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演舞場 壽 初春大歌舞伎 夜の部 [舞台]

1月9日(月)、16日(月)、23日(月)、26日(木)

え?4回も!?と思われるでしょうが、はい、そうです。自己最多記録更新です。その訳は後ほど。

一、歌舞伎十八番の内 矢の根(やのね)
曽我五郎  三津五郎                
大薩摩主膳太夫  歌 六                 
馬士畑右衛門  秀 調                   
曽我十郎  田之助

夜の部始めは正月らしく「矢の根」から。
三津五郎の五郎は隈もよく似合うし荒事らしい大きさもあって立派。やんちゃで稚気あふれる、というよりは少し知的な感じがするのはこの人の持つものだろう。

田之助の十郎がご馳走。こういう役は久しぶりだが、さすがに品のある様子で存在感を示した。
歌六も台詞一つない役だが、律義な様子が見えるのが上手い。
秀調の馬士はもう少し滑稽さがあってもと言う感じもするが、三津五郎に合わせたのかも。

こういうおおらかで屈託のない演目は文句なしに楽しめて正月には持ってこい。

連獅子_201201.JPG
  五世中村富十郎一周忌追善狂言
二、連獅子(れんじし)
狂言師右近後に親獅子の精  吉右衛門           
狂言師左近後に仔獅子の精  鷹之資                    
僧蓮念  錦之助                    
僧遍念  又五郎

この演目と配役を見た時くらいびっくりしたのは、歌舞伎を見始めて20数年初めてかもしれない。親子で踊ることが多い連獅子、吉右衛門さんには縁がないと思っていたし、しかも相手が鷹之資君と来た。
鷹之助くんは昨年亡くなった富十郎さんの息子。富十郎さんのご遺志もあって、吉右衛門さんが後ろ盾になっている。ご親戚でもなく、ご一門でもない。ただ先輩として多く共演してきた富十郎さんへの恩返しのようなお気持ちで鷹之助くんの面倒を見ておられるのだ。親子でもなければ師弟とも違う。その二人が、富十郎さんの追善に連獅子を踊る。これはもう、幕が開く前から胸がいっぱいになるなと言うのが無理。

前シテ。
普段より思いなしか客席にもピンと張り詰めた空気が流れる中幕が開く。おなじみの栄津三郎の三味線がびしっと鳴った後で里長の声が高らかに聞こえる。もうこの段階で、この舞台が特別なものになることを確信した。そういう「何か」を予感させる演奏だった。そしていよいよ揚げ幕が上がって、吉右衛門と鷹之資が登場。「播磨屋!」「天王寺屋!」両方の大向こうが降るようにかかる。この時点ですでに涙うるうる。

吉右衛門は正直決して踊りが上手い人ではない。だから余計に「え、、連獅子!?」と驚いた。だが、この連獅子を観て思ったのは、連獅子はただの踊りじゃなくて、ちゃんと物語のある芝居なんだ、と言うこと。何を今更、とお思いでしょうが、私だって今までも一応話は判ってみているつもりだったけれど、こんなに深い親と子の繋がりの物語だったんだとまるで初めて知ったような気がした。

そう思わせたのはもちろん、吉右衛門の親(右近)の思い入れの深さ。子(左近)を常に見守り、背を向けているときでさえ気にかけていることが手に取るようにわかる。その視線の温かさと厳しさ、深さ。こんな右近は観たことがない。子をわざと谷底へ突き落とし、探すときの厳しくも心配そうな目。なかなか上がってこないので、「あら育てつる甲斐もなや」となった時の悲しそうで寂しそうな目。もちろん台詞なんて一言もないのに、台詞以上に雄弁に視線が物語っていた。こんなに長唄の歌詞がすとんと心に入ってきた踊りは初めて観た。
また、目と同じくらい暖かかったのが吉右衛門の手。鷹之助くんの肩や背中にそっと、あるいはぽんと叩くように添えられた手が、鷹之助くんを励ましている。その優しそうなぬくもりが観ている方にも感じられるほど。

