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仮名手本忠臣蔵・歌舞伎座夜の部 [舞台]

11月15日 歌舞伎座

先月は名古屋の御園座で、今月は歌舞伎座、そして来年1月は大阪松竹座で「忠臣蔵」の通し上演が続く。(ついでに言えば、12月の文楽鑑賞教室も。) 
なんなんですかね、一体。いくら人気演目とは言え、これだけ集中するのも珍しいと思うけど。

通しだが、都合により夜の部を先に観ることに。五、六段目や七段目は単独でも上演されるから、そんなに違和感はない。

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
     同 二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
菊五郎の勘平、時蔵のお軽、東蔵のおかや、梅玉の定九郎、芝翫のお才、左團次の判人源六、段四郎の不破数右衛門、権十郎の千崎弥五郎

先月の忠信といい、この勘平といい、菊五郎は当代の役者ではお手本とでも言うべきか、完成された役の造形といった趣。決まった型や動きがピタリと決まって美しく、それでいてなめらかで自然、取って付けたようなわざとらしさが全くない。感情表現にしても、六段目でちょっと浮き浮きして帰ってきたのが、お才の出した財布を見て愕然とし、お軽と悲痛な別れをし、おかやに責め立てられて言い訳も出来ず、不破と千崎に追いつめられて腹を切らざるを得なくなるその苦しさ無念さが胸を打つ。と言っても、若い役者がやるようには大袈裟にやらないから、見ていて手に汗握るという感じではない。だから人によってはちょっと物足りなく思うかもしれない。でもこれが、長年この役をやってきた菊五郎が到達した余計なものをそぎ落とした勘平なんだろうなと思う。

時蔵のお軽は「腰元の風情」が良く出た品のある様子で、でもちょっと、腰元奉公していたとは言え、この百姓の娘にしては品がある過ぎる感じ。
とは言え菊五郎の勘平とはやっぱり似合いで、勘平との別れの切なさが哀れで美しい。

今月これ一役の芝翫のお才が、さすがに色街で長年生きてきた、酸いも甘いもよく知った女将の懐の大きな様子で華を添えた。

七段目 祇園一力茶屋の場
仁左衛門の由良之助、福助のお軽、幸四郎の平右衛門、錦吾の斧九太夫、門之助の力弥

去年の平成中村座でも観た仁左衛門の由良之助。上方風なのか他の人とは多少の違いがあり、仲居たちの見立ごっこもない。
仁左衛門はさすがに色気も華もあって、遊蕩ぶりが様になっている。そうかと思えば力弥に対する威厳ある様子が大きく、またお軽を身請けして殺そうと決意する非情さと、喜ぶお軽を哀れにも思う苦悩とを同時に見せて無理がない。最後に九太夫を打擲するところで本心を露わにする様子にこらえてきた辛さ苦しさが見えて感動的。

幸四郎の平右衛門は初めて見た。ところどころ他の役者とはやり方が違うようだが(何かにつけ、独自色を出したい人なんだよね)、ひたすら仇討ちに加わりたい小身者の足軽の必死な様子が良く出てさすがに上手い。

福助のお軽は、時々笑うときに変に口許を歪めるのが醜くて、せっかくの綺麗な顔が台無し。また、平右衛門に斬られそうになって花道まで逃げてきた後、悪い癖で笑いを取ろうとするのはこの役では似合わない。後半の勘平が死んだと知った後などは、哀れさもあって良かったのに、ところどころでそういう場違いな演技をするから損をしている。まあそれでも、幸四郎と福助という恐怖のコンビ(苦笑)ではまだましな方だったが。
でもどうせだったら時蔵でこの段のお軽も観たかった。

門之助の力弥というのは、もうちょっと若い人にやらせてはという気はしたものの、さすがに品があって若衆ぶりがすっきりと綺麗で、大人の味わい。
錦吾の九太夫にはもう少し憎々しさが欲しい気も。

十一段目 高家表門討入りの場
       同 奥庭泉水の場
       同 炭部屋本懐の場
       花水橋引揚の場
梅玉の服部逸郎、歌昇の小林平八郎、錦之助の竹森喜多八

前に歌舞伎座で通しをやったときは確か本懐の場で終わったような気がするが、今回は引き揚げ付き。
奥庭での立ち回りでは、歌昇と錦之助がなかなか激しい動きを見せる。歌昇なんてそろそろこういうのは辛くないのかしら、なんてちょっと心配したりして。でもさすがに二人で息のあったところを見せていた。

引き揚げでは馬に乗って梅玉の服部が登場。花道を引っ込んでいく義士たちを見送って、一人舞台に残って幕。ちょっとの出番で美味しいところをもらってるなあ。でもやっぱり定九郎よりこちらが梅玉はお似合い。

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とみた

mamiさん、お久しぶりです。
昨夜、夜の部を観ました。

先月御園座を観ましたが、歌舞伎座は平均的に少しずつ
贅沢な配役みたいです。
勘平は仁左衛門さんも悲壮感たっぷりで良かったですが
菊五郎さんのちょっと軽い勘平も、実像に合ってるんじゃないかと
きのう初めて思いました。色に耽った頃が容易に想像できて、
勘違いで死んじゃうような可愛い人。
七段目は御園座の方が良かったです。福助さんは確かに、時々
口許を歪めて変な顔しますね。あれ以外は御園座のときはまっとうでした。相手が橋之助さんで、2人の型がもう出来上がってるのもかもしれません。幸四郎さんともよく話し合って練り上げていったら凄いのができそう
なのに、今はバラバラですね。

十一段目の最後、あんなのは初めて見ました。本当に、苦労もしないで
最後にいいとこさらって行く役ですね。歌昇さんと錦之助さんは、御園座
の花形2人よりがんばってました。種太郎君と隼人君がちょうど同じ
時間帯に演舞場で踊ってるんですが、やがては、種太郎君と隼人君の
泉水の立ち回りも見られるんでしょうか。

by とみた (2009-11-18 12:40) 

mami

とみたさん、こんばんは。おひさしぶりです。
御園座も行かれたんですね、うらやましいです。仁左衛門さんの勘平が見たかったです。

>色に耽った頃が容易に想像できて、勘違いで死んじゃうような可愛い人。
ああ、ほんとにそうですね!仁左衛門だと確かに色男なんだけど、真面目で勤務中に女と遊んだりしなさそうかも。

福助と幸四郎は相性が悪いんじゃないかと思います。吉右衛門相手の時と福助の出来が全然違いますから。

若い人がどんどん育っていくのを見るのは楽しいですね。(その分こちらは歳をとるわけですが)いずれ種太郎君と隼人君で平八郎と喜多八をやる日が楽しみです。
by mami (2009-11-19 00:22) 

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