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七月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

7月19日(月) 新橋演舞場

土曜日に梅雨が明けたばかりなのに、東京は35℃くらいの猛烈な暑さ。外に出るとくらくらしそう。
演舞場の客席は、それほど冷房がきつくない。コンサートホールなどでは、よく真夏は冷房がきつすぎて1枚羽織るものが要るところがあるが、ここはそんなこともない。ということは逆に役者さんにとってはとっても暑いんじゃないだろうか。始めの「暫」みたいに、たくさん重ね着をしているのを見ると、大変だなあ、とつくづく感じてしまった。

一、歌舞伎十八番の内
  暫(しばらく)
鎌倉権五郎  團十郎           
鹿島入道震斎  三津五郎             
加茂次郎  友右衛門             
成田五郎  権十郎              
桂の前  門之助            
足柄左衛門  亀 寿             
加茂三郎  松 也              
小金丸  巳之助             
大江正広  新 悟             
埴生五郎  桂 三             
荏原八郎  由次郎             
東金太郎  市 蔵             
局常盤木  右之助           
家老宝木蔵人  家 橘          
那須九郎妹照葉  福 助             
清原武衡  段四郎

歌舞伎十八番の中でも、派手さと荒唐無稽さでは群を抜く、理屈抜きに楽しい演目。ここしばらく、海老蔵の主演が続いていて、團十郎は久しぶりかも。

お家芸の團十郎、おおらかさと力強さを兼ね備えた様子がさすがに立派。揚げ幕内からの「しば~ら~く~」の声が聞こえたところから、観客をわくわくさせる。花道でのツラネでは、歌舞伎座から演舞場へ移ったことにもさらっと触れ、震斎や照葉らとのやりとりも笑わせる。
舞台に移ってからは、見得を決めた姿が大きく、大太刀を抜いて仕丁らの首を落とすところは稚気あふれて楽しい。最後は刀を担いで豪快に引っ込んでいった。

三津五郎の入道震斎も剽軽な可笑しさとおおらかさがあり上々。
福助の照葉も可愛げと粋な味があってなかなか。
段四郎の武衡に「ウケ」らしい悪の貫禄があって立派。
権十郎始めとする腹出しでは、市蔵が一段手慣れた様子。亀寿が一人若手で奮闘。
太刀下もいい顔ぶれがそろった。しかし、友右衛門や門之助は今月これだけの出番。もったいないなあ。
話自体は馬鹿馬鹿しいくらいだけど、暑気払いにはもってこいの文句なしに楽しい舞台だった。

二、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
  土佐将監閑居の場             
浮世又平  吉右衛門            
女房おとく  芝 雀           
土佐修理之助  種太郎            
将監北の方  吉之丞           
狩野雅楽之助  歌 昇             
土佐将監  歌 六

今月一番期待の舞台。
吉右衛門当たり役の又平。いつもながら細やかな心理描写に優れ、花道の出から、何かしら思い詰めた表情が又平の不安と焦燥を表す。師匠に土佐の名字がもらいたいと願い出るところの必死さが哀れで、もらえないなら死にたいとまで迫る姿には、何もそこまでと思わずにいられないが、画家としてただの田舎絵師で終わりたくないという一途な願いが胸を打つ。この場面、下手な人だと、吃音でもあるし、師匠に叱られても懲りないし、女房は叩くしで、思い込みが激しいだけの馬鹿な奴に見えてしまうのだが、吉右衛門だとむしろいじらしいまでの一途さと見えるところがさすが。
死を覚悟して手水鉢に絵を描くところは、鬼気迫るような集中力を見せ、奇跡が起きて師匠に名字を許されてからは喜びが爆発した様子を生き生きと見せて、観ているこちらも安堵してつい口元がほころんでしまう。
最後に大頭の舞を舞うところでは、吃音を忘れさせる朗々とした語り口で、歌詞の内容といい「勧進帳」を思い起こさせるようで楽しい。
前半の重苦しさを一気に大団円に持って行ったのは作者近松の力だが、又平の心情の動きを描き切った吉右衛門、さすがの大舞台。

