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四月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

4月23日観劇 歌舞伎座

22日、中村屋の四郎五郎さんが亡くなったというニュースを聞く。勘三郎さんにとっては先代からのお弟子さん。昨年の源左衛門さんに続き、古参の一門の方を立て続けに失った辛さはいかばかりかと思う。ご冥福をお祈りします。

一・実盛物語
仁左衛門の斎藤実盛、魁春の葵御前、彌十郎の瀬尾十郎、秀太郎の小万、亀蔵の九郎助、家橘の小よし、千之助の太郎吉
颯爽とした捌き役の実盛は仁左衛門似合いの役。いつもながらの爽やかな口舌で、知に富み、情に篤い実盛を表して立派。特に眼目の物語では義太夫にのって美しい動きと豊かな表情を見せ秀逸。太郎吉相手でもあたたかい仕草を見せ微笑ましい。幕切れの馬に乗っての花道引っ込みも余裕と貫禄を見せ、文句なく格好良く爽やか。
しかしあの引っ込み、揚げ幕に入る直前天井が低いので頭をぶつけないか観ている方が冷や冷やする。頭を下げて入るのも見映えがしないし、歌舞伎座建て替えの折には何とかしてほしい。

彌十郎の瀬尾十郎は、いま少しの大きさが欲しい気もするが、前半の憎々しげな敵役と、小万の父と顕わしてからの情を見せる姿を演じ分けて上々。
秀太郎の小万は少ない出番の中で、源氏への忠義と太郎吉への情愛を見せて存在感を出してさすが。
亀蔵の九郎助もいささか軽い作りなのが気になるが、実直で忠義に篤い爺の様子はよく出た。
千之助は素直な演技が気持ち良く、いかにも芝居が楽しそうなのが愛らしい。しかし、仁左衛門ってほんとはこんな孫がいるお祖父ちゃんなのよねえ、若く見えるけど…。

二・二代目中村錦之助襲名披露口上
披露口上は師匠の富十郎(今日はちゃんと正座していた)、以下雀右衛門を始め幹部総勢23人が並ぶ。その半分くらいが萬屋、中村屋、播磨屋といった親戚筋で、特に萬屋の中堅若手の人数の多さに改めて驚く。ほとんどが先代錦之助の思い出と当代の好人物ぶりを紹介していた。中では梅玉の「新錦之助さんの兄の時蔵さんは大変弟思いで……わたくしも兄として見習わなくては」、吉右衛門の「錦之助さんも私も二代目、二代目というのは初代の印象が強いので大変」といった言葉が印象に残った。

三・角力場
錦之助の与五郎・放駒長吉、富十郎の濡髪長五郎、福助の吾妻、東蔵の茶屋亭主、彌十郎の平岡郷左衛門、獅童の三原有右衛門、隼人の弟子閂

夜の部の襲名披露狂言。
錦之助はどちらの役もまずまず無難に勤めていた、というところか。長吉に関しては、もう少し少年らしく突っ張った勢いが欲しいし、与五郎では和事のつっころばしらしいおかしみも欲しい。要するにどちらの役も、こぢんまりと行儀よくまとまってしまっている感じなのである。この行儀の良さがこの人の持ち味なのかもしれないが、もう一段上に行くためには破らなければいけない殻でもあると思う。
長吉の衣装が紫で艶やかだが、昼の虎蔵も同じような色だったので、印象がかぶってしまう。違う色でもよかったのにな、とちょっと思った。

富十郎の長五郎はさすがの貫禄で、大関らしい大きさと懐の深さ、恩人のためには泥もかぶろうという心根の清々しさも見せて、立派な出来。去年の幸四郎のただ重いだけだったのとは格段の差。この長五郎で初めて、後段の「引窓」にも話が続くのである。
長五郎の衣装が、これまで観たのはいつも黒だったが、今日のは銀鼠地にまるで北斎の絵のような波の裾模様で、とても粋だった。
月初には息子の鷹之資が後見に出ていたそうだが、今日はいなかった。春休み中だけだったのかしら。

