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三月大歌舞伎・昼の部 [舞台]

3月11日観劇

通し狂言「義経千本桜」

先月の忠臣蔵に続いての通し狂言。どちらかというと世話物より義太夫狂言が好きな私には嬉しい。
文楽では何度か「義経千本桜」の通しも観ているが、歌舞伎ではどうだったかな。記憶があやふや。

序幕・鳥居前
梅玉の義経、福助の静御前、菊五郎の忠信実は源九郎狐

本来この前に堀川御所の段があるが、時間の関係かカット。でもあれがないと、なぜ義経が弁慶に怒っているのかわからない。
幕が開くと満開の梅の咲く伏見稲荷。天井からも紅白の梅が簾のようにかかっていてとても華
やかできれいなのが歌舞伎ならでは。

義経の梅玉に品があり、いかにも貴公子、御大将といった風格が立っているだけで伝わってくるのはさすが。弁慶への叱責に威厳があり、静への愛情をこらえる様子に悲しみがある。やはり梅玉さんは、定九郎よりこちらがお似合い。

静御前の福助も、美しく上品な色気があり、義経への一途な思いの伝わる行儀の良い出来。

この段の忠信を務める菊五郎は初めて観た。隈をとって、化粧襷を掛けた荒事の扮装。こういう拵えの忠信を観た覚えがないので、やはりこの段は歌舞伎では初見かも。そもそも、菊五郎の荒事というのも珍しいような。でもこの人は、隈をとってもやっぱり勇壮と言うよりは、すっきりいなせな感じで、颯爽とした美丈夫といった趣。時折本性をのぞかせる変化が自然。

弁慶の左團次、笹目忠太の亀蔵も適役。

二幕目・渡海屋 大物浦
幸四郎の渡海屋銀平実は平知盛、藤十郎のお柳実は典侍の局、歌六の相模五郎、高麗蔵の入江丹蔵
文楽では典侍の局以外に女官が出てこない。
幸四郎と藤十郎の顔合わせというのも、珍しいのではないか。前に何で観たのかちょっと記憶がないくらい。

幸四郎の銀平は花道の出から大きさがあり、貫禄十分。相模五郎らをやっつける様子に余裕がある。この場はもう少し世話に流れて軽さがあっても、という気もしないではないが、それは相模と入江のやりとりに任せてということか、砕けすぎない上々の出来。
知盛に直ってからは本領発揮で、出陣前の姿に悲壮な覚悟と風格があり見せる。ここの白銀の幽霊姿の衣装が、悲愴感を強調して美しい。
手負いになって戻ってからは、あくまで義経を討とうとする執着に圧倒的な迫力と鬼気迫るものがある。碇を体に巻き付けて落ちいく最期には無念さと哀れさがあり、堂々たる武者ぶりで立派な知盛だった。ただ、帝の言葉と典侍の局の自害に気の梁が折れるところで、もう少し落差が出てもという気はした。でないと、義経に帝を託し「昨日の敵は今日の味方」という心の変化がよくわからない。何となく、やっぱり義経を恨んだまま死んでいくように見えてしまった。先月の由良之助ほど浮いてる感じはなかったが。

藤十郎もお柳ではもう少し軽さが欲しいが、典侍の局となってからはさすがに品格があり、味方の敗北が伝えられてから、死を決意した様に悲壮感と帝への敬慕があり、涙を誘う立派な出来。

歌六は前半では道化役でおかしみがあり、魚尽くしの言い立ても楽しい。後半注進に来てからの立ち回りにも大きさがあり、なかなか。ここでの姿、頭のはちまき(?)にどくろが付いてて、何ともシュール。
大物浦の場では、知盛だけではなく家来たちもみんな幽霊姿というのが、怖いけどちょっと可笑しい。
高麗蔵も普段あまり三枚目はしないように思うが、歌六との絡みでは軽妙さも見せて上々。後半では立ち回りと悲壮な最期をしっかり見せた。

幕切れ、義経らが安徳帝を抱いて花道を退場した後、弁慶が幕外で法螺貝を吹いて知盛らを鎮魂するのは歌舞伎の入れ事だが、自害する直前の知盛の「昨日の敵は~」という台詞と共に恩讐を越えた人間のつながりを感じさせて胸を打つ。
しかしこの後安徳帝はどうなっちゃうんだろう。「義経千本桜」の中ではもう出てこないんだけど…。

