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秀山祭九月大歌舞伎夜の部 [舞台]

9月25日観劇

朝刊で文楽の玉男さん死去のニュースを知って、愕然。お年がお年だから、いつ来てもおかしくはなかったのかもしれないけれど、やっぱりショック。たとえもう舞台に立たなくても、まだまだ後進の指導をしながら、長生きしていただきたかった。
奇しくも昨日は東京での「忠臣蔵」千秋楽の日。みなさんの熱演の評判を聞いて安心して旅立たれただろうか。

今月の歌舞伎座は、幸四郎・吉右衛門兄弟久々の共演が話題。初代吉右衛門生誕120年記念と言うことで実現したらしいが、どうやらこの「秀山祭」は来年以降もやるらしい。となると毎年兄弟共演が観られるのかしら。

一・鬼一法眼三略巻 菊畑
幸四郎の知恵内、染五郎の虎蔵、左團次の法眼、芝雀の皆鶴姫、歌六の湛海

知恵内に幸四郎というのは重すぎないかと思ったけど、意外にすっきりと似合って颯爽とした奴ぶり。
染五郎は、奴と言っても若衆のような作りで、前髪もよく合って美しい。ただ台詞が少し単調気味なのが難。
芝雀の皆鶴姫が、赤姫の衣装が良く映えてお綺麗。しかし歌舞伎に出てくるお姫様ってみんな、恋のためなら親でも裏切って平気なんですねぇ。
左團次の法眼は、実は全てお見通し、という老獪さがあまり感じられなくて、いささか軽い。左團次さん、昔はわりと好きだったんだけど、最近はどうも役作りが表面的で終わってる気がしてちょっと…。味のある役者さんだから、もっとがんばってほしいなあ。

二・籠釣瓶花街酔醒
吉右衛門の次郎左衛門、福助の八ッ橋、梅玉の栄之丞、幸四郎の長兵衛、歌昇の下男治六、芝雀の九重、東蔵のおきつ、芦燕の権八

幕開き、いったん場内が真っ暗になった後灯りがつくと、満開の桜の吉原の華やかな情景がいきなり現れて、客席からも感嘆の声が。良くできた演出だと思う。
それに続く花魁道中の華やかさとも相まって、次郎左右衛門でなくても吉原の魔力に取り込まれてしまいそうに感じる。
ただ、この芝居の粗筋をあらかじめ知って観ると、後の次郎左右衛門の破滅は全てここから始まっていると思うと、この見染めの場での彼の無邪気さにも哀れを感じてしまう。

吉右衛門はやっぱり上手いなあ。
序幕、いかにも田舎者らしいもっさりした様子で花魁に魂を抜かれたようになった姿でまず笑わせる。
二幕目では、吉原に通い詰めてすっかり遊び上手になってあか抜けた風で、同輩に花魁との仲を自慢するのが一転、三幕目で突然愛想づかしされて奈落の底に突き落とされる。この辺りの表情の変化が本当に上手い。
八ッ橋の態度に初めはただうろたえていたのが、悲しみ、恥、怒り、自己嫌悪など、あらゆる負の感情に打ちひしがれ、突っ伏してしまう。
栄之丞を見つけて、一瞬憎悪の表情を見せても爆発させず、すぐに押し殺してしまうのは、生まれつきの「あばた面」で、腰を低くすることでのみ世を渡ってきた男の悲しい性だろうか。
そんな男なのに、八ッ橋の気持ちを測ろうともせず身請け話を進めたのは、やはり金の力を自分の力と過信していたのか。
そういう、容姿へのコンプレックスと、だからこその金の力による優越感を、一見人の良さそうな顔に包んだ次郎左右衛門の複雑さを、余すところなく見せつけた吉右衛門の演技であった。
終幕、八ッ橋を斬り殺すところの不気味さも、妖刀のせいだけではない、この男のこれまでの人生がこうさせている、と思わせる怖さがあった。

八ッ橋の福助。このところの不調を吹き飛ばす好演。
有名な見染の笑みも、これ以上やると下品になるすれすれのところで、まさに艶笑といったあでやかさ。この笑いって複雑。自分に見とれている男がいるという自尊心からの笑い、田舎者を馬鹿にする気持ちからくる笑い、さらには職業柄の営業的な笑い。こういった要素が全部詰まった、でもあくまで自然にわき出た笑いを作るというのも、長ぜりふを言うよりずっと難しいだろう。

見せ場の縁切りでも、内心次郎左右衛門に申し訳ないと思いながらも、間夫と別れたくないばかりに愛想づかしをする切なさつらさが感じられた。最後に九重に向かって言う「つくづく嫌になりんした」という台詞が痛々しい。
終幕、次郎左右衛門に切られて後ろ向けに倒れるところでは、見事な型を見せた。滞空時間(?)長かったですねえ。

でもこの話、いつも思うのだけど、もし栄之丞が身請けの話を知って乗り込んでこなかったら、八ッ橋はどうするつもりだったんだろう。栄之丞に脅されるまでもなく断るつもりだったなら、一層次郎左右衛門への仕打ちはひどいことになるが。
でも女って、金持ちだろうが人が好かろうが、嫌な男は嫌なんですよね。けど花魁として客を選べる立場ではないからずっとこらえて付き合ってきた。その溜まった思いがここへ来て堰を切って溢れてしまった、というところでしょうか。女としては八ッ橋に同情もするのです。

