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松竹座七月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

7月23日(月) 松竹座

又五郎、歌昇の襲名披露公演も今月で一区切り。去年9月からずっと大変だっただろうな。ご本人たちも大変だろうけど、各地へ遠征した贔屓も大変だったわ(苦笑)。
最後を飾るのは大阪松竹座。座頭の吉右衛門はなんと7年ぶりの松竹座ご出演とか。へえ、そんなに出てなかったのかな。


一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
  引窓
南与兵衛後に南方十次兵衛       梅 玉                 
母 お幸       東 蔵                 
女房お早       孝太郎                 
三原伝造       松 江                 
平岡丹平       進之介                
濡髪長五郎       我 當

梅玉の与兵衛を見るのは私は初めてだと思うが、4度目とかで手に入った様子。あんまり町人っぽいところは見せず、根っからの武士のような印象。母のそぶりから、隠れている長五郎が母の実子と気づくところの「はっ!」として、「母者人、あなたなぜものをお隠しなされます」の台詞に、母は継子の自分より実子が可愛いのか、という悲しさと寂しさがひっそりと表れて巧い。この人らしい、すっきりとした味わいの中にも親子の情と義理の暖かさ、優しさが伝わる。

我當の長五郎が絶品。膝がお悪いので立ち座りに苦労されていたが、義理堅く誠実な長五郎の心持ちがずんと響く出来。江戸前の梅玉と上方の我當の好対称も面白い。

東蔵のお幸も手に入った出来。我が子を必死に逃がそうと思う情と、継子への義理に泣く老母の様子をじっくり見せた。
孝太郎のお早も何度も演じている役で手堅く、優しさと情のある女房を可愛げをもって見せた。この人の明るい声が好き。
4人とも本役の顔ぶれが揃って見応えある舞台。じわじわと胸に響いて気持ちよく泣けた。

二、棒しばり(ぼうしばり)
次郎冠者  歌 昇改め又五郎                 
太郎冠者       染五郎                
曽根松兵衛       錦之助

昼の部の又五郎襲名披露演目。
踊りには定評のある又五郎さん、これも軽妙で明るい次郎冠者を達者に踊る。棒に縛られた不自由な体勢に負けない身のこなしの巧さがさすが。縛られた片手から反対側の手に扇を投げて受け取るのも見事にキャッチで拍手喝采。そしてこの人は踊りと共に演じる要素がしっかり入っているから話がとても解りやすい。この棒しばりでも主の目をかすめて酒を飲む次郎冠者のちゃっかりさを剽軽に演じて楽しい。

染五郎の太郎冠者も踊りは巧く、こちらは本来二枚目役者なので太郎冠者のキャラじゃないのだが、砕けすぎない品のある可笑しさを見せてなかなか良い味わい。
錦之助の大名もほどよい軽さがあって、三人が釣り合って文句なしに楽しめた。

  江戸絵両国八景
三、荒川の佐吉(あらかわのさきち)
  序幕 江戸両国橋付近出茶屋岡もとの前の場より
  大詰 長命寺前の堤の場まで                
荒川の佐吉       仁左衛門                
大工辰五郎  歌 昇改め又五郎              
丸総の女房お新       芝 雀              
仁兵衛娘お八重       孝太郎                
あごの権六       由次郎               
隅田の清五郎       錦之助               
鍾馗の仁兵衛       歌 六               
成川郷右衛門       梅 玉               
相模屋政五郎       吉右衛門

仁左衛門当たり役の一つの佐吉、今回が最後かも、と言うこともあってか充実。気が良くて、律義で、子煩悩で、女も惚れるが男だって惚れるようないい男。序盤の三下奴の軽々しさも実年齢との差を感じさせない若々しさ。苦労して育てた卯之吉への愛情故に悩み、愛情故に手放す悲しさと優しさと寂しさ。実の母親お新を前にしての述懐に心情があふれて、涙を絞る。一つ間違うと嫌味になってしまうところを、あくまで悲しさで聞かせるのがさすが。使い走りの奴からひとかどの男になって、惜しげもなく得たものを捨てて旅立っていく、文字通りつぼみが開いて大輪の花が咲く男の成長を見事に見せた。

相方の辰五郎は今回は又五郎。誠実で友情に篤く、気の良い大工の風情がぴったりで、佐吉と卯之吉の面倒を嫌な顔一つせず見ている様子が絵に描いたような「良い人」になっているのがこの人らしい暖かさ。
梅玉の成川がニヒルな雰囲気で、ただ腕っ節が強いだけでない、インテリヤクザとでもいった趣で面白い。
歌六の仁兵衛が最初の恰幅良い様子から、落ちぶれた姿への変化を見事に見せて巧い。
錦之助の清五郎がきりっとして格好いい。

孝太郎のお八重が気の強いお嬢さんをしっかり。
芝雀のお新は初か。台詞だけでなく体全体から佐吉への申し訳なさと身の置き所がない辛さがこぼれるようで、身勝手な言い分だがこの人はこの人で苦労してきたんだろう、子供を思って泣いたこともあったろう、と同情できるお新になっていたのが立派。

相政は二回目の吉右衛門。貫禄と恰幅の良さで文句なしの大親分。佐吉と成川の果たし合いに行き会わせ、駕籠の覆いをめくって姿を見せただけで舞台が大きくなる。お新を連れてきて、佐吉に卯之吉を返すよう諭すところも、押しつけがましいのでなく、真に卯之吉のためを思っての言葉というのがズシンと響く。「卯之吉つぁんは人の子だよ、人間だよ」の暖かさと重さ。仁左衛門佐吉を説得するにはこれだけの人が必要、と納得。

隅々まで良い配役で、仁左衛門集大成の佐吉を飾った。

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nori

 松竹座での襲名披露は、昼夜共に充実したものでした。最近は幹部俳優が襲名披露で各地を回るので、東京では花形歌舞伎ばかりという声もあるようですが、大阪在住のファンとしては、南座や松竹座で素晴らしい舞台がみられるので、うれしいですね。荒川の佐吉を初めてみましたが、本当によかったです。もし、これが一世一代だとしたら、間に合ってよかったということになりますが、また、見る機会があることを期待したいものです。
by nori (2012-07-28 00:28) 

mami

noriさん、
今月の松竹座は見応えあってよかったですねえ。おっしゃるとおり東京はこの頃大歌舞伎が観られなくて、こういうのに飢えてます。
仁左様の佐吉は本当に素晴らしかったです。多分これが最後だろうとのことで、見られて良かったと思います。播磨屋さんの相政もさすがでしたね。
またお二人の共演が見られることを祈っています。
by mami (2012-07-29 01:53) 

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