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三月大歌舞伎・夜の部 千秋楽 [舞台]

3月26日観劇 歌舞伎座

今月の観劇は、歌舞伎座の昼夜の2回だけ。思えば去年の秋からずっと、歌舞伎座以外にも文楽や国立劇場の公演があって、ほとんど毎週末どこかの劇場に通っていた。今月と来月はちょっと一息というところ。

昼の部に続いて「義経千本桜」の通し公演。
1月に浅草の若手公演で「渡海屋・大物浦」と「すし屋」を上演したばかりで、この通しをやるというのも、松竹のプロデューサーも意地が悪いというかなんというか(笑)。

四幕目 木の実・小金吾討死 
五幕目 すし屋
仁左衛門の権太、秀太郎の小せん、扇雀の小金吾、東蔵の若葉の内侍、時蔵の弥助実は維盛、孝太郎のお里、左團次の弥左衛門、竹三郎のお米、我當の梶原景時

仁左衛門の権太は初見。この人はとにかく何をやっても、表情の変化が的確かつ自然で上手い。
初めの小金吾にたかる悪党ぶりでは、ふてぶてしさの中にもどこかにくめない愛嬌をのぞかせ、元はすし屋の若旦那という育ちの名残をうかがわせる。次に小せんと息子とは一転して愛情溢れるやりとりを見せて微笑ましい。仁左衛門は昨年の「荒川の佐吉」などでも、こどもを相手にほんとうに暖かい芝居を見せる。きっと実生活でも子供好きなんだろうな、と思う。
「すし屋」の段になってからは、母親相手に愛嬌たっぷりに金をせびる様子が可笑しく、後半小せんと善太を若葉の内侍と六代君と偽って連れてきてからは、梶原に向かっては悪人を装いながら、涙を隠して小せんらと視線だけで切ない別れをし、怒った父親に刺されて初めて心情を語る姿が切なく哀れで涙を誘う。小せんと息子に「顔上げろい」とわざと乱暴にするところや、松明の煙に「煙てえなあ」と涙をごまかすところなど、細かい仕種がほんとうにきっちり出来ていて、しかも自然で、権太の心の内が手に取るようにわかる、素晴らしい仁左衛門の権太だった。

秀太郎の小せんは、昔は色街にいた風情をにじませながら、権太と息子の良き妻良き母である様子がよく見えるさすがの出来。「木の実」の段での権太への意見に真摯さがあり、「すし屋」での最後の花道で若葉の内侍の身代わりに引き立てられていくときの権太との別れの場面では、目線だけのやりとりで切なさと愛情を見せて立派。

扇雀の小金吾、前髪姿がよく似合い、忠義に篤い若者の雰囲気が良く出た。「討死」の段での大立ち回りも良く動いて美しい所作を見せて立派な出来。ここの立ち回りはほんとうによく練れていて美しい。

時蔵の弥助、実は維盛は、弥助としてはいかにも頼りない優男の風情で、維盛に直ってからは品格を見せてさすがに美しい。
孝太郎のお里、一途に弥助に恋する娘の可愛らしさ、いじらしさがあって上等な出来。前半積極的に弥助を誘うところに愛嬌があり、一転維盛と知っての嘆きに哀れさがあって、それでも維盛たちを逃そうとする健気さが切ない。この頃孝太郎は一段可愛さが良く出るようになって、成長が見えて嬉しい。
弥左衛門の左團次、若葉の内侍の東蔵、梶原の我當らも十分な演技で脇を固め、見応えある一幕となった。

