1月10日(月) ル・テアトル銀座



海老蔵が座頭を務めることになっていた公演がキャンセルになって、玉三郎が代替公演を引き受けて、ある意味今月いちばん話題の公演。チケットはもちろん即日というか即刻完売。

この劇場に行ったのは初めて。昔はセゾン劇場と言ったそうで、玉三郎はその頃からここに出ていてなじみがあったのも引き受けた理由のひとつと言っていた。普段歌舞伎をやる小屋ではないので、天井の照明などむき出しで興趣を欠くし、客席の雰囲気もなんだかなあ、ではあるが、赤い提灯を飾って芝居小屋らしくしつらえ、ロビーは正月らしく繭玉飾りが華やかで開演前には獅子舞も出るなど趣向を凝らして何とか歌舞伎公演らしく見せていて、その心意気が嬉しい。
キャパは大きくない劇場なので、二等席で後ろから3列目だったが、客席に段差があることもあって見やすかった。

一・壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)
    阿古屋
遊君阿古屋  坂東 玉三郎              
岩永左衛門  市川 猿 弥             
秩父庄司重忠  中村 獅 童

玉三郎の阿古屋を観るのは三度目。出てくるだけで周りを圧倒する美しさは健在で、豪華な打ち掛けと鬘が良く映える。まさに息をのむようで、これを生で観られただけで苦労してチケットを取った甲斐があったというもの。
注目の三曲の演奏も、四度目とあってもう堂に入ったもので安定していて、こちらも変に構えずに聞いていられる。だけど、正直言ってこの演奏、長いのよね。玉三郎が上手いと言っても所詮は素人で、演奏で唸らせることができるほどではないので、聞いていてやっぱりだるいというかしんどいのは事実。もうちょっと短くならないのかといつも思う。
芝居としては傾城としてのプライドと恋人への思いを、揺るぎない強さと気高いまでの美しさで見せて圧巻。

心配された獅童の重忠は、捌き役と言うにはあまりに存在感が薄く、懐の深さもへったくれもないという感じだが、まあとにかく一通りのことはやって、ぶち壊さなかっただけでも良しとしようか。でも重忠に深みがないと、ほんとに阿古屋だけの芝居になっちゃうんだよなあ。
重忠がそれだから、本来対照的な三枚目敵になる岩永が引き立たない。猿弥は一生懸命やっていたが、人形振りの手際も今一でちょっと気の毒。

まあ、この演目自体が、芝居というより阿古屋役者の器量と技量を見せるもので、話が面白いわけでも泣けるわけでもないから、ただ目の保養で終わってしまった感は否めない。

二・女伊達
お正月らしくぱっと華やかな舞踊をということだろう。こちらもすっきりとした美しさで魅せる。ただ、たとえば菊五郎などに比べると玉三郎はお上品すぎて、粋で気っ風の良いそれこそ伊達な雰囲気に乏しく、綺麗は綺麗だけど物足りない。この演目らしい面白味に欠けるのだ。
絡みの男伊達も、てっきり獅童と猿弥が出るのかと思ったらそうではなく、まあ玉三郎好みの二枚目できっちりとやってはいたがやはりオーラに欠けて玉三郎の引き立て役に終わってしまっていた。
途中で玉三郎の口上があり、終演後はカーテンコールも。

結局二演目とも、「歌舞伎を観た」という充足感には遠く、いわば玉三郎のワンマンショーの趣。それでいい人ならきっと大満足だが、正月に歌舞伎を、と思う向きには物足りなさの残る公演。だって、楽しかったとか面白かった、じゃなくて、綺麗だったね、としか感想が出てこないんだもの。