6月12日(日) 新橋演舞場
朝10時から、8月の杉本文楽のチケット予約があって、なかなか繋がらずにばたばたして飛び出していったので、演舞場に着いたのは開演10分前くらい。結構焦りました。
一、頼朝の死(よりとものし)
源頼家 染五郎
小周防 孝太郎
畠山重保 愛之助
音羽 梅 枝
榛谷重朝 種太郎
藤沢清親 萬太郎
別当快順 廣太郎
別当慈円坊祐玄 吉之助
別当定海 桂 三
中野五郎 右之助
小笠原弥太郎 友右衛門
大江広元 歌 昇
尼御台所政子 時 蔵
正直言うと、また?と思ってしまう。去年10月にも梅玉と魁春で上演されたばかり。まあ、今回は染五郎に時蔵という新鮮な顔合わせなのがまだ救いか。
染五郎の頼家は苦悩する貴公子のイメージがぴったり。意外に若い人のこの役をあまり見ていないので新鮮だった。等身大に近いというか。台詞は、青果の名調子を歌い上げる、と言うほどではなく、あくまで台詞として丁寧にきっちりしゃべっているという感じだが、それがかえって重苦しさがなくて自然体な様子で、すんなり聞ける。物足りないという向きもあるかもしれないが、私は良かったと思う。ただでもしつこい青果劇、どっぷりやられると観てる方はしんどいもん。良いかも、染ちゃん。
時蔵の尼御台は手強さは薄いが気品があり、他の人にはない頼朝の妻としての政子の苦しみ悲しみが感じられるような気がした。烈女という感じではないけれど。たとえば富十郎のような、辺りをはらう貫禄はなく、名家の後家が必死で家を守ってる痛々しさのようなものが見える不思議な政子。
愛之助の重保はやや線が細い。まあ、うじうじ悩んでる若侍ではあるのだが。愛之助の頼家もいつか観てみたい気がする。
孝太郎の小周防も嫌味のない一途さがある。
歌昇の大江広元に懐の大きな暖かみがあり、上々。
侍女の音羽が梅枝という配役には違和感があった。歌江とか吉之丞とかがやってる役だから、小周防より年輩のイメージがあったから。梅枝はいずれ小周防をやるだろう。種ちゃん重保とかでどうでしょう。
二、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原景時 吉右衛門
梢 芝 雀
俣野景久 歌 昇
大名山口政信 種太郎
大名川島近重 種之助
大名岡崎頼国 米 吉
大名森村宗連 吉之助
剣菱呑助 由次郎
飛脚早助 錦之助
六郎太夫 歌 六
大庭景親 段四郎
今月いちばんの楽しみな演目。
吉右衛門の梶原はもう全て期待通り、風格と愛嬌溢れる堂々とした舞台を堪能。文武に優れ、貫禄があり、その上情もあり、と文句なしのヒーローぶり。
刀の目利きをするときの梶原が、まるで大好きなおもちゃを手にした男の子みたいに目が輝いていて、あ~、男って幾つになっても、なんて思わず思ってしまった。でもこの梶原って、うがって考えると、大庭から刀を横取りしたくて二つ胴をわざと失敗したようにも見えるんだけど。
芝雀の梢はいじらしさと健気さがあって充分。本当にこういういじらしいお役では芝雀さんの右に出る人はいないと思う。ただ後半すごい汗をかいてらして(いつもだけどね)ちょっと気の毒なくらいだった。演舞場暑いからねえ。
歌六の六郎大夫も娘のために命を捨てようという優しさを見せ、老骨ぶりもあってさすがに立派。歌六さんってほんとは吉右衛門より年下なんだけど、老け役がすっかり板について上手いねえ。「沼津」と言いこれと言い、歌六と芝雀の父娘が出てくると、ほんと安心して観ていられる。
段四郎の大庭は、もうちょっとどっしりした貫禄があってもいい気がする。
歌昇の俣野が軽薄でやんちゃな赤っ面ぶりが上手い。
種兄弟に米吉の播磨屋ボーイズの大名が先月と違って凛々しく微笑。みんななかなか男前じゃん。
余談だが、石切梶原で昔から不思議なのは、途中出てくる飛脚にそこそこ幹部の役者が出ること。大した役でもなさそうだが、今回は錦之助。飛脚が出ない事もあるけど。何かいわれがあるのかな。