梅玉の栄之丞。花魁の間夫にふさわしい色気があってお似合い。栄之丞っていう男も、いわゆるヒモなんだけど、色悪というのともちょっと違うような。実際にどれくらい八ッ橋を愛しているのかはわからないけど、間夫とはいえ一応恋人なわけで、それが内緒で身請けされかかっていると知れば、そりゃ怒るわね。ということで、あまり悪人ぽくも冷たくもない梅玉の栄之丞は正解か。

幸四郎が立花屋長兵衛でお付き合い。さすがの貫禄で大旦那らしく舞台を締めた。
東蔵のおきつも、全て心得た茶屋の女将らしい風情を出して好演。
歌昇の治六も、素朴な主思いの下男の一途さがあり上手い。
権八の芦燕は、台詞が全て棒読みの一本調子で、このベテランにしてはひどかったと思う。楽前日でこれはないだろう。

決して後味のいい芝居ではないのだが、こうもいろいろ考えさせられながら観られるとは思わなかった。芝居はやはり作品本位ではなく、役者次第ということを改めて感じた。

三・鬼揃紅葉狩
染五郎の更科の前・実は鬼女、信二郎の維茂
染五郎の女形を観たのは久しぶり。「東文章」の桜姫以来かも。あの時は、綺麗は綺麗だけど色気無いなあ、なんて思ったが、今回はだいぶ女っぷりが上がったようでとてもお綺麗。元々踊りは上手な人なので、女形としての踊りも無理がなく、扇の扱いなども美しい。そして踊りながら、時々鬼の本性をのぞかせて維茂を睨む様子など、ゾクゾクする妖艶さが漂う。ただ、声は喉の調子が悪いのか、女形らしい声が出ず、ほとんど地声だったのが辛そう。
後半、鬼の姿では隈取りも禍々しい。が、線が細い人なので迫力は今一歩かな。

維茂の信二郎は公達らしい爽やかさ。お供の松江、種太郎と共に後半勇壮な踊りを見せる。信二郎さんはやっぱりこういう白塗りのお顔がお似合い。
間狂言で、玉太郎ら子役達が末社で踊る。玉太郎君、可愛い~。
最後は染五郎、高麗蔵ら鬼女と信二郎らで豪快に踊って閉め。
華やかな一幕。
やっぱり「籠釣瓶」で打ち出しだとちょっと重いから、派手な口直しがあって良かった。

     ・・・・・追記・・・・・
一つ書き忘れてました!
「籠釣瓶」の九重の芝雀さん!縁切りの場での、次郎左右衛門に見せた気遣いや心づくしが、さりげないながら優しさにあふれていて、次郎左右衛門でなくても慰められる思いがしました。次郎左右衛門だけでなく、八ッ橋にも心配りを見せる、本当に心根の綺麗な人なんだな、と思わせる芝雀さんの九重でした。
大事な役なのに、うっかりとばしてしまいました。すみません。


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コメント 6

愛染かつら

こんばんは。
今月の夜の部は見応えがありましたねぇー。
籠釣瓶は素晴らしかったですが、これがキリの舞台だといささか後味が悪いので、鬼揃があってよかったです~。
やっぱりこういう演目で劇場を後にしたいですよね。
この演目を観ないでお帰りになられる方が多かったのが残念でした。
とっても華やかで歌舞伎らしい舞台なのに…
染ちゃんも綺麗なのに(笑)…

こちらからもTBさせて頂きました~。
by 愛染かつら (2006-09-28 01:16) 

Ren

こんにちは☆千秋楽のご観劇だったのですね!
一度樂日に行きたいと思うのですが早く観たくて我慢できずです。
「籠釣瓶」は吉右衛門さまのすばらしさをたっぷりと堪能いたしました。
切られた福助さんの死にっぷりはとてもたっぷりでしたね。
「鬼揃」ですっきりと家路に着きました☆
by Ren (2006-09-28 07:21) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。TB&コメントありがとうございます。
「鬼揃」観ずに帰るなんて、もったいないですね!
染ちゃんは綺麗だし、最後のみんな揃っての踊りも迫力あって良かったですよねえ。信二郎さんも二枚目だし、まさしく目の保養でした。
by mami (2006-09-29 00:20) 

mami

Renさん、こんばんは。nice!とTB、コメントありがとうございます。
今月は文楽もあったので、楽前日と楽日続けての観劇になりました。吉右衛門様は早く観たかったんですが…。
でもあまり初日すぐだと、台詞がまだよく入っていない役者さんとかいるので、どちらかというと後半に行くことが多いです。
「籠釣瓶」の吉右衛門様はまさに迫真の演技でしたね!
でもやっぱり最後は「鬼揃」があって良かったと思います。
by mami (2006-09-29 00:28) 

★とろりん★

こんにちは。遅ればせながらTBさせていただきました。
福助さんの八ッ橋に対する感想、まさにその通りだと思います。
ギリギリのところで魅せてくれましたよね。
梅玉さんも悪に染まりきらない感じが素敵でした(ファン馬鹿)。
by ★とろりん★ (2006-10-06 14:49) 

mami

とろりんさん、こんばんは。
福助さん、綺麗だったし情もあって見事な八ッ橋でしたよね。
梅玉さんも役にピッタリはまって素敵でした。
10月の内匠頭もお似合いの役で楽しみですね。
by mami (2006-10-06 23:55) 

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