三月大歌舞伎・夜の部 [舞台]
3月7日(月)
3月に入ったのに、この日は朝から東京でも雪~!屋根の上にはしっかり積もるくらい降って、出かけるのが嫌になりそうだったが昼頃には止んだのでほっとした。ほんとに今年は寒暖の差が激しい。
源氏物語
一、浮舟(うきふね)
匂宮 吉右衛門
薫大将 染五郎
浮舟 菊之助
侍従 尾上右 近
右近 萬次郎
中の君 芝 雀
弁の尼 東 蔵
中将 魁 春
時方 菊五郎
近頃歌舞伎で配役を見てこんなに驚いたのは珍しい。と言うくらいびっくりしたのが吉右衛門の匂宮。ぜんっぜんニンじゃないでしょ~!誰よ、こんな配役考えたの?と、ほとんど怒りさえおぼえてしまった(笑)。見る前からこんなに良くも悪くもドキドキしたのは久しぶりだわ。こういう心臓に悪いのは、月初めにさっさと見てしまおう、と普段できるだけ後半に行くのにまだ初日間もないうちに足を運んだ。
前にこの演目を観たときは、現勘三郎の匂宮、仁左衛門の薫、玉三郎の浮舟、と言う配役。元々源氏物語にそう興味がないし、戦後の新作歌舞伎も好きじゃない。三人ともまあはまり役と思えたこの時もあんまり面白いとは思わなかったので、余計に今回は期待薄。その上前評判で吉右衛門が初日が開いても台詞が完全に入っていないというのが聞こえてきて、ますます見る気が萎えそう。参ったな。
幕が開く前に音楽がスピーカーから流れるのは新作歌舞伎のお決まりみたいになってるが、これが初演時から変わっていないらしい年代を感じる代物なのはどうにかならないかしら。映画じゃないんだから。この作品でも、女性コーラスが入った古臭い曲で、昔の宝塚かよ~?と思ってしまった。
幕開きは、薫と浮舟。菊之助の浮舟が少女らしい無垢であどけない、田舎育ちののびのびした様子。それを微笑ましく見る染五郎の薫も清潔で気高い雰囲気がぴったり。
そこに吉右衛門の匂宮が現れるのだが、さすがに染五郎と張り合うのは無理があるよなあ、とファンのくせに感じてしまう(苦笑)。しかも案の定台詞がまだ怪しい……。ううむ、これはきついぞ。
と思って見始めたのだが、それがね、不思議なことに台詞の危なっかしさも、年相応の見た目も、だんだん気にならなくなってくる。なんというか不思議な愛嬌があって。本能のまま動く天真爛漫さとでもいうか。昔勘九郎で観た時はただ色好みのスケベな奴に思えたけど、この吉右衛門の匂宮は、確かに色好みではあるが、浮舟を恋する心には偽りはなく、ただ自分の心に正直にまっしぐらに(他の人の気持ちなどこれっぽっちも考えずに)突き進む人なんだな、と思えて、浮舟や薫には迷惑かもしれないけど、端から見る分には一途で可愛くもあり、と思えてしまった。ふうむ。どう見たって、良い人じゃないんだけど、堅物で生真面目な面白くない薫よりつきあうには面白い男かな、なんてつい思ってしまうような、妙に説得力のある匂宮だったなあ。
こんな匂宮を相手に回しては、染ちゃんの薫も分が悪い。でもいかにも貴公子らしい品と美しさがあり、優しく理想の高い薫に染五郎はぴったり。まあ、本当に夫にするにはこっちの方が良いんだろうけど、でもやっぱり木偶の坊さ加減には呆れてしまい、弁の尼でなくても「あんたが悪いんだよ~!」と言いたくなってしまう。
菊之助がそういう対照的な二人に挟まれて揺れる浮舟を可愛らしく、生き生きと見せて出色の出来。でも菊ちゃんだと、引き裂かれて自分の心も見失う弱い女に見えないかも、なんてちょっと感じた。もっと自立したどちらにも寄りかからず生きていけそうな……。
菊五郎の時方はご馳走。吉右衛門と顔を合わせると、なんか妙に江戸時代の芝居っぽくくだけるのがなんだか可笑しくて、実はこの二人の場がいちばん面白かった。菊五郎の匂宮も良いんじゃないかな。観てみたい。
魁春の母親中将というのが意外に良くて、若い頃は奔放で男好きだったというやけにさばけた女を嫌らしくなくやっていて上々。
芝雀の中の君も、匂宮の足が遠のいて寂しい妻のしんみりとした雰囲気がぴったり。
他の周りも揃って、思っていたよりずっと面白かった。やっぱり芝居は観てみないとわからないなと実感。
二、水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)
筆屋幸兵衛
浄瑠璃「風狂川辺の芽柳」
船津幸兵衛 幸四郎
