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演舞場 壽 初春大歌舞伎・夜の部 [舞台]

1月9日(日) 新橋演舞場

今年の観劇初めはすでに大阪で済ませてきたが、この日が東京での初芝居。
でも演舞場って、正月飾りも少なくてなんだか素っ気ないなあ。

一、寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)
翁  梅 玉                    
附千歳  鷹之資                     
千歳  魁 春                    
三番叟  三津五郎

この翁に富十郎が梅玉と共に出ることになっていて楽しみにしていたのだが…。本当に残念。
附千歳の鷹之資は富十郎の11歳の長男。せり上がりで他の出演者と共に彼が出てきたのを見たとたんに涙が出てしまった。11歳の少年が父親が亡くなった日も、葬儀の日も舞台に立ち続けてるなんて。どんな事情があっても、舞台に出れば関係ない。父親と一緒でない舞台は初めてだろうに、落ち着いてしっかり舞っていた。大向こうからは「天王寺屋っ!」の声がひっきりなしに飛んでいて、ますます泣けた。
がんばれ大ちゃん、おばさんは君が座頭になるまで応援するよ。それまで生きてれば、だけど。

そんな事情では、周りの出演者もある意味気の毒だが、梅玉はさすがにいつもながらの気品ある様子、魁春もしっとり。三津五郎がきびきびとした踊りでさすがに上手い。正月の幕開き、三番叟にふさわしい引き締まった空気の感じられる舞台だった。

二、源平布引滝
  実盛物語(さねもりものがたり)
斎藤実盛  團十郎                    
葵御前  福 助                    
小よし  右之助                     
郎党  種太郎                     
郎党  巳之助                     
郎党  種之助                     
郎党  宗之助                    
九郎助  市 蔵                   
瀬尾十郎  段四郎                     
小万  魁 春

團十郎で観るのは初めてかも。颯爽、というより穏やかで懐深い実盛のあたたかみの感じられる芝居で、特に太郎吉を相手にするところなど優しさがあって良い。口跡が特に良いという人ではないが、そこが逆に真面目な人柄がにじむようで好感が持てる。おかげでとても後味の良い舞台となった。

周りも揃って充実。段四郎の瀬尾は手にいった役で、前半の憎々しげな様子と、後半の初めて対面した娘と孫を思う姿の落差が生きて立派。
しかし、芝居とはいえ、自分で自分の首を落とすって、結構グロいよね。
福助が品のある御台所。
市蔵、右之助の夫婦が手堅く脇を締め、魁春も哀れ。
太郎吉役の子役がえらく上手かった。御曹子ではないらしくチラシに名前がなかったが、今まで観た太郎吉ではいちばん。
今回は郎党も種ちゃんはじめ豪華メンバー。顔見世でもないのに、こんなところに出てくるか?と思うけど、夜の部では他に出番ないので観られて嬉しい。

三、浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)
   浅草鳥越山三浪宅の場   
   吉原仲之町の場                  
名古屋山三  三津五郎                 
不破伴左衛門  橋之助                  
遣り手お爪  右之助                 
家主杢郎兵衛  市 蔵                   
浮世又平  彌十郎         
葛城太夫/お国/茶屋女房お梅  福 助

吉原の場は良く上演されるが、山三浪宅の場は初見。なんだかちょっと、同じ南北の「盟三五大切」の趣向と似ていなくもない、貧乏なのに窮乏をわかってない主と懸命に使える召使い、という構図が可笑しい。また、貧乏長屋に傾城が花魁道中でやってくるのも可笑しく笑わせる。それが一転、山三を殺そうとした又平を下女のお国が殺して自分も死んでしまうという悲劇に様変わりするのが南北で、その断末魔のお国に、明かりが消えて何も知らない山三がいろいろ用事を言いつけて、虫の息のお国がそれに応えるという、悲劇と喜劇を同時進行させるこの何ともはやのごったまぜが、南北の世界だなあ。

三津五郎の山三に、世間ずれしていない武士のおっとりとしたのんきな風があり面白い。ただ、傾城からも下女からも惚れられるような水もしたたるいい男、というニンではないので(失礼)、そこのところがやや辛い気も。菊五郎なんかだと面白そうだけどな。
しかしこの場の最後で、山三が花道で家の方を振り返ってお国を哀れんで手を合わせたということは、お国が死にかけてるのを知っていたんだろうか?だったら介抱してやれよ~、と思っちゃうわけで、いまいち釈然としなかったが……。

福助は葛城大夫としては美しく色気もあって上々。だがお国の方は、おぼこ娘という風を出そうとしすぎていつものブリッ子演技になってしまい、お国の一途さや健気さが薄れて喜劇タッチになってしまうのが、やっぱりいただけない。どうして普通の娘を普通に可愛くやれないんだろう。

市蔵の家主が軽妙で、落語に出てきそうな可笑しさ。
彌十郎の又平がふてぶてしい様子。(でもなんで、ここで「浮世又平」の名前なんだろう?)
右之助の遣り手も、いかにも腹に一物ありそうな雰囲気で上手い。

吉原の場は山三と伴左右衛門の文字通り鞘当ての争い。白塗り二枚目の山三の柔らかさと荒事っぽい伴左右衛門の剛毅きの違いを、三津五郎と橋之助が様式美たっぷりに見せた歌舞伎らしい華やかな一幕。
止めに入る福助も、気っ風の良い味わいが見えて、三役の中ではこれがいちばんの出来。

前半と後半が、話はつながってはいるけれどなんだか全然違う話みたいに唐突感があるが、それもやっぱり南北なんだろうなあ。前半だけで終わったらちょっと嫌だけど、吉原の場はぱっと豪華で見映えもして、打ち出しには気持ちいい一幕だった。
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