呑助は由次郎でこれはもう当たり役。
播磨屋の当たり役の時代物では珍しいくらいに文句なしに楽しい。周りも揃って充実の舞台だった。
三、連獅子(れんじし)
狂言師右近後に親獅子の精 仁左衛門
狂言師左近後に仔獅子の精 千之助
浄土僧専念 愛之助
法華僧日門 錦之助
仁左衛門と千之助という祖父と孫の共演が話題。前に仁左衛門の連獅子を観たのは、たぶんまだ孝夫時代の孝太郎との父子コンピだった。あれは何年前なんだろう、孝太郎が獅子をやってたなんて今じゃ想像できないけど。
仁左衛門は前シテではすっきりと凛々しい狂言師で、子獅子を千尋の谷に落とす厳しい父の姿。とてもおじいちゃんには見えないんですけど。後シテでも堂々たる親獅子ぶりがさすがに立派。
だが、今回の見物は千之助。これまでも子役として度々名演をしてきたが、この度はおじいさん相手に二人で主役である。祖父との連獅子は本人念願だったと言うことだがさて。
千之助の踊り自体がどれほどのものかは正直言って私にはよくわからない。ただ、舞台勘というか、見得を切る間とか、手を上げて決まるポイントとかの押さえ方が凄い。こういうのは教えられてできるものじゃないのだろう。「オーパ(大きなパパ)」とは言え大先輩の仁左衛門を相手に一歩も引かない役者魂に感嘆。いやあ、ほんと大したもんだわ。松嶋屋も先が楽しみで良かったなあ。
後シテでの二人の毛振りは、ほんとのところそんなに綺麗ではなかった。そりゃ中村屋や大和屋にはかなわない。けれど、今しか見られない二人の共演に胸が熱くなった。
間狂言は錦之助と愛之助のイケメンコンビで行儀良く見せた。
連獅子はいろんな親子がやっているが、まだ観ていない組み合わせでは翫雀と壱君の連獅子が観たい。二人とも踊りが上手いから見応えありそう。
でもそれより天王寺屋親子のが観たかった。あと2年あったらきっと…だったろうに。つくづく富十郎さんの死が惜しまれる。
朝10時から、8月の杉本文楽のチケット予約があって、なかなか繋がらずにばたばたして飛び出していったので、演舞場に着いたのは開演10分前くらい。結構焦りました。
一、頼朝の死(よりとものし)
源頼家 染五郎
小周防 孝太郎
畠山重保 愛之助
音羽 梅 枝
榛谷重朝 種太郎
藤沢清親 萬太郎
別当快順 廣太郎
別当慈円坊祐玄 吉之助
別当定海 桂 三
中野五郎 右之助
小笠原弥太郎 友右衛門
大江広元 歌 昇
尼御台所政子 時 蔵
正直言うと、また?と思ってしまう。去年10月にも梅玉と魁春で上演されたばかり。まあ、今回は染五郎に時蔵という新鮮な顔合わせなのがまだ救いか。
染五郎の頼家は苦悩する貴公子のイメージがぴったり。意外に若い人のこの役をあまり見ていないので新鮮だった。等身大に近いというか。台詞は、青果の名調子を歌い上げる、と言うほどではなく、あくまで台詞として丁寧にきっちりしゃべっているという感じだが、それがかえって重苦しさがなくて自然体な様子で、すんなり聞ける。物足りないという向きもあるかもしれないが、私は良かったと思う。ただでもしつこい青果劇、どっぷりやられると観てる方はしんどいもん。良いかも、染ちゃん。
時蔵の尼御台は手強さは薄いが気品があり、他の人にはない頼朝の妻としての政子の苦しみ悲しみが感じられるような気がした。烈女という感じではないけれど。たとえば富十郎のような、辺りをはらう貫禄はなく、名家の後家が必死で家を守ってる痛々しさのようなものが見える不思議な政子。
愛之助の重保はやや線が細い。まあ、うじうじ悩んでる若侍ではあるのだが。愛之助の頼家もいつか観てみたい気がする。
孝太郎の小周防も嫌味のない一途さがある。
歌昇の大江広元に懐の大きな暖かみがあり、上々。
侍女の音羽が梅枝という配役には違和感があった。歌江とか吉之丞とかがやってる役だから、小周防より年輩のイメージがあったから。梅枝はいずれ小周防をやるだろう。種ちゃん重保とかでどうでしょう。
