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通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第二部 [舞台]

国立劇場大劇場

3ヶ月連続の通し上演、真ん中の第二部。

【道行旅路の花聟】
 早野勘平      中 村 錦之助
 鷺坂伴内      坂 東 亀三郎
 腰元おかる     尾 上 菊之助

普通は板付きで始まるが、花道をおかる勘平が駆けてくる登場から。
錦之助の勘平は、色男というのがぴったりで、二枚目のおっとりした風情と、しくじりを犯した武士としての悔しさがないまぜになり、いっそうの色気を醸し出す。いかにも金と力はなさそうだが、後半判内が登場してからは颯爽とした様子。
菊之助のおかるも美しく、ひたすら勘平が好きで、落人の罪の意識よりも、二人で旅することができる嬉しさが勝っている。旅もおかるが主導。
二人が美しくて目の保養。最後の花道でのいちゃいちゃも微笑ましい。

判内は亀三郎。もっとドタバタでもいいけど、程よく行儀良いおかしみを見せて上々。

【五段目】
山崎街道鉄砲渡しの場
   同   二つ玉の場
 早野勘平      尾 上  菊五郎
 千崎弥五郎     河原崎 権十郎
 斧定九郎      尾 上  松 緑

【六段目】
与市兵衛内勘平腹切の場
 早野勘平       尾 上 菊五郎
 原郷右衛門        中 村 歌 六
 勘平女房おかる    尾 上 菊之助
 千崎弥五郎       河原崎 権十郎
 判人源六         市 川 團 蔵
 与市兵衛女房おかや  中 村 東 蔵
 一文字屋お才      中 村 魁 春

五段目の幕が開いて、勘平が笠を取った瞬間客席にじわが来た。菊五郎の顔がそれは若々しく美しかったから。いや、格好いい人なのは前からわかっていたけれど、なんだろうこの全く実年齢を感じさせない華やかな二枚目振りは。いささか驚きである。もちろん見た目だけでなく、芝居の方も素晴らしい。刻々と変わる心理の変化が鮮やかで引き込まれる。不運の連鎖に落ちていく男の哀れさ悲痛さが、色男ゆえに影が濃くくっきりと。それでいて、いかにも演技しているいやらしさが全くなく、どこまでもさらさらと自然に流れるよう。凄いものを見せていると感じさせずに凄いことをやっている。まさに当代一の勘平。

東蔵のおかやは、情があるゆえに転じて勘平を責める老母の悲しさを見せた。
菊之助のおかるは、道行よりこの場の方が神妙で、勘平を思うが故に売られていく哀れさ、最後の別れの切なさをしっとりと。

魁春のお才が如才ない花街の女将の様子。
秀逸なのが團蔵の源六で、軽妙さの中にしたたかさが見え、魁春共々色街の風情が立ち上る。團蔵は先月は加古川本蔵と、全く違う役で幅の広さと演技の確かさを印象づけた。

歌六の郷右衛門が初役とは意外。懐の深い、落ち着きある様子が立派。この頃歌六さんは、左團次さんの持ち役をやることが多くなってきた。いずれ師直もやったりするだろうか。

五段目では松緑の定九郎が、陰影のある非道な悪人ぶりで凄味を見せた。美脚堪能。

【七段目】
祇園一力茶屋の場
 大星由良之助    中 村 吉右衛門
 寺岡平右衛門    中 村 又 五 郎
 赤垣源蔵       坂 東 亀 三 郎
 矢間重太郎      坂 東 亀  寿
 竹森喜多八      中 村 隼  人
 鷺坂伴内       中 村 吉 之 丞
 斧九太夫       嵐   橘 三 郎
 大星力弥       中 村 種 之 助
 遊女おかる      中 村 雀右衛門

吉右衛門の由良之助も当たり役、そして当代随一。もう何も言うことはない、大きくて色気があって。隅々まで神経が行き届き、融通無碍で深く厳しく温かい。ひたすら大きな由良さん。暖簾から姿を見せるだけで客席が吸い込まれるよう。酔態の柔らかさから、力弥への厳しい表情への変化の鮮やかさ。その後もハラを隠しながら時折のぞく真意の見せ方が巧みで一瞬たりと目が離せない。おかるを身請けしようと言って、おかるが喜ぶのを見て扇で顔を隠すところでは、うっすらと涙が浮かんでいた。そして最後の九大夫へ怒りをぶつける場面で、客席も溜飲が下がるカタルシス。存在感に圧倒され台詞の息に飲み込まれて、心捕らわれ揺さぶられた。

又五郎の平右衛門、月初はやや力が入りすぎのように思えたが、だんだん良くなって楽日にはとても良い出来。小身者の悲しさと一生懸命さ、妹を思う情があって優しい兄さん。
雀右衛門のおかるもおっとりとした綺麗さで、身請けされると知った喜びに浮き足立つ様子がいじらしい。
二人の息が良くあって、ほんとうに仲のいい兄妹みたいで可愛かった。

おかるが勘平の死を聞いて「わしゃどうしょう」と言うところで、それはもちろんこれからどうして生きていこうという意味なのだろうけど、勘平の死の原因は自分にあるという罪の意識の重さを凄く感じた。これは通しだからなのか、雀右衛門さんの儚さ故なのかはわからない。でも凄く良かった 。

種之助の力弥、行儀良くすっきり。少年の雰囲気がよく似合う。可愛かった~。
橘三郎の九太夫はすっかり手に入った様子で、欲深い佞奸の様子。
吉之丞の判内は、この役にはちょっと真面目であまりニンではなさそうだが、誠実に勤めていたのがこの人らしい。
今回の上演では、幕開きに九太夫と判内が花道から入ってくる場面が付いた珍しい型。文楽の本行に沿ったやり方。

亀三郎、亀寿、隼人が三人侍。血気にはやった若者の苛立ちを見せた。亀三郎は道行の判内とは全く違った役で、今月大奮闘。

一力の仲居陣が、京妙、京紫、菊三呂らで鉄壁。平右衛門に呼ばれて布団を持ってくるのは京蔵。こういう役にちゃんとはまる脇役さんが揃うと舞台が安定する。

勘平の菊五郎、由良之助の吉右衛門、共にこれからの手本となるべき名演。今これを観られて本当に良かった。ありがたい。
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