SSブログ

二月大歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」・夜の部 [舞台]

2月4日観劇 歌舞伎座

本当は夜の部は千秋楽に観る予定で切符を取ってあるのだけど、吉右衛門様の由良之助を早く観たくて昼の部より先に観に行ってしまった。
通しと言っても物語はわかっているし、第一、昼と夜で同じ役でも役者が違うのでは順番が逆になっても全然支障はなさそう。でも、出演役者が多いからこうなってしまうのだろうけれど、こんな一貫性のない配役ってなんだか観ていて落ち着かない。去年の「元禄忠臣蔵」は役者の頭数が足りなくて、一人二役三役やっていて、あれもややこしかったけど。

本日のお席は3階、東1列6番という横に張り出した端っこの席。花道は3階正面の席よりよく見えるが、舞台上手の方が切れる。それは覚悟の上だったが、義太夫の声がこもってよく聞こえなかったのは予想外。
今日は日曜のせいか大向こうがいっぱいいてにぎやか。やっぱり大向こうがかからないと寂しい。

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
     二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切りの場
菊五郎の勘平、権十郎の千崎、梅玉の定九郎、玉三郎のお軽、吉之丞のおかや、時蔵のお才、東蔵の判人源六、左團次の不破 

昨秋仁左衛門の勘平で観たばかり。いくらなんでも同じ劇場で同じ演目を3ヶ月ばかりの間でやらなくても、という気はする。
仁左衛門も確か音羽屋型だったと聞いた気がするが、細かいところは違うようだ。例えば猪を追って出てきたとき、花道で笠をとって決める見得を仁左衛門はやっていたが菊五郎はやらなかった。また今日は、不破らが与市兵衛の死体をあらためて、刀傷だと気づいて勘平にも確認させていたが、仁左衛門の時はなかったように思う。
という風に、全般に仁左衛門の勘平が「いかに美しく見せるか」に主眼をおいていたようなのに対し、菊五郎のはよりリアルな人間ドラマを描こうとしていたように感じた。特に幕切れ、仁左衛門は疑いが晴れたことと血判に加われたことで、一縷の安堵の微笑みを浮かべたが、菊五郎のはむしろ無念の思いを持って死んでいったように見えた。救いがないといえばないのだが、考えればその方が自然で、共感できる気がした。もちろん美しくないわけではなく、色気もあり品もあり、哀れさもあり、立派な勘平。

吉之丞のおかやが絶品。百姓の婆にしては品があるのは難だが、前半の遠慮がちな姑から、婿が夫を殺したと思いこんだ怒りへの変化を十分に表し、娘、夫、婿と次々に別れる不幸な老婆の酷い運命に哀れさを感じさせて立派。吉之丞の偉いところは、出るところと引っ込むところの差が歴然と、しかしごく自然に演じ分けているところ。脇に退いているときの身の殺し方は、息をしてないんじゃないかと思うくらいひっそりとまるで道具の一つみたいになっているのに、出番となるとすっと表に出てくる、この間合いの素晴らしさ。ほんとに貴重な人だと思う。

玉三郎のお軽に切なさ儚さがあり美しい。
今月一番予想外の配役、梅玉の定九郎は、着物を絞る手の動きなどよく練られて美しく決まっていた。唯一の台詞「五十両」にはもう少し凄みがほしい。
時蔵のお才に女将らしい色気と風格があり、東蔵の源六に軽みがあり上々の出来。
権十郎の千崎、左團次の不破とも手堅いが、腹を切った後の勘平にもう少し温情を見せても、という気もする。

七段目 祇園一力茶屋の場
吉右衛門の由良之助、玉三郎のお軽、仁左衛門の平右衛門、芦燕の斧九大夫 

冒頭の鬼ごっこに出てくる仲居や若い衆の数がいつになく多くて賑やかな感じ。

吉右衛門は始めの酔態、力弥が密書を持参したときの厳しい表情、お軽に手紙を読まれて身請けしようとするとき一瞬見せる苦渋、等々刻々変わる由良之助の心の内を描き出して余すところがない。ほんの少しの目の動き、声の出し方の違いで変化を付ける、その表情付けの的確さに、一瞬たりとも目を離せない。大人の色気と風格とがあり、本当に惚れ惚れするような立派な由良之助。

