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杉本文楽 女殺油地獄 [舞台]

8月11日(金) 世田谷パブリックシアター

数年前に「曽根崎心中」を取り上げた杉本博司による文楽。第二弾として「女殺油地獄」を上演した。
と言っても、野崎参りの段も河内屋の段もなく、豊島屋の段だけ。それがわかった時点で既に期待薄だったのだが。

冒頭に近松門左衛門の人形を出し、そこまでのあらすじなどを語らせる。と言ってもナレーターは太夫ではなく杉本本人だったらしい。まずそこでのこの話の解釈に疑問がある。与兵衛がお吉を殺すのは、自分を好いてくれていると思っていたのに裏切られたから、みたいなことを言っていて、呆れた。そんなの聞いたことないわ。まあ杉本がそう思うのは勝手だけど。近松を出すのも三谷文楽のパクりみたい。

その後、まず「序曲」として三味線の清治による独奏。清治が作曲したという新曲は現代音楽のようなモダン・ジャズのようなフラメンコ・ギターのような気さえする、ちょっと不思議な不協和音を感じさせる曲。その後の展開を予感させる。

次に「豊島屋内」の前半、お吉と与平衛の両親のくだりは素浄瑠璃。期待した千歳太夫と藤蔵だったが、残念なことに千歳が不調で声が出ていない。字幕もないので、初めてこの演目を見る人にはわけがわからなかったのでは。
後半、与兵衛が訪ねてくるところからやっと人形が登場。前回同様、手摺りがないので特に足遣いは大変。普通の公演と違い照明がスポットライト的に当たるので、人形の顔に影ができて凄絶さは感じられる。だが手摺りがないせいか、舞台が狭いせいか、殺しの場面での立ち回りが小さく見える。油でつーーーっと滑っていく感じも今ひとつ迫力がない。チラシではこの場面の「殺しにこだわった」とのことだが、どこが?と思ってしまった。普段の公演の方がよっぽど恐ろしくて凄惨だと思う。観る前は、ひょっとして歌舞伎みたいに油まみれにしたりするのかしら、なんて思ったがもちろんそれもなし。

床は、与兵衛を呂勢と清治、お吉を靖と清志郎で分け、曲はここも清治の新曲。序曲同様不思議な響きだが、さすがに聞かせる。でも太夫は語りにくそうな気がしたがどうだろう。
熱演の呂勢と安定の靖、三味線の二人はもちろん熱のこもった演奏で、特に清治は自作とあってあくまで表情はいつものようにクールだがしびれる演奏。

だが、前回の曽根崎心中では、映像を使ったり、本物の仏像を出したり、と杉本の演出がわかりやすかったが、今回は冒頭に近松を出したのと清治の新曲以外目につくものがなかった。後で聞けば、序曲を弾く清治の後ろにあった金屏風や、豊島屋のセットにあった樽が本物の骨董品らしいが、それが見せたかったのだろうか。
これで正味80分の公演でチケット代が9000円。
まあ結局この杉本文楽って、前もそう思ったけど、杉本のアートに関心がある人が見に来るもので、文楽ファンが聞きに来るものじゃないんだね。

人形も床も技芸員のみなさんは真摯に一生懸命やっておられただけに、なんだかいろいろ残念な気持ちだけが残った。

しかし清治さんがこんなイベントに手を貸しておられるのを見ると、普段の公演で切場を弾けないので欲求不満がたまってるんではないかと勘ぐってしまう。本公演でももっと良い場面で弾かせてほしい。

【口上】
◎人形役割
(近松門左衛門)吉田玉佳

【序曲】
◎三味線
鶴澤清治、鶴澤清志郎、鶴澤清馗

【下之巻・豊島屋】
≪前≫
◎太夫・三味線
竹本千歳太夫・鶴澤藤蔵

≪奥≫
◎太夫・三味線
(河内屋与兵衛)豊竹呂勢太夫・鶴澤清治
(女房お吉)豊竹靖太夫・鶴澤清志郎

◎人形役割
(河内屋与兵衛)吉田幸助
(女房お吉) 吉田一輔

◎囃子:望月太明藏社中

◎人形部:※以下、五十音順
桐竹紋臣 吉田玉翔 吉田玉勢 吉田玉延
吉田玉彦 吉田玉路 吉田玉誉 吉田簑悠


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