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松竹大歌舞伎東コース [舞台]

7月28日 練馬文化センター 17時の部

歌舞伎の巡業を観るのは久しぶり。歌舞伎座や国立劇場など専門の劇場でない舞台では、間口が狭い、花道がないなどいろいろ制約もある中で演じる役者さん達には頭が下がる。

今回の東コースは、播磨屋を中心に、芝雀、染五郎、歌昇などの座組。この頃5月の演舞場や9月の秀山祭などでも一緒の顔ぶれ。こういった巡業では、気心の知れたメンバーでやるのがやりやすいのだろう。

一・玉兎
幕が上がると月の中に兎が餅をついているシルエットが浮かび上がる。一瞬の暗転の後、舞台には染五郎が餅をつく姿が。頭に白いはちまきを締め、その端がピンと立っているのが兎の耳に見立てられた様子。でも衣装が、腰巻きに袖無し羽織って、どうしてこれが兎なんだか。あまり可愛くないんだけどなあ(笑)。
餅つきの後は、はちまきを取って今度はタヌキになって「カチカチ山」の様子を見せるなど楽しい踊り。
だが染五郎は、いささかお疲れだろうか、きちんと踊ってはいるのだが体に切れがない。またこういう踊りに必要な愛嬌もあまり感じられなくて、なんだかつまらなそうに見えてしまった。

二・仮名手本忠臣蔵 七段目祇園一力茶屋の場
吉右衛門の由良之助、染五郎の寺岡平右衛門、芝雀のおかる

七段目は、2月の歌舞伎座での名舞台の記憶もまだ新しい。あれを観た後では当分他の役者では観たくないと思ったが、今回は染五郎と芝雀という清新なコンビに期待して観ることにした。

開幕前に、吉之助によりここまでの粗筋がパネルを使って説明された。初めて歌舞伎をご覧になる人も多い巡業だから、これは良いやり方だと思う。

舞台は、いきなり斧九太夫と鷺坂伴内の場面から。つまり、七段目冒頭の鬼ごっこも、三人侍も、平右衛門が由良之助に手紙を渡そうとするくだりも、力弥が密書を持参する場面も、全部カットなのである。これでは由良之助の見せ場は半減どころの話ではなく、ほんとうにがっかりしてしまった。時間の都合だろうけれど、もうちょっと何とかならなかったのかなあ。せっかく種太郎も同行しているのだし、せめて力弥の場面からだけでもやってほしかった。

そう言うわけで、話は由良之助よりも、お軽と平右衛門が中心という感じになった。
芝雀のお軽は期待通りの良い出来。可憐で、上品な色気があり、ひたすら勘平を思う一途さ、哀れさが滲む。何よりも、まだ色街になじみきっていない初々しさがのぞくところが絶品。玉三郎だとなんだかすっかり遊女に染まった雰囲気になってしまっていたのが気になったが、「七段目のお軽は女房の心で」の口伝が生きたお軽になっていたように感じた。

一方の染五郎の平右衛門だが、こちらは期待したほどではなかった。何となく役作りが表面的というか、ちょっとあっさりし過ぎていて、兄が妹を哀れに思う辛さや、足軽がなんとしても敵討ちに加わりたい熱意などが、観る者にひしひしと伝わるまでに至っていない。なんだか型をこなすのに精一杯という感じだった。このところの染五郎の充実ぶりからすると、もうちょっとやってくれると思っていたのだが…。あるいは逆に、この平右衛門という役は、それくらい一筋縄ではいかない難しさがあるということだろうか。仁左衛門と比べる気はさらさらないが、どうも物足りなさが残ってしまった。やっぱり疲れてるのかなぁ。由良之助のように腹の要る役ではないし、もっと勢い良くやってほしかった。

吉右衛門の由良之助は、さすがの貫禄。出てくるだけで、匂い立つような男の色気があり、懐の深さを感じさせてそれはそれは立派。お軽を身請けしようとするときの複雑な表情、九太夫を打擲するときの怒りの表情、それぞれ自在に演じ分けて、惚れ惚れとする。あ~、前半からちゃんと観たかったなあ。

三・太刀盗人
歌昇のすっぱの九郎兵衛、高麗蔵の田舎者万兵衛、吉之助の目代丁字左衛門、種太郎の従者

松羽目物の舞踊。なんか観たことあるようなないような、と思っていたが、「茶壺」が元とわかって納得。「茶壺」は観たことがあるので混同したようだ。
歌昇はこういう剽軽な役はほんとうに上手い。少し大袈裟なくらいの身振りで笑いを誘い、だが下品にはならないところが上々。
高麗蔵も、ちょっと間抜けな田舎侍の風情が良く出て、踊りも軽妙でなかなか。
吉之助の目代にとぼけた味があり、種太郎も軽いおかしみを出して上々の出来で、打ち出しにはぴったりの楽しい舞台だった。


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コメント 2

愛染かつら

こんにちは。
そうでしたか、練馬では染ちゃん、お疲れの様子でしたか~。
平右衛門では初日に拝見した時より、私が鎌倉では随分と段取りを追っているだけ…という感じではなかったと思ったのですが。

それにしてもこの七段目の短さには納得がいきませんねぇ~。
私、仮名手本ではこの七段目が一番好きなんですけど、その好きな場面がことごとく無くなっているのには、ガックリしました~。
吉右衛門贔屓の方にも物足りなさが残ると思います。
by 愛染かつら (2007-08-07 13:14) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
染ちゃんの平右衛門は、悪くはなかったのですが、私としては期待が大きかったので、もうちょっとやってくれるかな~と。6月の助右衛門の方がずっと良かったですもんね。

吉右衛門様の七段目は、2月に堪能したので、まあいいかと、諦めます。芝雀さんのお軽が良かったので、練馬まで出かけた甲斐はありました。
9月の秀山祭が今から待ち遠しいです。
by mami (2007-08-07 23:13) 

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