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「通し狂言 伽羅先代萩」 [舞台]

11月9日(日) 国立劇場

乳人政岡(奥殿) = 坂田藤十郎(4代目)
仁木弾正妹八汐 = 中村翫雀(5代目)
乳人政岡(竹の間) = 中村扇雀(3代目)
仁木弾正 = 中村橋之助(3代目)
田村右京妻沖の井 = 片岡孝太郎(初代)
荒獅子男之助・渡辺外記左衛門 = 坂東彌十郎(初代)
栄御前 = 中村東蔵(6代目)
足利頼兼・細川勝元 = 中村梅玉(4代目)

花水橋から刃傷までの通し。

まず花水橋では、梅玉の頼兼が一代の傑作。自分が渦中の人であるという当事者意識が全く欠落した、周りへの無関心、世界は自分のためにあると言わんばかりの尊大さをここまで嫌味なく空気のようにまとえる役者は他にいない。自分を殺しに来た者たちに扇一本で肩を揉ませ、下駄をはかせてしまう高貴な人物の不思議な威圧感と、駆けつけた絹川に対してありがたがるわけでもなく当然と言った風に刺客を斬り捨ていと命じる無慈悲さ。いやあ、ちょっとゾクゾクするようなお殿様の存在感。

竹の間は扇雀が政岡。忠義一途なのはよくわかるが、母性愛のようなものが感じられなくて、乳母と言うお仕事に熱心、と言う風に見えてしまった。
翫雀の八汐も、まあこの竹の間ではいささか間抜けなところもあるのでしょうがないのだが、嫌味より滑稽さの方が勝っていてあまり怖くない。
孝太郎の沖の井がいい。凛とした武家の妻女らしい落ち着き、八汐をやり込めるだけの才知を見せて上々。台詞がよく通って聞きやすい。この人のこういう武家女の役、好きだな。いつか政岡も見せてほしい。
亀鶴の松島も手堅い。

御殿は政岡が藤十郎に交代。と言うか、本来は竹の間もやるべきなのだがもう体力的に無理なのだろう。残念なことに飯炊きもなし。去年5月にやった時よりも声も小さくなったような。それでも、さすがに藤十郎は千松と鶴千代への情愛たっぷり。八汐が千松を刺したところでの気丈に耐える姿の強さ(「なんの、まあ」の台詞の言い回しの凄味)、人がいなくなってから千松の遺体にすがって泣く姿の悲しさ、「でかしゃったでかしゃった」にこめられた万感の思いがたっぷりとして胸に迫る。
やはり今最高の政岡に違いはない。この人がいなくなったら誰が政岡をやるのだろう。。。

東蔵の栄御前は、冷酷さが薄く、むしろ人が良さそうでいて、毒入り菓子をニコニコと勧める様子がかえって空恐ろしいという。

床下、男之助は彌十郎。荒事の豪快さはいまいちだが丁寧に演じている。
橋之助の仁木弾正も不気味さを漂わせてまずまず。スケールの大きさがもっと出てくれば。

対決・刃傷は、梅玉の勝元が切れ者らしく弁が立ち、言葉巧みにぐいぐいと弾正らを追い詰めていく様が気持ちいいくらい。あの長台詞を淀みなく滔々と聞かせる口跡の良さ。正義の味方、と言う爽やかさ。序幕の頼兼と二役で、梅玉ファンは一粒で二度美味しい。いやはや、正直言って、この公演、藤十郎より梅玉の方が印象に残った。

橋之助の仁木もふてぶてしさがあり、書面に実印を押すところの工作もじっくり見せる。橋之助は普段色悪とかやると、なんだか素の人の良さそうなところが透けて見えていまいちなのだが、今回の仁木はブラックに徹していて良かったと思う。最後の刃傷も凄味があった。

彌十郎の外記も誠実な人柄が良く出て好演。
若侍の面々、虎之介、梅丸、国生も爽やかで行儀良い。梅丸君の裃姿なんて初めて見たわ。萌え萌え。

終わってみれば、良くも悪くも誰が座頭、主役かよくわからない公演ではあるけれど、どの幕もそれぞれ見せ場のあった、水準の高い舞台だった。国立の公演は歌舞伎座より値段もリーズナブルで、結構だと思う。

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