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秀山祭九月大歌舞伎 夜の部 [舞台]

9月22日(火) 歌舞伎座
1509秀山祭ちらし.JPG
通し狂言 伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
花水橋
竹の間
御殿
床下
対決
刃傷

夜の部は先代萩の通し。去年国立でも藤十郎の政岡でやったし、染五郎の伊達の十役もあったし、また?と言う気持ちと、玉三郎と吉右衛門という顔合わせで観られる喜びと、半々。

〈花水橋〉          
足利頼兼 梅 玉
絹川谷蔵 又五郎
 
梅玉の、浮世離れした空気がこの頼兼に最適。刺客に襲われてるのに超然としてる。もう生まれながらのお殿様、と言う上つ方を体現。こんな出てくるだけで説得力ある人他にいない。
又五郎の谷蔵も豪胆な様子がぴったり。
 
〈竹の間〉          
乳人政岡 玉三郎
沖の井 菊之助
鳶の嘉藤太 吉之助
小槙 児太郎
八汐 歌 六
   
〈御殿〉           
乳人政岡 玉三郎
沖の井 菊之助
小槙 児太郎
栄御前 吉 弥
八汐 歌 六
   
玉三郎の政岡は、さよなら歌舞伎座公演以来。従来この人の義太夫狂言は私にはこくが無く、面白く思えなかった。それが今回はと言うと、特に義太夫味が増したとは感じないのに、これまでになくすうっと受け入れられる政岡だった。
傾城や姫のような「綺麗さ」で見せる役ではない。ただ、ただずまいで大名の乳母という位の高さを見せる。竹の間ではひたすら忍の一字。でも必死に若君を守ろうとする意志の強さも見せる。
それは御殿での前半飯炊きの場でもそうで、親として乳母として、申し訳ない、辛い気持ちでも、若君の命を守るために子供を叱咤し、己を奮い立たせる。その悲しさ切なさが、決して猛女ではないだけに余計に胸に刺さる。
御殿の場で千松が殺されると、「涙一滴流さぬ」強い女ではなく、必死に感情を殺しているように見えた。栄御前が去って一人になると、一瞬魂が抜けたように力なく崩れかけ、千松の遺体に取りすがるその姿に、やっと乳母よりも母の顔を見せた悲しさが溢れる。
特別義太夫味が濃くなったわけではないが、これまでの玉三郎の発してきた様式美に、美を殺しても伝えたいものが加わったとでも言うか、それがかえって政岡という女を美しく見せるという、ちょっとこれまで観たことのない政岡だった。

八汐は歌六。女形は珍しいがほんとうになんでもこなす貴重な人。竹の間ではやや滑稽味を見せ、御殿では憎々しく。
菊之助の沖の井、普通出る松島がいない型なので、沖の井の正義の人の見せ場が大きく竹の間は大活躍。冷静沈着なキャリアウーマンといった趣。格好いいわ。
驚きは小槇の児太郎。若手がやる役じゃなさそうだが、落ち着いてしっかり勤めていた。
吉弥の栄御前は悪人の凄味はないが、位の高い夫人の様子はしっかり。

〈床下〉           
仁木弾正 吉右衛門
荒獅子男之助 松 緑

場面変わって床下。せりから上がってきた松緑の男之助は隈が似合って堂々とした益荒男ぶり。台詞が相変わらず上ずるが姿勢が良く見映えがする。

だが、吉右衛門の弾正がすっぽんから上がってくると、全て持って行ってしまう。一言も台詞ないのに、不気味にふてぶてしく笑う弾正の古怪さ、大きさが会場を飲み込む。面灯りに照らされた顔の立派さ、ゆらゆらと引っ込む姿の圧倒的な存在感。ふわああ、かっこいいかっこいい!悪役なのになんて素敵!個人的にはこの場面がピークでした。さっきまでの女の闘いが一気に薄れたわ。
   
〈対決・刃傷〉        
仁木弾正 吉右衛門
細川勝元 染五郎
渡辺民部 歌 昇
山中鹿之介 種之助
大江鬼貫 由次郎
山名宗全 友右衛門
渡辺外記左衛門 歌 六

この場面って、実はそれほど面白くない。御殿、床下に比べると本があまりよく書けてない気がする。作者が違うらしいが、急に実録もの風になるのもね。

ここでの弾正は、床下の妖術を使う不気味さではなく、極悪人のふてぶてしさ。吉右衛門はどこまでも真っ黒、腹黒、外記らを歯牙にもかけないし、勝元も腹の底で馬鹿にしきってるのが見え見え。敗訴となって「恐れ入りました」と口では言うが、口先だけで心底では全く恐れ入ってないし、退場する際外記を睨み付ける時の殺気が凄い。でもそれでも悪の美学とでも言うか、格好いいんだな。
刃傷での立ち回りはさすがにヒヤッとするところもあったが、最後まで極悪人を貫いて魅せた。

染五郎の勝元は、長台詞が早口言葉のようになってしまって、台詞をこなすので精一杯に見えてしまった。吉右衛門が相手では貫禄不足も否めない。颯爽として捌き役らしいスマートさはあるので、まあ今後に期待。

歌六が八汐と外記の二役。こっちが本役だろう。誠実な忠臣というのがぴったり。
歌昇と種之助が熱血な若家臣。勝元のおかげで絶望から希望が見えて泣きそうな顔してる二人が可愛くて胸熱。
名題昇進の吉兵衛も連なって、良かった。

友右衛門では宗全が良い人のように見えてしまったし、由次郎の鬼貫も小物過ぎるのが難。

玉三郎と吉右衛門が一緒に出る場面はなかったのは残念だが、お二人が同座してこの演目をやってくれたのが嬉しかった。もうないかもしれないし。
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nori

同じ日に、私も昼夜と観ました。珍しい演目もありましたし、玉三郎の政岡を初めてみられて、満足でした。記事を読ませていただいて、私が何となく思っていたのに、言葉にできないことが書かれていると共感しています。本日、阿弖流為を見てきました。mamiさんの記事を見て、行くことにしたのですが、本当によかったです。勘九郎、七之助が勘三郎とは違った形で、父に追いつき、越えようとしている姿に感銘いたしました。今月も歌舞伎座を見に行きます。見たことのない演目が多く楽しみです。
by nori (2015-10-08 03:09) 

mami

noriさん、
阿弖流為、ご覧になったんですね!楽しんでいただけて良かったです!
先月は吉右衛門さんと玉三郎さんが久しぶりにご一緒で、嬉しかったです。
今月は二代目松緑追善で、また楽しみですね。
by mami (2015-10-09 00:11) 

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