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オルセー美術館展2010「ポスト印象派」 [美術]

7月5日 新国立美術館
http://orsay.exhn.jp/index.html

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先日のボストン美術館展に続いての大型企画展。出品数ではこちらが大いに上回るし、なんと言っても印象派、ポスト印象派という日本でも大人気の作家の絵がそろうという点で、こちらのほうが人気が高そう。この日は平日の午後だったのでそこそこの込み具合だったが、土日などは大変なんだろうな。

従来「後期印象派」と呼び習わされていたが、近頃は「ポスト印象派」と呼ぶそうである。モネなどの印象派の影響を受けながら、そこから離れ別の形での有り様を追求して行った画家たちということなのだろうが、一くくりにするのは難しい。ともかく、19世紀末から20世紀初頭にかけての、抽象画一歩手前までの絵画展。

「第1章 1886年 最後の印象派」には、モネやドガの絵が並ぶいわばイントロダクション。
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1枚目のドガの踊り子は好きなシリーズ。「階段を上がる踊り子」。ドガの絵って、対象を見る目がクール。そこがルノワールと全然違う。

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モネも有名な絵がたくさん。中で気に入ったのはこれ。
「ノルウェー型の舟で」
はじめて見た気がする。後年の睡蓮の池のシリーズの先駆けのような雰囲気。実物は緑が深くてきれいだった。まるで鏡のように映る水面の輝きが見事。

「第2章 スーラと新印象主義」は、スーラ、シニャックなど点描画を一同に。いつも思うがこの手の絵は描くのに根気が要るだろうなあ。どれも色がとてもきれいだが、点描という性格上か躍動感に欠ける。

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シニャック「マルセイユ港の入り口」
鮮やかな色使いは、フォーヴの一歩手前。マティスはシニャックの下でフォーヴィズムのきっかけを掴んだ。

「第3章 セザンヌとセザンヌ主義」
ポスト印象派を代表するセザンヌ。風景画も良いし、人物画も独特の趣があっていいけどやっぱりりんごの静物画が好き。
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「台所のテーブル(篭のある静物)」
よく見ると、上から見たつぼ、横から見た篭、と視点がいろいろなのに、不思議と調和が取れている。セザンヌ・マジック。

「第4章 トゥールーズ=ロートレック」
ロートレックの絵はあまりにオリジナルでほかの誰とも一緒にグループ分けできない気がする。だからか、ここでも一人扱い。ポスターなど版画が多いロートレックだが、今回は貴重な油彩画が数点。
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「黒いボアの女」
スケッチのような荒いタッチが印象的。

「第5章 ゴッホとゴーギャン」
まったく違う二人なのに、ほんの一時期一緒に暮らしたというだけで常にセット扱い(笑)。

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ゴッホ「アニエールのレストラン・ド・ラ・シレーヌ」
まだパリにいた時代の、印象派の影響が強い作品。まるでユトリロのような、穏やかな色使いがゴッホには珍しいかも。しかしタッチにはやはりゴッホらしさが。でも多分、本人は気に入ってなかっただろう作品。

私はゴッホよりゴーギャンが好き。ポン・タヴェン時代も良いがやっぱりタヒチに行ってからの強烈な絵が好き。でも今回はタヒチ時代の絵が1枚しかなくてとても残念だった。
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「タヒチの女たち」
タヒチ時代の絵の中では穏やかなほう。不気味な小道具(?)もないし、呪術性も感じられない、素直な人物画で、なんだかちょっと物足りない気も。ま、ゴーギャンは去年いっぱい観たからいいか。

「第6章 ポン=タヴェン派」
「派」というには微妙な、ゆるい関係のグループ。ゴーギャンに影響を受けている。
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ベルナール「水浴の女たちと赤い雌牛」
ゴーギャンよりセザンヌに近い雰囲気。雌牛はシャガールを思い出させる。

「第7章 ナビ派」
ナビ派も、特徴を簡単に説明できない。装飾的で平坦な、でも色彩感あふれる絵が多い。ドニもヴュイヤールも好きな画家たち。

ドニ1.JPG
ドニ「ミューズたち」
アール・ヌーヴォーのデザインのような木の葉と地面。主題なのに存在感の薄い人物たち。まるで教会の装飾パネルのような、静かな絵。

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ヴァロットン「ボール」
ボールを追いかける女の子(と思ったけど、解説には子供としか書いてない。男の子もあり?)と、遠くに二人の女性。でも主題は風景なのかしら。なんだか不思議な、時間が止まったような絵に感じられるのは写真の影響か。

「第8章 内面への眼差し」
「象徴主義」でくくらずにこういう章立てをしたのは、やや広い範囲の画家を入れたかったからか。ルドンとモローを普通は一緒にしないもんね。

モロー1.JPG
モロー「オルフェウス」
1865年の作品だから、この展覧会では一番古いほう。ポスト印象派展に入れるのはいささかつらい気もする。実際、会場ではひときわ異彩を放っていた気がする。絵の技量という点では本展中ピカ一の作品で、衣装の縫い取りなどの表現の美しさといったらため息が出そうなほど。