萩原妻おむら 魁 春
車夫三五郎 松 緑
差配人与兵衛 錦 吾
代言人茂栗安蔵 権十郎
巡査民尾保守 友右衛門
金貸因業金兵衛 彦三郎
夜の部にあんまり気が進まなかったのは、この演目もあまり好きじゃないから。面白いかな、これ。ひたすら貧乏の辛さをこれでもかって見せられて、あげくに主人公が発狂するんだよ。いくら最後は助かって、水天宮様の御利益、とか言っても、暮らしが良くなる当てができたわけじゃないんだし。っていつも思うんだけど。
幸四郎の幸兵衛は落ちぶれ果てても元は武士という様子が見えるのがさすがに上手い。追い詰められて頭がおかしくなり暴れ出す様子も無理なく見せて上々。同じ黙阿弥の新三や宗五郎なんかよりはずっと自然で、こちらも安心して観ていられる。ただどうしても、暴れ方にあざとさのような物が見えてしまうのがこの人の欠点。
松緑の三五郎が活きの良い江戸っ子風でニンに合っている。
錦吾の差配も情のある様子がなかなか。
子役の梅丸と吉太朗も好演。
六世中村歌右衛門十年祭追善狂言
三、吉原雀(よしわらすずめ)
鳥売りの男 梅 玉
鳥売りの女 福 助
筆幸で終わるのはさすがにあんまりと思ったか、短いが踊り一幕がつく。今月は六世中村歌右衛門十年祭追善で夜の部はこれがその演目。
梅玉と福助が、吉原で放生会のための雀を売る夫婦を、明るく華やかに踊って見せて追善にも打ち出しにも良い演目となった。梅玉と一緒だと福助もいつもより行儀良いように見えて、二人ともすっきりと美しくて、なかなか良い組み合わせ。
3月に入ったのに、この日は朝から東京でも雪~!屋根の上にはしっかり積もるくらい降って、出かけるのが嫌になりそうだったが昼頃には止んだのでほっとした。ほんとに今年は寒暖の差が激しい。
源氏物語
一、浮舟(うきふね)
匂宮 吉右衛門
薫大将 染五郎
浮舟 菊之助
侍従 尾上右 近
右近 萬次郎
中の君 芝 雀
弁の尼 東 蔵
中将 魁 春
時方 菊五郎
近頃歌舞伎で配役を見てこんなに驚いたのは珍しい。と言うくらいびっくりしたのが吉右衛門の匂宮。ぜんっぜんニンじゃないでしょ~!誰よ、こんな配役考えたの?と、ほとんど怒りさえおぼえてしまった(笑)。見る前からこんなに良くも悪くもドキドキしたのは久しぶりだわ。こういう心臓に悪いのは、月初めにさっさと見てしまおう、と普段できるだけ後半に行くのにまだ初日間もないうちに足を運んだ。
前にこの演目を観たときは、現勘三郎の匂宮、仁左衛門の薫、玉三郎の浮舟、と言う配役。元々源氏物語にそう興味がないし、戦後の新作歌舞伎も好きじゃない。三人ともまあはまり役と思えたこの時もあんまり面白いとは思わなかったので、余計に今回は期待薄。その上前評判で吉右衛門が初日が開いても台詞が完全に入っていないというのが聞こえてきて、ますます見る気が萎えそう。参ったな。
幕が開く前に音楽がスピーカーから流れるのは新作歌舞伎のお決まりみたいになってるが、これが初演時から変わっていないらしい年代を感じる代物なのはどうにかならないかしら。映画じゃないんだから。この作品でも、女性コーラスが入った古臭い曲で、昔の宝塚かよ~?と思ってしまった。
幕開きは、薫と浮舟。菊之助の浮舟が少女らしい無垢であどけない、田舎育ちののびのびした様子。それを微笑ましく見る染五郎の薫も清潔で気高い雰囲気がぴったり。
そこに吉右衛門の匂宮が現れるのだが、さすがに染五郎と張り合うのは無理があるよなあ、とファンのくせに感じてしまう(苦笑)。しかも案の定台詞がまだ怪しい……。ううむ、これはきついぞ。
と思って見始めたのだが、それがね、不思議なことに台詞の危なっかしさも、年相応の見た目も、だんだん気にならなくなってくる。なんというか不思議な愛嬌があって。本能のまま動く天真爛漫さとでもいうか。昔勘九郎で観た時はただ色好みのスケベな奴に思えたけど、この吉右衛門の匂宮は、確かに色好みではあるが、浮舟を恋する心には偽りはなく、ただ自分の心に正直にまっしぐらに(他の人の気持ちなどこれっぽっちも考えずに)突き進む人なんだな、と思えて、浮舟や薫には迷惑かもしれないけど、端から見る分には一途で可愛くもあり、と思えてしまった。ふうむ。どう見たって、良い人じゃないんだけど、堅物で生真面目な面白くない薫よりつきあうには面白い男かな、なんてつい思ってしまうような、妙に説得力のある匂宮だったなあ。