鷹之助くんも吉右衛門の気持ちに良く応えて、とてもしっかり踊っていた。と言うか、踊りそのものは吉右衛門さんより上手(苦笑)だし。名手だったお父さんのDNA か、下半身がとても安定していて、手先も綺麗。腰を落とした姿勢の綺麗に決まること。その上、目に何とも言えない色気があるんだわ。12歳にしてこの色気、末恐ろしい子だ~。月初に観たときはやや緊張気味だったが、月半ばを過ぎると余裕さえ感じられた。

後シテ。
初めて観た吉右衛門の獅子の姿の立派さに惚れ惚れ~。と見とれていると子獅子の鷹之助くん登場。いったん出てきてすぐに花道を後ろ向きに下がっていくのだが、この時長い毛の先を足の間に挟む難しい方の型。しかもさささーっと猛スピードでバックする高等技術を披露して拍手喝采。
連獅子の見物は後シテの毛振りだが、はっきり言って吉右衛門は、はなから回数振る気はなし、と言う感じでゆったり大きく回していたのが印象的。でも全然見劣りしない。やっぱり人柄の大きさが獅子の姿にも表れる感じで、くるくる回せばいいってもんじゃないんだなあ、と感動。それでも最後の方は鷹之資ともどもかなり一生懸命回していたけど。ここも鷹君の方が一枚上手な感じで毛先まで綺麗に回していた。

前シテも後シテも二人の気持ちが通じ合って、実の親子以上にまるで血が通っているかのような濃い空気が漂っていて、ただただ涙ぼろぼろ。

間狂言の宗論は錦之助と又五郎。滑稽さもありながら、品を落とさずまとめたあたりはこの二人らしい。

そんなわけであまりに感動して、4回も連獅子観るためだけに通ってしまった。(最初から2回はチケット取ってたけど)特に千秋楽は、平日だったのであきらめていたが、絶対にこの連獅子の最後を見届けなくては、と半休取って駆けつけた。
その甲斐あって、楽日はまた違った感動があった。
特に前シテで、谷から上がってきた子獅子と再会した親獅子吉様の嬉しそうなお顔が輝いていた。最後の最後に「よくやったね」って鷹君を褒めてあげてるみたいに見えた。二人が手を取り合う様子に喜びが溢れていて、血縁を越えた繋がりの温かさに感動。
花道を見送るときも、前は心配そうに見守ってたのが、楽日は、「よし、大丈夫だな」って頷いてるような気がした。
二人がとても幸せそうで心が暖かくなる連獅子でした。

後シテの毛振りも楽日スペシャルとでも言うか、普段の1.5倍位の回数回してて、ちょっと心配になるほど。まさに渾身の毛振りにまた涙止まらず。
楽日に行って良かった。この連獅子が観られて本当に良かった。一生の宝物になった。
天国の富十郎さんも喜んで下さっているだろう。劇場のどこかにきっといらっしゃったと思う。
鷹之助くんはこれから天王寺屋を一人で背負って行かなくてはいけない。その道の険しさを、10歳で初代をなくした吉右衛門さんは誰よりも身に染みてわかっておられるだろう。吉右衛門さんがついている限り、きっと大丈夫、と思わせてくれたこの連獅子。これからの天王寺屋を観客の一人としてあたたかく見守り続けたいと思う。

三、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
  め組の喧嘩
  品川島崎楼より  神明末社裏まで                  
め組辰五郎  菊五郎                     
お仲  時 蔵               
尾花屋女房おくら  芝 雀                
九竜山浪右衛門  又五郎                  
柴井町藤松  菊之助                 
伊皿子の安三  松 江                   
背高の竹  亀三郎                  
三ツ星半次  亀 寿                
おもちゃの文次  松 也                 
御成門の鶴吉  光                  
山門の仙太  男 寅                    
倅又八  藤間大河                  
芝浦の銀蔵  桂 三                 
神路山花五郎  由次郎                
宇田川町長次郎  権十郎               
島崎楼女将おなみ  萬次郎                
露月町亀右衛門  團 蔵                 
江戸座喜太郎  彦三郎                  
四ツ車大八  左團次                 
焚出し喜三郎  梅 玉

