10月10日(日)

今年の平成中村座の舞台は大阪城の西の丸公園。そんなにぜひ観たい!と言うほどでもなかったのだが、もろもろの事情で実家に帰ることもあり、ついでに観とくかな~、と(中村屋贔屓の皆さん、ごめんなさい)。

大阪城を見るのも、地下鉄の谷町線に乗るのも10数年振りで、すっかり浦島状態。特に大阪城の門内に入ったのなんて、何十年ぶり~!?ほんと、久しぶりに間近で見ました、天守閣。

来月と2ヶ月続きの公演だが、今月は古典もの、来月は「法界坊」に「夏祭浪速鑑」と中村座おなじみの演目と言うことで、とりあえず今月だけ観劇。

一、平家女護島
  俊寛(しゅんかん)

俊寛僧都     中村 勘三郎
丹左衛門尉基康 中村 勘太郎
海女千鳥    坂東 新 悟
丹波少将成経 中村 萬太郎
瀬尾太郎兼康 坂東 彌十郎

勘三郎の俊寬は今年2月にも観たばかり。また先月は極めつき吉右衛門でも観たばかり。吉右衛門に比べると勘三郎は当然若い。その分、実際の俊寬の年齢(40代だったとされる)に近く、本来まだまだ壮健な年頃の男が島流しの苦労でやつれている、と言う風情が無理なく出て、それ故に都や妻への執着、愛慕の念が強く感じられた。華や色気の翳りが見える俊寬というか、ちょっと不思議な感覚だが、これはこれで面白かった。瀬尾との立ち回りが、なまじ踊りの上手い人なので体が動いてしまうのがなんだが、最後まで至極まっとうに演じていて上々。幕切れの表情に、あきらめよりも寂しさの中に満足感のようなものが感じられたのが印象的。いつもこれくらい大真面目にやってくれると良いんだけどなあ。

少将は萬太郎。初役だと思うがとても丁寧に演じていて行儀良く、少将の律義さ、若い一途な千鳥への愛情が感じられて大健闘。また先が楽しみな人が増えた。
瀬尾の彌十郎はすでに手に入った役のようで安定。憎々しさもありなかなか。
千鳥の新吾は、福助に習ったというので悪い予感がしたが、やはり前半の造形がまずい。一生懸命やってはいるのだが、可愛さ健気さとももう一歩足りないか。
丹左衛門の勘太郎が、颯爽とした捌き役の様子がよく似合い、立派。

途中、使いの船が来る場面で、客席横の壁に沿って小さい船が動いていく趣向が他の劇場ではない工夫で面白かった。

二、太閤桜(たいこうざくら)
中村 橋之助                   
中村 扇 雀                   
中村 七之助                   
中村 獅 童                   
中村 勘三郎

この公演のために書かれた新作の舞踊劇。太閤秀吉が開いた醍醐の花見を舞台に、光秀の霊も現れ、秀吉の内面を照らしていく。
秀吉は橋之助で、老け役で気の毒だが存在感は十分。
獅童の光秀は相変わらず台詞が歌舞伎じゃないんだよね。でも狂言回し的な役をすっきりと演じていた。
勘三郎の酒売りが愛嬌たっぷりで花を添えごちそう。でももうちょっと勘三郎の踊りが観たかったな。
幕切れ近く、舞台後ろを開け放つと、ライトアップされた本物の大阪城が見える洒落た演出付き。もっとも私の席は右端の方だったので、ちょっとしか見えなかったけど。

三、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
  浜松屋見世先の場   
  稲瀬川勢揃いの場

弁天小僧菊之助 中村 七之助
南郷力丸 中村 勘太郎
赤星十三郎 中村 萬太郎
浜松屋伜宗之助    中村 鶴 松
忠信利平 中村 獅 童
日本駄右衛門 中村 橋之助

七之助の弁天は前に浅草歌舞伎でも観ている。まだ勢いだけでやっていたあの頃に比べるとずっと進歩していて、前半のお嬢さん姿は美しく、後半男と現してからはやんちゃで無鉄砲な少年の様子を愛嬌たっぷりに見せて楽しませた。特に後半が開き直った様子がさっぱりとした明るさがあって、軽妙なおかしみがあり上々。

南郷は勘太郎で、こちらは初めて観たが、兄貴分らしい落ち着きと貫禄があり、ニンにあった様子。七之助との息もぴったりで、終わりの花道でのやりとりなども笑わせる。弁天小僧が「兄い」と呼ぶのが、ほんとの兄弟なのでかえって妙な感じ(笑)で、他のこの役のコンビニはない親密さが感じられるような気がした。

日本駄右衛門は橋之助でさすがに貫禄を見せた。
宗之助は鶴松。子役を卒業しての演技は初めて観たかも。丁寧に演じていてこれも好感。
勢揃いでは獅童に萬太郎も加わり、華やかな幕切れ。ここでも萬太郎がお父さんに習ってきたか、一生懸命なのが微笑ましかった。