こんな匂宮を相手に回しては、染ちゃんの薫も分が悪い。でもいかにも貴公子らしい品と美しさがあり、優しく理想の高い薫に染五郎はぴったり。まあ、本当に夫にするにはこっちの方が良いんだろうけど、でもやっぱり木偶の坊さ加減には呆れてしまい、弁の尼でなくても「あんたが悪いんだよ~!」と言いたくなってしまう。
菊之助がそういう対照的な二人に挟まれて揺れる浮舟を可愛らしく、生き生きと見せて出色の出来。でも菊ちゃんだと、引き裂かれて自分の心も見失う弱い女に見えないかも、なんてちょっと感じた。もっと自立したどちらにも寄りかからず生きていけそうな……。
菊五郎の時方はご馳走。吉右衛門と顔を合わせると、なんか妙に江戸時代の芝居っぽくくだけるのがなんだか可笑しくて、実はこの二人の場がいちばん面白かった。菊五郎の匂宮も良いんじゃないかな。観てみたい。
魁春の母親中将というのが意外に良くて、若い頃は奔放で男好きだったというやけにさばけた女を嫌らしくなくやっていて上々。
芝雀の中の君も、匂宮の足が遠のいて寂しい妻のしんみりとした雰囲気がぴったり。
他の周りも揃って、思っていたよりずっと面白かった。やっぱり芝居は観てみないとわからないなと実感。
二、水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)
筆屋幸兵衛
浄瑠璃「風狂川辺の芽柳」
船津幸兵衛 幸四郎
萩原妻おむら 魁 春
車夫三五郎 松 緑
差配人与兵衛 錦 吾
代言人茂栗安蔵 権十郎
巡査民尾保守 友右衛門
金貸因業金兵衛 彦三郎
夜の部にあんまり気が進まなかったのは、この演目もあまり好きじゃないから。面白いかな、これ。ひたすら貧乏の辛さをこれでもかって見せられて、あげくに主人公が発狂するんだよ。いくら最後は助かって、水天宮様の御利益、とか言っても、暮らしが良くなる当てができたわけじゃないんだし。っていつも思うんだけど。
幸四郎の幸兵衛は落ちぶれ果てても元は武士という様子が見えるのがさすがに上手い。追い詰められて頭がおかしくなり暴れ出す様子も無理なく見せて上々。同じ黙阿弥の新三や宗五郎なんかよりはずっと自然で、こちらも安心して観ていられる。ただどうしても、暴れ方にあざとさのような物が見えてしまうのがこの人の欠点。
松緑の三五郎が活きの良い江戸っ子風でニンに合っている。
錦吾の差配も情のある様子がなかなか。
子役の梅丸と吉太朗も好演。
六世中村歌右衛門十年祭追善狂言
三、吉原雀(よしわらすずめ)
鳥売りの男 梅 玉
鳥売りの女 福 助
筆幸で終わるのはさすがにあんまりと思ったか、短いが踊り一幕がつく。今月は六世中村歌右衛門十年祭追善で夜の部はこれがその演目。
梅玉と福助が、吉原で放生会のための雀を売る夫婦を、明るく華やかに踊って見せて追善にも打ち出しにも良い演目となった。梅玉と一緒だと福助もいつもより行儀良いように見えて、二人ともすっきりと美しくて、なかなか良い組み合わせ。
タグ:吉右衛門
地震がありましたが、大丈夫でしょうか。
by そらへい (2011-03-11 21:11)
そらへいさん、
ありがとうございます。とりあえず無事です。
by mami (2011-03-12 00:25)
よかった。無事ですね。
こちらも大丈夫です。テレビの前に布団敷きました。
by リュカ (2011-03-12 01:39)
リュカさん、
ありがとうございます。
昨日は電車が止まってしまい、4時間半歩いて帰宅しました。
でも無事なだけましだと思いました。
まだ余震もありますので、リュカさんもお気をつけて下さいね。
by mami (2011-03-12 19:16)
ご無事でよかったです~!
私も皇居前で地震にあい、徒歩帰宅。6時間以上歩きました。
疲れましたが、火事場のばか力で、歩き切りました。
大変な事になっていますね。胸が痛みます。
by palette (2011-03-13 20:21)
paletteさん、
6時間ですか!大変でしたね!
でも本当に無事で帰れただけでも幸せと思わないといけませんね。
テレビを見るたびに辛くなります。
節電とか募金とか、できることは何でもしなくては、と思います。
by mami (2011-03-13 21:42)