SSブログ

寿初春大歌舞伎・昼の部 [舞台]

1月23日観劇 歌舞伎座

今日は1階の一等席3分の1くらいが、若い人の団体で埋まっていた。大学生くらいかな?でもなんだか雰囲気が、普段歌舞伎など古典芸能に興味ありそうな感じじゃない(笑)。男の子も女の子も、今どきの最先端のオシャレな子の服装だし。特に男の子が、長髪やアフロや髭の子もいたり。ファッション関係の学校の子かなあ。演劇科とか?なんだかギョーカイっぽい感じ。少なくとも国立大学の国文科、では絶対ない感じだった(笑)。
そういう雰囲気なので、観劇中にうるさかったりしたら嫌だな、と思ったら全然そんなことはなく、おとなしく観ていたので感心。後ろのおばさん達の方がごそごそ袋の音をさせたりしゃべったり、よっぽど行儀が悪い。あの袋を開ける音、すっごい神経に障るんですけど、どうして平気なんですかねえ。

一・松竹梅
お正月の最初の演目にふさわしい、めでたい主題の新作舞踊。
「松の巻」 梅玉の業平、橋之助の舎人駒王
こういう平安貴族の扮装をして梅玉ほど似合う役者もいない。出てきただけで品の良さを感じさせるのはさすが。橋之助も若わかしく颯爽とした様子で、幕開けにぴったりの清々しい雰囲気。

「竹の巻」 歌昇の奴光内、信二郎、松江、高麗蔵の雀
歌昇が活きのいい奴で、切れのいい踊りを見せる。雀役の三人も、雀にしてはいかついが(笑)、行儀のいい踊り。でもちょっと衣装など見た目は地味。

「梅の巻」 魁春の梛の葉、孝太郎の化粧坂の少将、芝雀の大磯の虎
一転こちらは女形三人の華やかな舞台。色気が薄いのは夜の部の「廓三番叟」同様だが、舞踊だからこれくらいが品が良くてちょうどいいのかもしれない。孝太郎と芝雀は傾城の着物だが、魁春は着物の柄が南蛮船で一人だけやけにモダンだったのが不思議。これって曽我物、ですよね?

二・俊寛
吉右衛門の俊寛、福助の千鳥、段四郎の瀬尾太郎、富十郎の丹左衛門、東蔵の丹波少将、歌昇の平判官康頼

俊寛は吉右衛門でも何度か観ているし、幸四郎、仁左衛門などでも観たはずだ。だが今日ほど俊寛の悲痛、孤独感に心打たれたことはなかった。
ほんの1時間半くらいの上演時間の間に、ジェットコースターのように起伏する俊寛の感情を、どれもないがしろにせずつぶさに描き出す吉右衛門の力量には改めて感服する。さすがは毎日芸術賞と朝日舞台芸術賞をW受賞しただけのことはあるのである。
特に千鳥に自分の代わりに船に乗れと諭すところでは、悲痛な中にも不思議な暖かみを見せ、瀬尾太郎との立ち会いでは覚悟を決めた必死な形相で圧倒する。  

だがなんと言っても圧巻は最後に一人島に残されて船を見送る場面。どこまでもどこまでも船を追いかけていき、終いには岩によじ登って呆然と船の去った方を見やる、その孤独とか絶望とか簡単には言えない感情を見事に漂わせたあの播磨屋の顔を、きっと一生忘れないだろう。あの「おおい」という声と共に。
幕が引かれる直前に、目の光がすーっと沈んで、諦念を表した気がしたのは思い過ごしだろうか。
最後は感動したと言うより、胸がきりきり痛んで涙が溢れてしまった。

こんな心身共にすり減りそうな役を1ヶ月もやっていて大丈夫なんだろうか、と思わず心配してしまう。まだ夜の部が気の良い役だからましなのかも。
今日は大向こうが少なかったのだが、最後の最後に「大播磨っ!」と掛けてくれた人がいて、そうだよね、もうそう呼ばれてもいいよね、と嬉しくなってしまった。

千鳥の福助が好演。田舎育ちらしい真っ直ぐな気性の一途な娘の様子が良く出た。中盤の「鬼界ヶ島には鬼は住まぬ~」という独白部分も、義太夫にのってよく聞かせた。福助は去年の「籠釣瓶」でもそうだったが、吉右衛門との共演では格段にいい演技をする。相性がいいのか、吉右衛門のダメ出しが効いているのか、いずれにせようれしいこと。

段四郎の瀬尾太郎に憎々しげな大きさがあり、立派な敵役。
富十郎の丹左右衛門も颯爽とした捌き役でさすがの出来。
東蔵の丹波少将に貴族らしい品があり、歌昇の康頼も手堅い。

いつ観てもこの演目の幕切れの場面転換には感心する。廻り舞台が活用され、また敷き布をどんどんはがしていくと波打ち際になっていく様子が本当に効果的。考えついた昔の人は偉いと思う。

