8月8日(日)

毎日毎日ほんとうに暑くて、銀座の駅から演舞場が遠くてきつい(笑)。普段昼間外に出ることがないから、これくらい歩いただけでぐったりしてしまう。

前日初日が開いたばかり。普段あまり初日すぐには行かないのだが、今月はスケジュール上やむなく。ま、第一部は海老蔵の忠信で、先日ヨーロッパ公演をやってきたばかりだから、大丈夫でしょ。

訪欧凱旋公演
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
  鳥居前   
  道行初音旅   
  川連法眼館   市川海老蔵宙乗り狐六法相勤め申し候       
佐藤忠信実は源九郎狐  海老蔵              
静御前  七之助             
駿河次郎  市 蔵             
亀井六郎  亀 蔵             
早見藤太  猿 弥               
飛鳥  右之助             
川連法眼  家 橘              
源義経  勘太郎

凱旋公演といっても、海老蔵以外は配役が違うからこの呼び方はどうなの、という気もする。
時間短縮のためか知らないが、「鳥居前」と「「道行」の間に休憩を挟まず上演。静はともかく、忠信は化粧も衣装も替えないといけないから大変そう。また、「鳥居前」では弁慶が出てこないなど、多少の割愛もあった。

「鳥居前」の忠信は荒事。成田屋の若旦那として、他の何が出来なくてもこれは出来なきゃまずいでしょう。隈を取った顔は凛々しく、動きも大きくきびきびしている。しかし、台詞がね。いつものことだが、やたらとがなるように大きいだけで単調な上、なんだか妙にドスが効いているようなのもちょっとどうかなあ。狐六法での引っ込みなどは豪快で見映えがして良いのだが。

勘太郎に気品があり、七之助も哀切の感じられる楚々とした美しさ。
猿弥の藤太におかしみがあり上々の出来。

暗転のみで舞台転換をして「吉野山」へ。一昨年玉三郎とやったときは竹本だけだったが、今回はオーソドックスに清元と竹本の掛け合いで。
ここでも七之助が上品な美しさで見せる。儚げな様子もあってなかなか良い。
海老蔵はここではすっきりとした男ぶりで、静とひな人形のまねをするところなど絵のように美しい。戦物語なども手堅く無駄のない動きは好ましい。あとは狐の本性がふと表れる姿におかしみや愛嬌が出ればもっと面白いのだが、さすがに勘三郎や菊五郎のようには行かない。

この段も時間の関係か藤太と四天が出ない。幕切れも花道を入らず、舞台で二人が決まって幕という珍しい形。

「川連法眼館」では、幕開きにお決まりの法眼夫婦が出るが、飛鳥が詮議を受け自害しようとする下りが無く、せっかく家橘と右之助が出たのにあっという間に引っ込んでしまった。

海老蔵は本物の忠信としては凛々しい武将の風情だが、ここではもう一段大人の男の落ち着きのようなものが見えてほしい。でないとあとの偽忠信が生きてこない。
偽忠信から狐となっての動きは、早替わりや欄干渡りを始め、アクロバティックな見せ場は作って見せたが、相変わらず台詞が拙い、というか、酷い。やたらと鼻にかかった変な発声で聞き取りづらいし、いくら狐言葉とはいえ抑揚がおかしすぎる。それともこれが澤瀉屋の型だとでも言うのだろうか?いくら悪僧相手に立ち回ったり、宙乗りでサービスしても、親への愛慕という肝心要を表現出来ていないのではしょうがないだろう。客はサーカスを見に来ているわけじゃないんだから。この「四の切り」はもう再演を重ねているのに、ちっとも進歩しているように見えないのはどうなんだ。これで「凱旋公演」って言われてもねえ。

この段の救いは、「鳥居前」同様、勘太郎の義経に悲哀と気品が見え、しっかりとした御大将ぶりだったことと、七之助の静もここでも美しさと可憐さがあって、義経と静のやりとりがしっとりとして、義経が狐に引き替えて我が身の肉親の情との縁の薄さを嘆く場面がいちばん良かったことか。

結局、この第一部は、海老蔵目当てのファンには良いけど、「義経千本桜」を見たい人には欲求不満が溜まってしまうような内容。