二、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原景時 吉右衛門
梢 芝 雀
俣野景久 歌 昇
大名山口政信 種太郎
大名川島近重 種之助
大名岡崎頼国 米 吉
大名森村宗連 吉之助
剣菱呑助 由次郎
飛脚早助 錦之助
六郎太夫 歌 六
大庭景親 段四郎
今月いちばんの楽しみな演目。
吉右衛門の梶原はもう全て期待通り、風格と愛嬌溢れる堂々とした舞台を堪能。文武に優れ、貫禄があり、その上情もあり、と文句なしのヒーローぶり。
刀の目利きをするときの梶原が、まるで大好きなおもちゃを手にした男の子みたいに目が輝いていて、あ~、男って幾つになっても、なんて思わず思ってしまった。でもこの梶原って、うがって考えると、大庭から刀を横取りしたくて二つ胴をわざと失敗したようにも見えるんだけど。
芝雀の梢はいじらしさと健気さがあって充分。本当にこういういじらしいお役では芝雀さんの右に出る人はいないと思う。ただ後半すごい汗をかいてらして(いつもだけどね)ちょっと気の毒なくらいだった。演舞場暑いからねえ。
歌六の六郎大夫も娘のために命を捨てようという優しさを見せ、老骨ぶりもあってさすがに立派。歌六さんってほんとは吉右衛門より年下なんだけど、老け役がすっかり板について上手いねえ。「沼津」と言いこれと言い、歌六と芝雀の父娘が出てくると、ほんと安心して観ていられる。
段四郎の大庭は、もうちょっとどっしりした貫禄があってもいい気がする。
歌昇の俣野が軽薄でやんちゃな赤っ面ぶりが上手い。
種兄弟に米吉の播磨屋ボーイズの大名が先月と違って凛々しく微笑。みんななかなか男前じゃん。
余談だが、石切梶原で昔から不思議なのは、途中出てくる飛脚にそこそこ幹部の役者が出ること。大した役でもなさそうだが、今回は錦之助。飛脚が出ない事もあるけど。何かいわれがあるのかな。
呑助は由次郎でこれはもう当たり役。
播磨屋の当たり役の時代物では珍しいくらいに文句なしに楽しい。周りも揃って充実の舞台だった。
三、連獅子(れんじし)
狂言師右近後に親獅子の精 仁左衛門
狂言師左近後に仔獅子の精 千之助
浄土僧専念 愛之助
法華僧日門 錦之助
仁左衛門と千之助という祖父と孫の共演が話題。前に仁左衛門の連獅子を観たのは、たぶんまだ孝夫時代の孝太郎との父子コンピだった。あれは何年前なんだろう、孝太郎が獅子をやってたなんて今じゃ想像できないけど。
仁左衛門は前シテではすっきりと凛々しい狂言師で、子獅子を千尋の谷に落とす厳しい父の姿。とてもおじいちゃんには見えないんですけど。後シテでも堂々たる親獅子ぶりがさすがに立派。
だが、今回の見物は千之助。これまでも子役として度々名演をしてきたが、この度はおじいさん相手に二人で主役である。祖父との連獅子は本人念願だったと言うことだがさて。
千之助の踊り自体がどれほどのものかは正直言って私にはよくわからない。ただ、舞台勘というか、見得を切る間とか、手を上げて決まるポイントとかの押さえ方が凄い。こういうのは教えられてできるものじゃないのだろう。「オーパ(大きなパパ)」とは言え大先輩の仁左衛門を相手に一歩も引かない役者魂に感嘆。いやあ、ほんと大したもんだわ。松嶋屋も先が楽しみで良かったなあ。
後シテでの二人の毛振りは、ほんとのところそんなに綺麗ではなかった。そりゃ中村屋や大和屋にはかなわない。けれど、今しか見られない二人の共演に胸が熱くなった。
間狂言は錦之助と愛之助のイケメンコンビで行儀良く見せた。
連獅子はいろんな親子がやっているが、まだ観ていない組み合わせでは翫雀と壱君の連獅子が観たい。二人とも踊りが上手いから見応えありそう。
でもそれより天王寺屋親子のが観たかった。あと2年あったらきっと…だったろうに。つくづく富十郎さんの死が惜しまれる。