大詰 川連法眼館 
    奥庭
菊五郎の佐藤忠信と源九郎狐、梅玉の義経、福助の静御前、田之助の飛鳥、彦三郎の川連法眼、幸四郎の横川禅司覚範実は教経

川連法眼館の場はこの半年ばかりの間だけでも海老蔵、勘三郎に続いて三度目の観劇で、自然、物語そのものを楽しむというよりは役者の違いを楽しむ方に観る側の重点がいく。
菊五郎は、前半の本物の忠信での立ち居振る舞いの落ち着き、立派さが優れている。
後半狐忠信になってからも、狐言葉はあまり強調せずにとどめて品を落とさず、狐と顕わしたあともケレンはそれほど見せず、澤瀉屋型のような激しい動きもない。しかし、子ぎつねの親を慕う心の切なさは痛いほどに伝わってくる。この段での源九郎狐で一番大事なのはそこであって、アクロバティックな動きで観客を喜ばせることなど二の次でいいのだ、ということを改めて教えてくれた、音羽屋のさすがの出来だった。

福助の静御前は、総体としてはなかなか良い出来だったが、始めに本物の忠信に「お会いするのは一別以来」と言われて「またそんなてんごうを」と返すときの笑みに品がなく色気がありすぎる。あそこであんな顔をしては、まるで道中忠信と静の間に何かあったのではないかと思われてしまう。「道行」でもここでも、静と忠信は主従であって決して男と女の仲に見えてはいけない、という鉄則があるはずで、福助のあの表情はいただけない。他は、花道の出から義経に会える喜びが体全体で伝わるような様子があり、後半の詮議の場でも品良く勤めていただけに、惜しい。惜しいがこの唯一の傷は、先日のフィギアスケートSPの真央ちゃんのジャンプの失敗と同じくらい取り返しのつかないもので、昼の「道行初音旅」の静が福助でなくて良かった、とつい思ってしまった。

梅玉の義経は、昼の部に続いてさすがの存在感。威厳と憂いがあり、立派な御大将・貴公子ぶり。

「奥庭」の場は初めて観たと思う。夜の部この場だけに幸四郎が出るというのも、昼の藤太の仁左衛門と並んで随分贅沢。だがこの場を出すことで、実は知盛、維盛、教経が生きていた、という「義経千本桜」全体の筋が一本通ることになり、通し上演の最後にふさわしい。
幸四郎の教経は大きさがあり、武将らしい豪胆な様子があって立派。
最後は義経、忠信らが登場し、戦場での再会を約して、華やかに幕となった。


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コメント 4

愛染かつら

こんばんは。
仁左衛門丈の権太は本当に素晴らしかったですね。
泣かされました…

福助丈の静御前は、昼の部では品良く納まっていましたが、夜の部で拝見した感じでは、いつもの品の無い笑みが出てしまっていて残念でしたね。
by 愛染かつら (2007-03-28 01:05) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。
コメント&TBありがとうございます。

福助は「鳥居前」は良かったので期待してたんですけどねえ。
千秋楽であれとは、菊五郎も梅玉も注意しないのかしら、と思ったけど、考えたらあそこではあの二人は前を向いてるから静を見てないんですよね(笑)。お父様の芝翫もたぶん自分の出番が終わったら帰っちゃってるんでしょうね。
5月のお三輪は播磨屋が指導してくれるといいんですが。
by mami (2007-03-28 23:28) 

★とろりん★

こちらもTBだけしちゃって、すみませんでした。

仁左衛門さんの権太と秀太郎さんの小せん、
名品だと思います。今生の別れと見つめ合う姿に、
涙があふれて止まりませんでした。

福助さんの静御前、3階B席から見る限りは
まぁまぁの出来だったかなぁ…と思ったのですが、
筋書の舞台写真を見てみると流し目に過剰な色気が
出てしまっているのがみえて、ああ、本当だなぁ…と。
多分、梅玉さんしか見てなかったんですね、私(笑)。
by ★とろりん★ (2007-04-02 10:08) 

mami

とろりんさん、こちらにもありがとうございます。
福助は、ほんとにダメだったのはあそこだけなんですよ。あそこさえなければとても良かったのに、だから余計惜しいなあ、と思いました。
by mami (2007-04-03 00:51) 

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