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12月大歌舞伎夜の部 [舞台]

12月21日

今年最後の歌舞伎の日。師走らしい寒い日です。

一・双蝶々曲輪日記  引窓(ひきまど)
三津五郎の南与兵衛・南方十次兵衛、扇雀のお早、橋之助の濡髪長五郎、右之助のお幸

出てくる人がみんな善意でお互いを思いやる、いつ誰がやっても泣けてしまう大好きな演目。実は去年歌舞伎座で好きな演目のアンケートがあったとき、迷った末に私は「勧進帳」でも「忠臣蔵」でもなくこれにした。結果はベスト30にも入っていなかったけど。なんで「源氏物語」や「修善寺物語」がこれより上に来るのか、さっぱり理解できないのだが(笑)。

三津五郎初役の与兵衛、又五郎に習ったと言うだけあって正攻法の取組だが、まだこなれていないと言うか武士と町人の変化の面白味が出るところまで行かない感じ。特に町人の時にもっとくだけた軽さが出ればいいと思うが、これは再演に期待。義母への孝心と、やはり実子にはかなわないのかという切ない思いに揺れる複雑な与兵衛の気持ちを丁寧に演じていて、気持ちの良い出来。

橋之助は相撲取りという柄の大きさがないのはいささか辛いが、こちらもやむを得ず人殺しはしたが義理人情に篤い、真っ直ぐな気性の様子があってなかなか。
扇雀も、昼の部のトンデモ役とはうって変わって(苦笑)、元は傾城というはんなりとした色気がありながら、夫と姑に尽くす心優しい嫁の雰囲気を良く出した。ちゃんとした芝居もできるとわかって安心したわ。
右之助のお幸は手堅い芝居で、実の息子と義理の息子の間で苦しむ老母の哀しさを見せた。

前日新歌舞伎を観た後で、こういう義太夫狂言を観ると、素直に泣けてホッとする(笑)。

二・雪傾城
芝翫の傾城に、勘太郎、七之助、児太郎、国生、宣生、宗生の孫の共演という、まあ成駒屋のほとんど爺馬鹿舞台(笑)。「雪傾城」は今年5月の富十郎の矢車会でもかかった演目だが、あの時は芝翫と愛子だけだったので、曲は同じかもしれないが演出は全く違う。
孫たちの中では勘太郎と七之助はさすがに年長なだけあってそれなりにきちんとした芝居。成り駒屋の4人は児太郎が新造で後の三人は奴、景清、禿の扮装だが、良く言って微笑ましい、と言う程度の出来。
芝翫は傾城だが、鬘が矢車会の時は普通の花魁風だったのが今回は滝夜叉姫みたいなので、あまり似合っていないのが残念。

三・野田版鼠小僧
勘三郎の三太、橋之助の與吉、三津五郎の大岡忠相、福助のお高、扇雀のおらん、勘太郎の清吉、七之助のおしな

15年初演の時見逃したので、これが初見。ほとんど予備知識なしに見たので、思いがけないラストにちょっとびっくり。初めはドタバタ喜劇かと思っていたら、最後はあんな風に社会風刺というか、かなり苦い終わり方。まあ「研ぎ辰の討たれ」だってそうだったし、野田秀樹が単なるコメディを書くわけもないか。さすがに昼のクドカン作品に比べると、収まるところはちゃんと収まっていて完成度は高い。もちろん再演と言うことで、役者がこなれている点も大きいとは思うけれど。

なんと言っても勘三郎の演技無しにはこの話は持たない。ほとんど出ずっぱりで、自由自在に舞台を駆け回り、膨大な台詞をこなし、客を笑わせる、そのバイタリティには頭が下がる。ただ、さすがに勘三郎も歳をとったか、時々ギャグを言いながら息切れがしているのがちょっと痛々しい気も。
こういう役をやれる役者は歌舞伎界には他には見当たらなくて、勘三郎の持ち味としてそれは大きな財産だとは思うけれど、歌舞伎役者としてこれや研ぎ辰が代表作で終わってほしくはないと思う。来年2月は大役に挑戦するようだが、勝負の年にして欲しい。

三津五郎の大岡が不気味な腹黒さを見せてさすがに大きく、橋之助は小賢しい悪党の雰囲気。
勘太郎がおっちょこちょいだが真面目な岡っ引きでニンにあった様子。
子役の宣生のさん太は、台詞がほとんど聞き取れない。いわゆる歌舞伎の子役の発声とは違うのだが、舞台に立つ以上ちゃんと台詞が言えるように指導するべきだろう。

クドカンにしろ野田にしろ、女形の扱いをもうちょっと何とかしてもらえないだろうか。どうしてああも女形にあるまじき動作をさせることでしか笑いを取れないのか。福助も扇雀も、喜んでやってるのかどうかわからないが、見ていて悲しくなってしまう。立役たちは別に変なことをやらされていないのに。女形の型を壊すことでしか女形を使えないとしたら、歌舞伎を書くことにならないと思う。

幕切れは12月24日の設定。師走に観るにはいい演目だった。

今年の観劇はこれで終わり。歌舞伎座もあと4ヶ月ばかりとなってしまった。3,4月は何を上演するのかまだわからないが、最後を飾るに相応しいものであることを期待している。
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コメント 4

nori

 いつも楽しく読ませていただいております。12月もさよなら公演の夜の部を見ました。今までの3回は吉右衛門出演でしたが、今回は野田版鼠小僧をみたかったので。「研辰の討たれ」とよく似たところがありますね。書かれているように、扇雀と福助のはじけすぎは、ちょっと場に合わないような感じです。
 正月は、連続で観劇の御予定のようですが、私は、4日の昼の松竹座のチケットを取りました。歌舞伎や文楽を見るのに正月というのは、また違った雰囲気があるように思います。
by nori (2009-12-23 21:37) 

mami

noriさん、こんばんは。いつもご訪問いただいてありがとうございます。
12月は南座の顔見世に行ったので、正直言って歌舞伎座は付け足し気分でした。「助六」で観劇納めが出来れば最高だったんですけど。

普段は出来るだけ初日など月初めには観に行かないのですが、お正月は帰省中なのと、やはりちょっと独特の気分があるので楽しみにしています。文楽劇場の初日は鏡割りなどもあって賑やかですよ。4日の昼の部はご一緒ですね。ひょっとしてお隣に座ってるかもしれませんね~。
by mami (2009-12-23 23:35) 

nori

お正月の気分を味わいたくて、文楽劇場の3日の第2部のチケットをとりました。第1部は売り切れで手に入らなかったので。着物を着て行こうと考えています。今まで着たことがなくて、置いたままだった着物を、こういう機会に着てみるのも悪くはないかと思って、小物を揃えました。黒っぽい着物で慣れない格好で歩いていたら、それが私です。顔は・・・・・、(若いころは仁左衛門に雰囲気が似ていると言われたこともあるのですが)
by nori (2009-12-30 17:53) 

mami

noriさん、こんばんは。
おおっ、お着物でいらっしゃるんですね。男の方の着物姿は女性以上に粋な感じですよね。
お目にかかれるとうれしいです。
by mami (2009-12-30 23:56) 

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