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ルドン「キャリバンの眠り」
ルドン作品におじなじみのモチーフがちりばめられた不思議な絵。ルドンって、よくわかんないけど色がきれいなので結構好き。

「第9章 アンリ・ルソー」
ルソーも、ほかの誰とも一緒にできない。奇跡のように現れて屹立している画家。

チラシの絵が「蛇使いの女」本展最大の呼び物がこれ。本邦初公開。これがまったくの想像の産物というから驚き。緑のハーモニーがそれは深く美しい。耳を澄ますと鳥の鳴き声と女の吹く笛の音が聞こえてきそう。

「第10章 装飾の勝利」
カンヴァスから装飾パネルへ。ナビ派の多くが室内装飾を手がけた。ここではその一端を見せる。もともとデザイン画的だったドニなどは壁面を飾っても違和感がない。
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ヴュイヤール「公園」。連作パネルからなる作品。一枚ごとの絵がつながっている様子は屏風絵のようでもある。

その他全部で115点。よく持って来たね、という傑作ばかりの展覧会。今オルセーはどうなっちゃってるのか心配になるくらい。改装中なんだろうね。
これらはほぼ全部、19世紀末から20世紀初頭にかけての20年くらいの作品。このたった20年余りの間にこれだけの多種多様な様式の絵がほぼ同時に、それもフランスの中だけでも存在したというのは驚異的なこと。そのほんの100年前の様式の一律さを思えば奇跡としか思えない発展の仕方。
「ポスト印象派」というのはいわば世代であって流派ではないと改めて思い知る充実の展覧会。混んでいてもぜひお見逃しなく。

絵葉書を買おうかと思ったけど1枚150円。高い!なので珍しく図録を買いました。絵がちょっとゆがんでいるのは図録をスキャンしたからです。お許しください。
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コメント 10

ぶんじん

確かにこれはすごい“品揃え”ですね。混雑はひどそうだけど、やっぱり観に行くかな。
by ぶんじん (2010-07-10 13:13) 

nori

 私のような美術に詳しくない者でも楽しめそうな、日本人が好みそうな美術展ですね。18日(日)の昼から東京で研修会がありますので、午前中はどこかの美術展に行こうかと思って、候補にしたのですが、待ち時間が長くなりそうですね。並んでも見る価値がありそうです。19日(月)の新橋演舞場の夜の部でお会いできるのを楽しみにしています。今月は松竹座夜の部、国立文楽劇場第2部、ボストン美術館展とこれから楽しみです。
by nori (2010-07-10 20:49) 

mami

ぶんじんさん、こんばんは。
休日は混んでるみたいですね。でもそれでも根性出して観る価値はあると思いますよ!パリまでは観に行けませんから。
がんばって下さいね。
by mami (2010-07-10 23:53) 

りゅう

まさに空前絶後ですね!!
本命は《蛇使いの女》と《星降る夜》ですが、他にも楽しみな作品がいっぱい。
今年一番楽しみな展覧会、
私は金曜夜間開館時の鑑賞を考えています。ヾ( ̄ー ̄)ゞ
by りゅう (2010-07-10 23:57) 

mami

noriさん、こんばんは。
日本人は印象派が好きですからね。本当に傑作ぞろいですので、お時間があればぜひぜひ足を運んでください。

19日、こちらこそ楽しみにしています。後日ご連絡いたします。
今月は大阪も観劇の楽しみがいっぱいですね。私も月末に行く予定です。
by mami (2010-07-10 23:59) 

mami

りゅうさん、こんばんは。
「ポスト印象派」をほぼ網羅していますから。こんな規模の展覧会が日本で見られるなんて奇跡的です。
これは見逃せませんよ~。
土日より、夜間のほうがまだましみたいです。土曜も8時までの開館になったようですよ。
by mami (2010-07-11 00:42) 

リュカ

そうそう、ポストカードが一枚150円。
高い!って思いましたっ
気に入ったのを買っていたら、図録と同じ値段になっちゃいそうですw
私も図録買いました。
by リュカ (2010-07-11 09:03) 

mami

リュカさん、ねえ高いですよね。少なくとも公立美術館の展覧会では100円が相場なのに。ぼったくりじゃん、と思ってしまいました。
展覧会の内容は素晴らしかっただけに残念でした。
by mami (2010-07-11 23:40) 

palette

ほんと、絵はがき一枚150円でびっくりでした。
いつからこうなったのかしら?オルセーが特別なのかな?
だんだん、はがきも気楽には買えなくなっちゃいますね。
by palette (2010-07-16 21:05) 

mami

paletteさん、輸入品でもないのに150円はぼったくりですよね!この間の「レンピッカ展」の絵はがきも150円だったので買いませんでした。
せっかく来たんだから記念に、と思う客の足下を見るような商売は、公立文化施設としてやめてほしいです。
by mami (2010-07-16 23:39) 

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