それにしても、俊寛と瀬尾太郎のよたよたした立ち回りを観ていると、「鬼平」で颯爽とした殺陣を見せる吉右衛門がわざと下手そうにやるのもかえって難しいんじゃないか、と思ってしまった(笑)。5月の演舞場ではあの殺陣が生で観られるのね~、と今から楽しみ。

三・勧進帳
幸四郎の弁慶、梅玉の富樫、芝翫の義経

あんな「俊寛」を観た後では何が来ても見劣りするのは仕方ないが、何かと評判の良くない幸四郎の弁慶。さてどんな、と変な期待を持って観てしまう(笑)。
口跡が悪いのはいつものことだが、全体に動きに大きさが感じられない。幸四郎の弁慶が他の役者のと違うのは、良くも悪くも弁慶をスーパーヒーローのようにとらえていないように感じるところではないか。團十郎にしろ吉右衛門にしろ、みんな弁慶を立派で大きくて、義経の家臣ではありながら、まるで庇護する立場のように感じさせる。(だから義経は主に女形が演じるのか?)幸四郎のはもっと人間的で、等身大の人物であろうとしているように見えた。だから義経を打ち据えるところでは明らかに苦渋の表情を浮かべるし、義経にねぎらわれれば大泣きをし、富樫に対してもあからさまなくらい感謝の表情を見せる。あれでは富樫がよっぽど無能でも見破られるだろう。要するに、「普通の人」弁慶が、必死に主君を守る話、みたいな。
そう見えたのが幸四郎の意図したところかどうかはわからない。でもそうでも考えないと、900回も演じた役で、決して手を抜いているようでもないのにこんなスケールの小さい弁慶を歌舞伎座の本公演で見せるというのは理解できない。

梅玉はいつもながら気品があり、役人らしい怜悧さと、義経一行とわかって見逃す情とを見せて、弁慶との問答では熱気があり立派だが、少々動きがオーバーな感じも。去年吉右衛門の弁慶と共演したときはもっと控えめだった。ひょっとして、自分ががんばらないと、とか思ってたりして。

芝翫の義経は花道の出に圧倒的な品格がありさすがと思わせた。弁慶をねぎらうところでは真情があふれて、御大将の威厳も見せてなかなか。この日はじっと動くこともなかった。

四・喜撰
勘三郎の喜撰法師、玉三郎のお梶
今月は勘三郎は昼夜ともに踊りだけ。芝居も見たかったな。
こういう軽妙で剽軽な踊りは勘三郎にはぴったり。踊りはいつもながら上手い。でもちょっとお疲れ気味だろうか、あまり元気がないような気がした。
玉三郎もきちんと踊ってはいるが、なんだか気の入っていないような感じで、つまらなそうに見えてしまった。夜の雪姫もちょっと投げやりな感じでこの人らしからぬ不出来だった。久しぶりの歌舞伎なのに、どうしたんだろう。
最後は所化がたくさん出てきて賑やかに踊って打ち出しだが、如何せん主役の二人に元気がなければどうも締まりのない終わりになってしまった。


nice!(2)  コメント(4)  トラックバック(1) 
共通テーマ:演劇

nice! 2

コメント 4

雛鳥

「俊寛」、良さそうだなとは思っていましたが、やはり良かったようですね。
私も吉右衛門の俊寛を見たかったです…。
「勧進帳」はなんとなく想像できそうです。
幸四郎の弁慶、ある種の期待というのはよくわかります。
芝翫さんの義経は、是非見てみたかったですね。
今月は夜の部しか見ていないので、
mamiさんの記事を興味深く拝見させていただきました。
昼もバラエティーに富んだ舞台だったようで、おもしろそうですね。
by 雛鳥 (2007-01-29 17:06) 

mami

雛鳥さん、こんばんは。
nice!&コメントありがとうございました。
吉右衛門様の俊寛はやはり素晴らしかったです~。これが観られただけで昼の部は十分と言うくらいでした。
芝翫の義経は日によって出来の悪い日もあったようですが、私が観た日はとても良かったと思います。生ものの舞台の難しさでしょうか。
2月の「忠臣蔵」も楽しみですね。
by mami (2007-01-29 23:19) 

愛染かつら

こんばんは。
「俊寛」は本当に素晴らしかったですね。
先月の仁左様のものもとっても良かったですが、また違った味わいがありました。
初歌舞伎となる仕事関係の方々と観劇したのですが、この演目が一番心の残っているそうです。
歌舞伎初心者でも分かり易いものを見せてくれるのが、吉右衛門丈の凄いところだと思います。
by 愛染かつら (2007-01-30 02:36) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。
nice!&コメント、TBありがとうございます。
吉右衛門様の俊寛には、人間の強さと弱さを同時に見せられたようで、本当に圧倒されて最後は泣けて泣けて…。
初めてご覧になる方の心にもきっと響いたことでしょうね。これで歌舞伎ファンになって下さったら嬉しいですね。
by mami (2007-01-30 23:53) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。