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秀山祭九月大歌舞伎昼の部・千秋楽 [舞台]

9月26日観劇

本日のお席1列目29番。
いつも歌舞伎座では2等席か3等席なんだけど、今月の昼の部は大好きな吉右衛門様が大好きな「引窓」と「寺子屋」に出るし、自分の誕生月でもあるので、たまにはと奮発して1等席にした。するとなんと1列目。う~ん、どアップで観られるのはいいけど、全体は見難いんですよね。真ん中じゃないし。WEBで席を取ると選べないからちょっと不便かも。

一・車引
松緑の梅王丸、亀治郎の桜丸、染五郎の松王丸、段四郎の時平公
松緑の荒事は、隈取りもよく似合って、声も良いし、とてもいい。なんだか武者人形そのままという感じ。直情径行の梅王の雰囲気が良く出ていた。
亀治郎はいかにも女形が演じているらしく、指先まで神経が行き届いてきれい。すでに死を覚悟した悲しみがにじむようで立派な出来。
染五郎は松王丸にはいささか線が細いかと思ったが、なかなかに大きさが出ていた。ポーズを決めたときの体の線がとても美しい。隈をとった顔が、当たり前だがお父さんによく似ていて、妙に納得する。
段四郎の時平は、梅王丸・桜丸がすくむほどの不気味さ大きさが感じられない。この役、文楽だと大夫の聴かせ場の高笑があるのだが、歌舞伎ではそれがない分、役者が持つ大きさが出てしまう。難しい役だ。

二・引窓
吉右衛門の与兵衛(十次兵衛)、富十郎の長五郎、芝雀のお早、吉之丞のお幸

吉之丞のお幸が立派。実子への愛情と、継子への義理に苦悶する老母のつらさ、悲しさを全身で表して、涙なしに観られないほど。こういう役を勤められる役者さんは、今本当に貴重な存在。

吉右衛門は、初め侍に取り立てられて戻ってきたうれしさを無邪気に見せ、母と妻の言動に不審を抱いて、はっと真実に気づいた表情の変化が見事。自分の手柄に執着せず、母への孝行に努めようとする優しい人情あふれる十次兵衛は吉右衛門様にピッタリ。

富十郎も十次兵衛の縄にかかろうとする気持ちと、母の願いを聞いて落ち延びようとする気持ちの葛藤が手に取るようにわかる。相撲取りらしい大きさもあってさすがの出来。

芝雀も花街出身の色気を持ちながら、姑の意をくんで長五郎を逃がそうとする心優しい嫁の雰囲気がよく出ていた。

この芝居は、登場人物が皆他の人への義理や孝を尽くそうとする、後味のいい演目で大好きな一幕。
ただいつも思うのだが、現在の照明では引き窓の開け閉めが全く意味をなしていない。引き窓を閉めたらちょっと照明を落とすくらいの効果を見せてもいいと思うのだけど。

三・六歌仙容彩 「業平小町」「文屋」
雀右衛門の小町、梅玉の業平、染五郎の文屋康秀
雀右衛門は、もう出てくれるだけで目の保養という感じ。1列目で観てもお綺麗。
梅玉もうるわしい貴公子ぶりで、あでやかな一幕。
一方染五郎の文屋は強面の官女達を相手にほうほうの体ながらユーモラスに踊って楽しい舞台。

四・寺子屋
吉右衛門の源蔵、魁春の戸浪、幸四郎の松王丸、芝翫の千代

今月いちばんの大顔合わせ。
吉右衛門・幸四郎の共演は、夜の部の「籠釣瓶」でもあることはあったが、ほんの端場で、やはり期待はこちら。

今回「源蔵戻り」からの上演で「寺入り」がない。この頃はこの形の上演が多いが、時間の都合だろうが、よだれくりの活躍もないし、何より千代の葛藤が見られないのは残念。

幸四郎は、いつも時代物になると妙に口跡が悪くなる癖があるのだが、今日はそれが気にならなかった。口跡の難さえなくなれば、それはそれは立派な松王丸である。
首実検での悲痛、源蔵夫婦に真実を告げた後の悲嘆、全てに無駄無理がなく、視線の使い方一つも考え抜かれて、ここ数年の幸四郎ではいちばんの出来ではないか。
特に後半、小太郎と桜丸を思って泣くあたり、真情があふれて涙を誘った。

対する吉右衛門もさすが手に入った源蔵で、見替わりの子の首を切る苦悩、首実検での松王丸に対する緊迫、戻ってきた千代との駆け引き、真実を知った驚愕、松王丸夫妻に対する同情、共感、申し訳なさなどを表して不足がない。何度も言ってしまうけど、ほんとに良い役者さんだなあ、と惚れ惚れ見とれてしまう。

千代の芝翫、魁春の戸浪もそれぞれの苦悩、悲しみを十分に演じて立派。
ちなみに昼の部では吉右衛門さんは、芝雀さん魁春さんと、私好みの女形さんと夫婦役だったのもうれしかった。

千秋楽ということもあってか、幸四郎、吉右衛門ともに本当に気迫のこもった熱い演技で、首実検の場面などまるで火花が飛ぶような対決で、緊迫感に圧倒された。ああ、こういう熱気のある兄弟対決をファンは長い間待ち望んでいたんですよねえ。ほんとに凄いものを観てしまったというような、今までの私の歌舞伎体験でも屈指の名舞台でした。
実を言うと途中から涙が出て止まらなくて、恥ずかしいくらいでした。1列目で役者さん達にも見えたかなあ。

今年の吉右衛門さんは、5月の演舞場、今月の秀山祭と座頭を勤め、来月も1日に国立劇場で「勧進帳」をやってから「元禄忠臣蔵」、と休む間もない大活躍。
ファンとしては嬉しい限り。「勧進帳」も楽しみです!


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コメント 4

愛染かつら

こんばんは。
「引窓」での照明の工夫、私もmamiさんと同じく、「やったらいいのに~」と思いますよ~。
でないと、せっかくの「引窓」という外題が今ひとつピンと来ない気がします。

「寺子屋」での幸四郎さん、私も今まで自分が拝見した中で一番の出来だったと思っています。
本当に素晴らしかったですね!

昼の部は23日に再見したのですが、未だにレポが書けません~。
週末にでも頑張って書きます!(笑)
by 愛染かつら (2006-09-29 02:53) 

愛染かつら

こんばんは。
23日のレポもようやく書けましたので、こちらもTBさせて頂きますね。
by 愛染かつら (2006-10-01 23:54) 

mami

愛染かつらさん、コメント&TBありがとうございます。
昼の部も二度も行かれたなんてうらやましいですね~。
9月は昼夜ともに充実して見応えがありましたが、やはり「寺子屋」の印象が強く心に残っています。
10月は吉右衛門様は内蔵助、幸四郎さんは髪結い新三で、それぞれどんな演技を見せてくれるか楽しみですね。
by mami (2006-10-02 01:18) 

Ren

コメント&TBありがとうございました。
お返事が遅くなってしまって申し訳ありません。
「車引」の若手3人の活躍も大変爽やかに楽しめました。
「引窓」の吉右衛門さんはさすがだな~っと、大満足でした。
by Ren (2006-10-13 07:58) 

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