三幕目・道行初音旅
芝翫の静御前、菊五郎の忠信実は源九郎狐、仁左衛門の逸見藤太
序幕の梅に代わって桜が満開の舞台。
芝翫の静は、最初登場したときは、序幕が福助だっただけになんだか一挙に歳をとったようで(笑)、あれれと思ってしまったがそれは最初だけで、そこはさすがに品と所作の美しさで芸の力を見せてくれた。上品で、無駄な動きのない、それでいて色気もある、さすがに立派な静御前。

菊五郎が素晴らしい。美しくて品があって、颯爽として立派な忠信。
先月の判官と勘平でも感じたが、この頃義太夫狂言では菊五郎は、特に何か個性的なことをしようとせず、ただきちんきちんと音羽屋の型を見せていって、それでいて最終的には音羽屋でなければ出来ない舞台を作り上げているようだ。いわば、これが音羽屋型のスタンダード、というのを見せつけられているようで、唸ってしまう。
この道行でも、特別ケレンを見せるわけでもなく、忠信としては静を敬い、源九郎狐としては初音の鼓を慕い、といった表情やしぐさの変化をごくさりげなく見せ、美しい所作で戦語りをし、颯爽とした殺陣で藤太や花四天をあしらう。そのどれもが均質に上等な出来というのが凄いことで、なかなか真似の出来ることではない。

仁左衛門の藤太というのは、襲名公演でもないのにずいぶんなごちそう。こんな道化役を仁左衛門がやらなくても、と思うが、本人はいたって楽しそうにやっていて、三枚目ぶりも自然で上手い。花道での四天とのやりとりは「鳥居前」での忠太と捕り手のやりとりのパロディになっていて、こうして続けて観ると余計に面白さが増す。役者尽くしの言い立ても楽しい。(あの言い立てって誰が考えるのだろう。まさか仁左衛門自身?「渡海屋」の魚尽くしと違って、今月の俳優名を言うのだから、この公演のために考えたものだし。)いつもは格好良くやっつける役の仁左衛門が、忠信に散々に追い散らされるのも可笑しく、贅沢な一幕となった。夜の部の権太も楽しみだが、今月は白塗り二枚目の仁左衛門は観られないのがちょっと残念。


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コメント 6

愛染かつら

こんばんは~。
相模五郎の髑髏は私もツボです!(笑)。
一月に浅草でこの演目を拝見した時にも、思わず「あ、髑髏マークだ!」と喰い付いてました。
ロック好きにはこのマークはツボなのです~。

菊五郎丈は目立つことはしなくても、心の残る芝居をなさいますね。
いつも「さすがだなぁー」と思って拝見しています。

夜の部も楽しみです♪
by 愛染かつら (2007-03-22 01:49) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。
コメント&TBありがとうございます。
あのどくろは目を引きますよね~。歌舞伎の衣装や小物は、ああいう細かいところまで気配りされていて、凄いなあ、といつも感心します。
あと、今月の衣装では、知盛のもこもこの履物がなんだか可愛かったです(笑)。

今月は播磨屋が出ていないので、すっかり音羽屋に浮気状態です~。
夜の「四の切り」が楽しみですね☆
by mami (2007-03-23 00:16) 

Ren

こんばんは。TBありがとうございます☆
あっという間に三月も終わってしまいました。
有名な「義経千本桜」を通しで見ることができて
よい経験ができました。
by Ren (2007-03-25 22:41) 

mami

Renさん、こんばんは。
nice!&コメント、TBありがとうございます。
昔から名作と呼ばれてきたものは、本はもちろん、衣装など細かいところまで練り上げられていて素晴らしいですよね。見取上演も良いですが、やはりこうして通しで観ると見応えがあって、感動もひとしおという感じです。
by mami (2007-03-25 23:11) 

★とろりん★

すみません、TBだけして帰ってしまいました(汗)
いつもながらの的確な感想、勉強になります。
私なんぞ、タイトルロールというだけで浮かれてました(笑)。
本当に、この後安徳帝はどうなっていくのでしょうね…。
by ★とろりん★ (2007-04-02 09:48) 

mami

とろりんさん、こんばんは~。
コメント&TBありがとうございます。

「タイトルロール」義経の梅玉さん、素敵でしたよね~。今義経をやらせたらいちばんですよね。5月の「勧進帳」の義経も楽しみです。
by mami (2007-04-03 00:44) 

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