だが、この日いちばん泣かされたのは、吉右衛門ではなくおとくの芝雀の演技。
この役はともすると姉さん女房のような風情になるが、芝雀だとあくまでも控えめで、でも夫のために一生懸命つくしているのが本当に暖かくて情のこもった様子。絶望して死を覚悟した夫に、自分も一緒に死ぬからその前に手水鉢に絵を描いて、と勧めるところ、細々と世話を焼きながら夫をひたすら気遣う様子が切なく哀れで、又平の手を取ってさする場面が愛情があふれていて、泣けて仕方がなかった。
芝雀さんは汗かきなので、途中からずっと汗がしたたっていて気の毒なくらいだったが、その汗が涙じゃないかと錯覚しそうなほど、心情のあふれるおとくで本当に素晴らしかった。

歌六の将監は、厳しくも温かい人柄のにじむお師匠さんという様子が見えてさすがにうまい。
種太郎の修理之助が爽やかで礼儀正しい少年の様子。吉右衛門の又平とがっつり組む場面があるが、いい勉強になったことだろう。
歌昇の雅楽之助は手に入った役できっぱりとした様子がさすが。
吉之丞の北の方も品のある、情け深い奥方の風情。
歌六や歌昇に「萬屋!」の大向こうがかかるのも今月限りなんだなあ、とちょっと感慨深かった。

吉右衛門と芝雀のツーショットの舞台写真がほしかったが、一人ずつのしかなかったので筋書きを購入。
舞台写真はプロマイド的な性格なのだろうけど、良い場面のは二人三人一緒のも撮ってほしいな。

三、馬盗人(うまぬすびと)       
ならず者悪太  三津五郎          
ならず者すね三  巳之助            
百姓六兵衛  歌 昇

三津五郎が復活上演した演目と言うことだが、私は初見のような気がする。
民話の世界を舞踊に移したもので、話はほのぼのと毒のないもの。正直者で人の好い百姓とその馬を盗もうとするならず者のやりとりがおもしろおかしく踊られるが、その馬が傑作で、人間の話が解っているかのように間に入って踊るのがめちゃくちゃ可笑しい。歌舞伎で馬が活躍する演目は「一ノ谷嫩軍記」の「組討ち」などもあるが、ここまで主役級に踊るのは他にないのでは。馬を演じた(?)大和と八大(ちゃんと筋書きに名前と馬だけの写真が載っている!)に盛大な拍手が贈られていた。

歌昇が朴訥な百姓の味があり、三津五郎は狡猾だが剽軽な泥棒の様子が面白く、さすがに踊りがうまい。巳之助は懸命だがまだ余裕がないのでおかしみを出すところまでは行かないか。
ともかく打ち出しにはぴったりの楽しい演目だった。

夜の部は終演時間が8時20分くらいと、いつになく短かった。ほんとはもう一つくらい舞踊がついても良さそうだけど、人が少ないからかな。でも「暫」に「吃又」で結構おなかいっぱいになったので、それほど不足感はなかった。

この日は幕間に、よく当ブログにコメントを下さるnoriさんと初めてご対面。ほんの短い立ち話だったが、ブログを通して交友が広がるというのは、ブログを始めたときは思ってもいなかったことで、不思議な感じ。noriさん、どうもありがとうございました。又どこかでお会いできるといいですね。
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nori

 お会いできてお話ができましたことありがとうございました。私のブログをみると遊んでばかりのようですが、ひまをみて仕事をしているということもわかっていただけたかと思います。これからもよろしくお願いします。
by nori (2010-07-21 20:20) 

mami

noriさん、先日はお忙しい中の観劇、お疲れ様でした。
今度は大阪か京都ででもお会いしましょう。
by mami (2010-07-21 23:40) 

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