席からはよく見えなくて残念だった。

門之助も品のいい保名で、庄司にあって妻に不審を抱く様子も自然で、去る葛の葉を止めようと悲嘆にくれる様子も美しくなかなかの出来。
錦吾の庄司、歌江の妻柵も適役で、全体としてはこぢんまりと品良くまとまった一幕という感じだった。

二・寿曽我対面
團十郎の工藤、菊之助の十郎、海老蔵の五郎、田之助の大磯の虎、萬次郎の化粧坂少将、権十郎の朝比奈

5月の復帰舞台を観なかったので團十郎の生の舞台を観るのは久しぶり。すっかりお元気になられたようで、声も張りがあって、この工藤も風格もあり華もありとても立派。
五郎の海老蔵は、姿も大きく立派で、いかにも荒事らしい派手さと直情径行な単純明快な感じがあって、似合いの役。
十郎の菊之助も品と落ち着きがあって美しい。
田之助がさすがの貫禄で、幾分足がご不自由な様子も見えるが、存在感十分で花を添えていた。あの鬘と衣装を着けて動くだけでもそれは大変だろう。

この演目は、物語と言うほどのものがあるわけではない。ただただ居並ぶ役者が華を競うのを見るもので、そういう意味で今回の團十郎、海老蔵、菊之助は本当に美しく決まった、まさに絵面と言ったところ。

三・一谷嫩軍記 熊谷陣屋
幸四郎の熊谷直実、芝翫の相模、魁春の藤の方、團十郎の義経、段四郎の弥陀六、高麗蔵の堤軍次

幸四郎の熊谷は、さすが手に入った役で、花道の出から苦渋を表し、相模、藤の方に聞かせる物語も立派。ただこの人は時代物で、感情を表に出しすぎるような気がする。特に熊谷のように真実を胸にしまっている人にしては、表情があからさますぎると思うのだが。
今回の舞台では、有名な「16年は一昔…」の台詞を、幕外ではなく、花道で幕を引く前に言う。従って、モノローグではなく、他の人に言って聞かせている形となった。そしてその後で幕を引いて立ち三味線が出てきて、無言での引っ込みという初めて見る演出だったので、驚いた。確かに文楽ではあの台詞は舞台上、まだ座敷にいる状態で言うので、必ずしも独白である必要はないのだが、やっぱり従来のやり方の方が熊谷の虚無感は強調されるような気がする。

芝翫の相模が、藤の方を慰めていたのが一転我が子を喪ったことを知った母親の悲嘆を表して十分。
魁春の藤の方も哀れさと上品さがある。
團十郎は義経には貫禄がありすぎる嫌いもあるが、御大将の品格があり立派。
段四郎の弥陀六も、平家の一員としての義経らへの恨みと、懐の深さをじゅうぶん表現。

この芝居、同じように子を身替わりに死なせる「寺子屋」に比べ、後味がすごく悪い。それはたぶん、「寺子屋」では松王丸と千代が相談の上事を運び、事後も手を取り合っていたわり合うのに対し、こちらは熊谷が一存でことに及び、その上自分はひとりさっさと出家してしまうと言う、妻の立場から見れば身勝手とさえ思える行動のせいだろう。あれでは相模が可哀想、といつも同情してしまう。

四・お祭り
仁左衛門の鳶頭
仁左衛門はすっきりといなせな鳶頭ぶり。色気もあってほんといい男だねえ、と惚れ惚れ。絡んでくる者達をすいすいといなして、ひょっとこのお面を着けたり、楽しい踊り。
ほんとに仁左衛門さんはいつもお若くてお綺麗。確か前に病気された後の復帰の演目もこれだった。途中、「待ってました!」の声がかかると「待ってましたとはありがてえ」という台詞に万感の思いが詰まっていたっけ。とにかく、仁左衛門にはお似合いの踊りで、「熊谷」の後の重い気分をすっきり取り払ってくれたようだった。

今月のこの昼の部、どの演目もそれなりに水準以上の出来だとは思ったけれど、先月のあの熱い舞台がまだ目に焼き付いている身には、どうもどれも生温いというか、ゆるいというか、なんだかまったりしているような気がしてしょうがなかった(笑)。別に手抜きしてるとか言うのではないのだけど、何かなあ、緊張感が薄いというか。でも、まあ、先月みたいなのが特別なんでしょうねえ。
と言うことで、夜の部にさらなる期待です。おっとその前に来週は国立の「元禄忠臣蔵」。そんなこんなで、今年も私の秋の芸術祭が始まりました。


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コメント 4

Ren

こんにちは☆
魁春さんの狐、可愛らしかったです。引き抜きでの変身も見事でしたよ。
「対面」の海老蔵さん菊之助さんの美しい姿、「お祭り」の仁左衛門さん。
今月はひたすら美しい!ものを見たと満足いたしました。
TBさせていただきましたm(__)m
by Ren (2006-10-23 06:49) 

mami

Renさん、こんばんは。
「対面」も「お祭り」もまさに目の保養で美しかったですね。
特に仁左衛門さんのいなせですっきりした姿には惚れ惚れしてしまいました。格好いいですよねえ。とてもお孫さんがいるとは思えませんわ(笑)。
by mami (2006-10-24 23:23) 

愛染かつら

葛の葉もとても面白そうな演目だったのですね~。
観られなかったのが、本当に残念です…
途中からでも拝見すればよかったかな~。

確かに9月の舞台を拝見した後だと、10月は何だか物足りなさのようなものを感じてしまいましたね。
今月はまだ歌舞伎座には伺っておりませんが、さてさてどんな舞台を見せて頂けるのかが楽しみです。
by 愛染かつら (2006-11-09 02:11) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。TB&コメントありがとうございます。
魁春さんの「葛の葉」は地味でしたが品があってよかったですよ。また観る機会があるといいですね。

9月公演の熱気はやっぱり特別でしたね。なかなか普段はああは行かないのでしょうねえ。
今月も引き続き仁左衛門様大活躍ですよ。お楽しみに!
by mami (2006-11-10 00:42) 

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