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ドガ展 [美術]

9月27日(月) 横浜美術館
http://www.degas2010.com/

まだ会期初めの雨の平日の午後とあってかなり空いていて、ゆっくり観られた。ラッキー。

同じ印象派でも、モネやルノワールの展覧会はよくあるが、ドガだけのは珍しい。今回は、国内ではなんと21年ぶりという回顧展。改装中のオルセー美術館の所蔵品を初めとして、約120点を展示している。

ドガは印象派のメンバーの一人だが、モネやルノワールなどのように屋外の光を求めた絵はほとんど描いていない。もちろん競馬場のシリーズなどはあるが、他の印象派の風景画とはかなりイメージが違うような気がする。何というか、もっと都会的でクールとでも言うのか。その辺が、マネの系統に近い感じ。

そういうドガの知的なセンスが良く出ているのが肖像画。対象を美化しない、時にシニカルささえ感じさせるものもある。

マネb.JPG
「マネとマネ夫人像」
夫人の半分が切れているのは、出来栄えに不満を持ったマネ自身が切断してしまったという逸話付きの絵。マネの方だってお世辞にも立派に描かれているとは言えない。いくら親しい仲とは言え、こんな肖像画もらったら、ちょっとねえ、と確かに思う絵ではある。

美術館訪問c.JPG
「美術館訪問」
人間嫌いで友達が少なかったというドガの数少ない友人、メアリー・カサットをモデルにした絵。

今回はデッサンも多数展示されていて、多作とはいえないドガが、何枚も下絵を描いてから本作に取りかかったこともわかる。

ドガは他の印象派の画家たちよりも、人物や馬の一瞬の動きをとらえることに執着した。それが競馬場シリーズであり、踊り子のシリーズとなった。

エトワールa.JPG
「エトワール」
今回の出品作の目玉。日本初公開のオルセーのお宝。
58X42と実物は意外と小さい。また全体の色合いがイメージしていたより渋くて地味な印象ではある。でも、舞台で照明を浴びて踊るエトワールの一瞬を切り取った斬新な構図は目を引かずにおかれない。ドガの視点の面白さは、華やかなエトワールだけでなく、舞台袖で待機している他の踊り子やパトロンらしい紳士の姿も描き込んで、いわば舞台の表と裏を同時に描いて見せていることだろう。

稽古場.JPG
「踊りの稽古場にて」
こちらは舞台ではなく稽古場の何気ない情景を切り取った一枚。パステル特有の早い筆遣いもあって、踊り子たちへの親近感も感じられる。

踊り子像d.JPG
「14歳の小さな踊り子」
ドガの生前に制作された唯一のブロンズ像。木綿の布の衣装を着せ、髪にはサテンのリボン、と像と言うよりお人形のよう。

これが「生前唯一」と聞いて、あれ?ドガって他にも踊り子や馬の彫刻あったよね、と思ったら、それらはドガの死後アトリエに遺されていた蝋の塑像から鋳造されたのだという。晩年視力が衰えたドガは、そういう塑像をたくさん作っていて、今回はそういうブロンズ像も多く展示されていて、ドガの飽くなき動きへの追求を観ることができる。

晩年は、油絵よりもパステルを好むようになり、そんな中多く取り組んだのが浴女のシリーズ。発表当時は赤裸々すぎると非難されたという裸婦像は、初期の肖像画に見られるクールな眼差しと、踊り子シリーズと同じく様々なポーズへの関心が融合したものなのかもしれない。

湯浴みする女e.JPG
「浴盤 湯浴みする女」
セザンヌの静物画も連想させる。上からの視点が珍しい。パステルの色合いが綺麗な絵。

ドガの浴女の絵は、ほとんどが室内に置かれたこういう盥で体を洗ってるのだが、当時はこういうスタイルが普通だったのかしら。バスルームができたのはもっと後?

ドガの絵というと踊り子シリーズくらいしか知らなくて、何となく可愛くて綺麗な絵、をイメージして観に行くとちょっと肩すかしに会うかもしれない。でも回顧展にふさわしく、画業のほとんどを俯瞰出来て、油絵、デッサン、パステルに彫刻、さらには写真も見られる貴重な展覧会。お薦めです。

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コメント 8

ユキタロウ

ドガですか・・・こうしてみると地味ですね・・・。(汗)

そんな地味な作風の作品の中でエトワールだけが輝いて見えますが、パトロン無しでは生活が成り立たなかった踊り子達の、精一杯の「晴れ姿」を書きたかったのでしょうか?

文字通り「異彩」を放ってますね・・・。
by ユキタロウ (2010-10-01 21:05) 

そらへい

私もドガというと、踊り子のシリーズくらいしか
知りませんでした。
というか、それで片付けてしまっていたところがありました。
印象派と言われると、そうだったのかと思うところもありますね。
実際の絵を見るのは、演劇や音楽の生演奏に
立ち会うのと同じくらいの衝撃?があると思います。
by そらへい (2010-10-01 21:55) 

palette

ドガ、特にパステルのものが好きです。
裸婦の肌の色が、とてもきれいですね。
明日、横浜に行くのですが、寄れるかなあ。
時間があるといいんですが。
by palette (2010-10-02 21:51) 

mami

ユキタロウさん、こんばんは。
一見、地味ですよね、意外と。でも実物を見てるとそうでもないんですよ。
ドガの踊り子シリーズは、舞台よりも稽古やリハーサルなどを描いた方が多いですね。いったん舞台を降りれば華やかとは言えない彼女たちの生活に注いだドガの温かい眼差しを感じます。
by mami (2010-10-02 23:53) 

mami

そらへいさん、こんばんは。
ドガは確かに印象派展にはずっと参加していましたが、目指したところは他の印象派の画家たちとは違うように感じます。
踊り子以外も見るものはたくさんありますよ~。
絵でも音楽でも、生でないと伝わらないものはやはりあると思います。
機会があればぜひ足を運んで下さいね。
by mami (2010-10-02 23:58) 

mami

paletteさん、こんばんは。
パステルって、油絵と違って色に濁りがないので綺麗ですよね。ドガのもやさしい色合いのものが多くて素敵です。
まだ始まったばかりなので会期は先までありますが、混まないうちにどうぞご覧になって下さいね。
by mami (2010-10-03 00:01) 

ぶんじん

へぇ、ブロンズ像も造っていたんですか。知らなかったなぁ。これは一見の価値ありだ。
by ぶんじん (2010-10-03 16:29) 

mami

ぶんじんさん、ドガのブロンズ像って珍しいですよね。今回は記事で紹介したのの他にも、死後制作されたものが多数見られました。自分では発表しなかったわけですから、ドガとしては不本意かも知れませんが、一見の価値ありです。
by mami (2010-10-03 21:23) 

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