「連獅子」で完全に魂抜かれた後の狂言がこれで良かった。裏も腹もな~んにもない、ただ呆れるくらい楽しい演目。
鳶と力士が喧嘩して仲裁され、喧嘩しては仲裁され、ついに大立ち回りの大げんかになってまたまた仲裁され。ただそれだけ。
だからこそ、役者の器量が試されるというか、演技力じゃなく、どこまで格好いいか。どれくらい粋か。がそのまま出てしまう、ある意味怖い演目ではあるかもしれない。
その点、菊五郎以上に適した役者は今考えられない。もう、文句なしに格好いい!ほんとに、粋でいなせな江戸っ子をやらせたら右に出る人いないよねえ。

時蔵のお仲もそんな亭主のおかみさんらしい鉄火肌。喧嘩しない夫に業を煮やして出ていく!なんて言っちゃう、普通と違うおかみさんだが、気っ風が良くていい女。やっぱり菊時は完璧コンビ。

菊ちゃんが短気でいなせでこちらも格好いい~。屋根に登って纏を振る姿にうっとり。そのうち辰五郎をやるんだろうな。
松也も気の良い鳶の雰囲気。

力士側は左團次に又五郎。よく考えると力士の言い分の方が正しいんだけど(苦笑)、敵役扱いで可哀想。二人とも大きさと貫禄があって立派な関取。
由次郎がまさかの力士側、肉襦袢着て立ち回りまで。うっそ。もっと若い人いるでしょ―、って感じだが、はらはらしちゃって逆に萌えたかも(笑)。

梅玉が最後に割って入る辰五郎の兄貴分で、時代物で言えば捌き役。短い出番なのだが体を張った梯子技も見せて美味しい役どころ。
他に萬次郎、彦三郎らベテランがしっかり脇を締めた。

だがいちばん観客に受けていたのが、松緑の息子の大河君。今月お父さんとは別に一人だけの出演だが、可愛い上に仕草がいちいち堂に入っていて芝居っ気たっぷり。台詞も結構あるのだが、しっかりこなしてるし、「あいよっ!」という返事が元気元気。その上、座るときに毎度裾をまくって尻からどんっ、と座る姿がもうほんとに可愛い。もう観客の女性陣のハートを鷲掴み。

千秋楽にはこの演目、いつもは結構はちゃめちゃなことをやるという噂があって楽しみにしていたが、あら今回は何もないのね、と思っていたところ、大立ち回りに大河ちゃん扮する又八が登場!怪我した鳶に向かって「でーじょーぶか~?お~い、戸板持ってこ~い」と可愛い声を張り上げたものだからもうたまらん。楽日は、大河ちゃんが全部持って行っちゃった。

とにかく肩の凝らない文句なしに楽しい演目で打ち出し。正月公演にふさわしい終わりでした。
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★とろりん★

mamiさま、

レポ、心待ちにしておりました!
そして、レポを拝見して、あの夜の感動がまざまざと
よみがえってきて、胸がいっぱいになりました。

今でも、吉右衛門丈の深くあたたかい眼差し、
その眼差しに守られて力の限り踊る鷹之資くんの姿を
思い出すだけで、胸が熱くなります。
天国の富十郎丈、きっときっとご覧になっていましたよね。

血縁関係や姻戚関係だけで受け継がれていくものではない、
新しい「継承のかたち」を目の当たりにしたような舞台でした。
この「連獅子」、私にとっても宝石のように輝く思い出となりました。
by ★とろりん★ (2012-01-30 13:56) 

mami

とろりんさん、nice!とコメントありがとうございます。
ほんとに素晴らしい連獅子でしたよねえ。
記事を書きながら思い出して泣けてしまうほどでした。
(おかげでやたら力の入った長文になってしまいました……。)
普通の追善公演とはまったく違う、お二人はもちろん、鳴り物から客席まで熱い思いのこもった舞台でした。
本当に観ることができて良かったです。


by mami (2012-01-30 21:48) 

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