福助の吾妻は襲名狂言らしいごちそう。色気も愛嬌もたっぷりで華を添えた。いささか砕けすぎの感もあるが、まあ遊女だからいいか(苦笑)。

四・魚屋宗五郎
勘三郎の宗五郎、時蔵のおはま、勘太郎の三吉、七之助のおなぎ、錦吾の太兵衛、我當の浦戸十左衛門、錦之助の磯部主計之助

勘三郎は前半の素面のところでは抑え気味の演技で、妹を亡くした悲痛を無理に押さえ込もうとする苦しさを見せる。禁酒を破って酒を飲む様子がいかにもほんとうの酒好きらしく見え、歯止めがきかなくなって暴れ出す様子も上手い。ただ、変な言い方かもしれないが、上手いが故のあざとさのようなものも感じられる。この人の癖というか特徴なのだが、こうやれば観客に受けるというのがよくわかっていてやっている、というのが見えてしまうことがあり、すると逆にこちらは引いてしまうものだ。

時蔵が昼のお姫様とはうって変わって、下町の世話女房らしい様子で上手い。ご亭主思いのよくできたおかみさん、という風情がちゃんとあり、さすがの出来。
勘太郎に剽軽な味があり上々。
七之助はやっぱり生硬な感じがあるがこの役ではそれがかえって生きた。
我當が思慮深い家老の味を出して立派。
錦之助が磯部の殿様役。愛妾を斬っちゃう御短慮な殿には見えないが、襲名披露のいわばデザートみたいなもの。(どうしてこの役が、襲名興行にいつもおまけみたいにつくのだろう。確か松緑もやっていたが。)

しかしこの芝居、最後は殿様が謝ってお金もやるから許して、といって終わるのだが、なんだかなあ、それでいいのか?と一抹の疑問が残ってあまり後味がよくないのは、身分制度のない現代人の見方だろうか。

 


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愛染かつら

こんにちは、mamiさん。
今月の実盛が鳥屋に入る時に頭を下げるところ、私は結構好きでした(笑)。
もちろん頭をぶつけないかドキドキするんですけど、頭の下げ方があまりに颯爽としていて素敵で、思わずぽおおーっとなってしまったんです~。

口上での富十郎さんは、右側の後に座布団を幾つも折って当てていました。
やはり体重をかけられないのでしょうね。
他にもご高齢の方は正座用の台(?)をお尻に当てているようでした。
1階で拝見していると気付きませんでしたが、今回は3階の下手でしたので見えてしまいました(苦笑)。

宗五郎のラストはやはり一抹の疑問が残りますよね。
だから前進座公演ではここの場はカットされるのでしょうか…
by 愛染かつら (2007-04-25 15:40) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。

>頭の下げ方があまりに颯爽としていて素敵で、思わずぽおおーっとなってしまったんです~。
あはは、なるほど~。仁左様は何をどうやっても素敵ですもんねえ。私は、せっかくなら綺麗なお顔を前に向けたまま入っていただきたいなあ、と思ってしまったのです。揚げ幕に近い席だったので余計そう感じたのかもしれません。

>口上での富十郎さんは、右側の後に座布団を幾つも折って当てていました。
やっぱりまだ治ったわけではないのですね。「角力場」はあまり動きのない役なので気になりませんでしたが。大事にしていただきたいですね。

>だから前進座公演ではここの場はカットされるのでしょうか…
前進座のは観たことがないのですが、そうなんですか?そうするとどこで終わるのでしょう。疑問は残るにしても、ああでもしないと終われない気もするんですけどねえ。

襲名披露公演は、独特の華やかさがあって良かったですよね。
錦之助さんには来月の演舞場も播磨屋とご一緒で、がんばってほしいです。
by mami (2007-04-25 23:30) 

愛染かつら

mami様
前進座では宗五郎がお屋敷に行く&おはまが追いかける…の場面で終わりなんです~。
なのでお屋敷での場面はまるまる上演されません。
私も1度拝見しただけなのですが、案内にも「前進座では、酔った宗五郎が「殿の理不尽な仕打ちは許せねぇ」と、飛び出して行った後の場面を敢えて上演致しません。そうすることによって酔態のアラカルトでなく、宗五郎という男の内面的なドラマを表現した舞台にした」とありました。
by 愛染かつら (2007-04-26 02:33) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。
わざわざ教えて下さって、ありがとうございます!
なるほど、家から飛び出していったところで終わりなんですね。それも一つのやり方ですね。でももし歌舞伎でその先を観たことがなかったら、「それでどうなっちゃうの~?」って思うかもしれませんが(笑)。「見取り」の一種と思えばいいのかなあ。
前進座も一度は観てみたいと思いながら、まだ果たせずにいます。
by mami (2007-04-26 23:13) 

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