玉三郎も先月とはうって変わって素晴らしい出来。色気があって美しいのはもちろん、兄の平右衛門と出会ってからの感情の動きを様々に表現し、父と勘平が死んだと聞いたときの呆然から絶望へ変わる表情が、それはそれは美しく哀れで涙を誘った。

仁左衛門の平右衛門も、いつもながら若々しく勢いもあり、身分は低くとも忠義一筋で直球勝負な様子が良く出て、それはそれは立派。妹を哀れに思う様子に暖かさがあり、自分が敵討ちに加わりたいから死んでくれ、などという無茶苦茶な話も、なんだか納得できてしまう。
玉三郎との息もよくあって、二人とも見せるツボを押さえたさすがの演技。

現在の歌舞伎界ではおそらくベストな配役が揃って、さすがに見応えのある一幕となった。

芦燕の九大夫は手に入った風で、底の浅い敵役の憎らしさが出た。
力弥は児太郎だが、さすがにいくらなんでも幼すぎる感じ。昼の部の梅枝なり、もう少し大きい子にやらせるべきでは。

十一段目 高家表門討ち入りの場
       同 奥庭泉水の場
       同 炭部屋本懐の場
吉右衛門の由良之助、歌昇の小林平八郎、松江の竹森喜多八、他

通しで忠臣蔵をやる場合、どうも終わりが困るようで、討ち入りで終わったり、花水橋の引き揚げで終わったりするが、どれもそれまでの段ほど見応えがなくてなんだか付け足し、という感じがしてしまう。
それでも、歌舞伎の衣装の中でも最も有名と言っていい、あの討ち入り装束がずらりと並ぶのは壮観で、やっとここまで来たのか、とこちらも感激してしまう。
奥庭泉水の場では、雪の中での立ち回り。歌昇の小林と松江の竹森の殺陣は体力的にも大変そう。ちょっとまだ息が合っていないところもあったようだが、迫力十分。
最後は師直の御しるしをあげて、全員で勝ち鬨をあげてめでたく幕。


nice!(3)  コメント(4)  トラックバック(3) 
共通テーマ:演劇

nice! 3

コメント 4

Ren

吉右衛門さまの由良之助、
玉三郎さんのお軽、仁左衛門さんの平右衛門
これだけ揃ってのを見せられたら当分他の配役では見たくない、と
思ってしまうようなすばらしい7段目でした。
討ち入りの火事装束の勢ぞろいも壮観でした。
by Ren (2007-02-20 07:26) 

mami

Renさん、こちらにもありがとうございます。
ほんとに七段目は最高の配役で観られて素晴らしかったですね~。
仁左・玉コンビはもううっとりするくらい綺麗で、兄妹というより恋人みたいでしたが(笑)。
討ち入り装束の吉右衛門様を観たら「鬼平」のイメージがわいてしまって(笑)、今から5月が楽しみです。
by mami (2007-02-20 23:29) 

愛染かつら

こんなに豪華な出演者で「仮名手本」が観られて幸せだなぁーとすら感じてしまいました(笑)。

1度しか拝見できなくて、かなり心残りでしたから、早くテレビ放映して欲しいです~♪
by 愛染かつら (2007-02-28 03:43) 

mami

愛染かつらさん、こちらにもありがとうございます。
やはり現在の歌舞伎座で最後の「忠臣蔵」通しにふさわしい豪華な配役で、また役者さんもみんな熱演でしたよね。
実は私、普段は筋書きを買わないんですが、今回は舞台写真欲しさに買ってしまいました(笑)。
by mami (2007-03-01 00:03) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 3

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。