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平成中村座「仮名手本忠臣蔵」Cプロ [舞台]

10月13日

先週に引き続き浅草へ。今日は祝日とあって仲見世は思うように進めない人混み。東京でもこれだけ人が多いところってそうはないなあ。
先週Aプロだったので普通なら次はBプロに行くところだろうが、最後はやっぱり討ち入りで締めたいという思いがあり、先にCプロを拝見。

今日は二階席の最後列だったが、といっても四列目なので、花道はほとんど全部見えて悪くない。
ただ、会場全体の熱気が上にあがってくるのか、むっとする暑さだった。

仮名手本忠臣蔵 
大 序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目 桃井館力弥上使の場
 同   松切りの場
三段目 足利館表門進物の場
 同   松の間刃傷の場
八段目 道行旅路の嫁入り
九段目 山科閑居の場

仁左衛門の本蔵、勘三郎の戸無瀬、橋之助の若狭之助・由良之助、孝太郎の顔世・お石、勘太郎の塩谷判官・力弥(九段目)、七之助の小浪、彌十郎の高師直、新悟の足利直義・力弥(二段目)

珍しい二段目の上演も含め、加古川本蔵にかかわる筋を追うかたち。二段目は、「松切りの場」は文楽では見たことがあるが、「力弥上使」はまったく初見。確かに二段目を見ると話の筋が通ってわかりやすいが、芝居としてはさして面白い場面はなく、普段上演されないのも無理からぬと思われた。

Aプロ同様大序では始めに舞台裏で「東西」声がかかるのだが、これが今日もやっぱり何かしらん違和感がある。何が違うんだろう、よくわからないのだが、間なのかイントネーションなのか、とにかくなんかこの東西声は違う、と思いながら話が始まってしまう。先週は思い過ごしかと思ったが今回もだったので、妙に落ち着かなかった。

「大序」では時間の関係か、若狭之助と師直があわや、となるところで「還御だ」となって幕。つまり、直義と判官が戻ってきて後、師直の「早ぇわ」の部分がカット。本行ではない場面だからなくてもいいのだろうけれど、大した時間稼ぎにもならないだろうに、いささか違和感あり。  

橋之助はAプロでの師直と違って本来のすっきりした様子で、大序では若狭之助の苛立ち、怒りを出して「御短慮」な殿様ぶりは上々。だが三段目では意外にさらさらと手順を追って終わってしまった気がする。

彌十郎は嫌らしさ、憎々しさはなかなか立派なものだったが、判官や若狭之助より位の高い人間という感じがしないのが辛いところ。もっともこの師直というのは難しい役で、執権のくせに台詞はべらんめえ調だったりするし、高位に見えなくても仕方ないかもしれない。
私がいちばん好きな師直は、歌舞伎ではなくて文楽の亡くなった伊達大夫さんので、始めは普通に話していたのがだんだんネチネチが強まっていって自分でも悪口雑言が止まらなくなっていく、という雰囲気が絶品だったのだが、歌舞伎の役者だとたいてい顔世の文を読んだ後はすぐに喧嘩腰になっているのがちょっと違う気がする。

勘太郎の判官も、行儀良く勤めていたが、Aプロの若狭之助に比べると、こちらも一生懸命で終わっていて、まだまだ難しいようだ。

勘三郎の女形は、「鏡獅子」など踊りでなくて芝居では、あまり良いと思った覚えがない。なのでこの戸無瀬もどうかなあ、と思っていたが、これは期待以上に良い出来だった。
道行での踊りが上手いのは当然として、九段目に入っても、なさぬ仲の娘への愛情が溢れ義理を通すために命を捨てようとする様子に真摯さがあり、気迫溢れる素晴らしい出来。小浪を討とうとして「ご無用」の声がかかるところでの刀の扱いが、踊りのようでいささかばたつく感じはしたが、他はいたって立派な戸無瀬で、私的な好みでは去年の芝翫よりずっと良い。
九段目で作者が上手いと思うのは、戸無瀬を継母の設定にしたことで、実の母なら小浪になんとしても力弥を諦めさせようとするのではないだろうか。力弥に添えないなら死ぬという娘に「でかしゃった」とは言えないはずだ。

七之助の小浪は可憐さがあり、力弥を一途に思う様子があって、行儀も良く健闘。
勘太郎の力弥も凛々しさがあってまずまず。勘太郎の声が勘三郎とますます似てきて、他の役者を見ているときに声が聞こえると一瞬どっちだろうと思うくらいだった。

仁左衛門の本蔵はさすがに細かいところまできっちりとした、にもかかわらず自然な演技がこの人らしい。
特に九段目では、お石に向かって悪口を浴びせるところで、心配した戸無瀬と小浪が順に袖を引くのに「さがっていろ」と言いながら一瞬見せる表情に愛情の深さが見え、手負いとなってからの述懐に哀れさ無念さなどがあり、大きさも腹もあってそれはそれは立派。ただあえて(あくまでもあえて、だが)言えば、仁左衛門はお顔に色気があって、本蔵のような白髪頭が似合わないんだな~。

対する由良之助はここでは橋之助だが、ゆったりと落ち着きのある様子はまずまずだが、仁左衛門を向こうに回すには若すぎて大きさもいまひとつ感じられなかったのは致し方ないところだが、この段で本蔵と由良之助が釣り合わないと苦しい。

九段目いちばんの掘り出し物は孝太郎のお石で、勘三郎の戸無瀬相手に一歩も引かぬ、落ち着きと品、気概を見せて、台詞も明瞭でよく聞かせた。あまりこの人のこういう役は今まで見たことがない気がするが、これは案外将来良い立女形になれるかもしれないと期待させる立派な出来だった。
残念だったのは、本行にある、お石と戸無瀬の和解の台詞が今回もカットされていたことで、仁左衛門なら入れるかと思ったのだが。あれがないと、何だかお石が最後まで戸無瀬と小浪に意地悪なままのようで気が悪い。無駄な入れ事も多いのに、なんであそこを省くのかいつも疑問。
   
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