11月22日 新橋演舞場



11月も下旬。街はクリスマス飾り一色という感じですが、さすがに歌舞伎座と演舞場はクリスマスとは無縁のようで(笑)。

一・三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)
松緑の和尚、菊之助のお嬢、愛之助のお坊、歌六の伝吉、梅枝のおとせ、松也の十三郎

序幕の「大川端の場」はしょっちゅうかかるが、通しとなると意外と少ない。コクーンを除くとひさしぶりな気がする。

松緑は「大川端」の和尚は何度もやっていて手に入った様子。小悪党ながらも兄貴分らしい大人の雰囲気があり、次の場での伝吉とのやり取りにも、それなりに分別を持った様子が見える。
吉祥院でも全てを知って苦悩する様子が良く出てなかなかの出来。「悪いことは出来ねえ」の台詞に万感がこもった。
ただね、全体にちょっと目を利かせ過ぎ。ただでも目が大きい人だからしかたないけど(苦笑)、あんまり目をぎょろつかせると安っぽく見えてしまう。

菊之助のお嬢ははまり役。美しい娘のふりと地の男との変化が自然で上手く、「大川端」での眼目の台詞もよく聞かせて立派。この正月公演の玉三郎よりずっといい。

三人の吉三の中で意外と難しいのがお坊ではないかと思うが、愛之助はすっきりとした二枚目風で、盗賊ながらもとの育ちの良さがうかがわれ、おっとりした風情があるのは良い。

歌六の伝吉がさすがに存在感があり、我が身の悪事の業の深さにおののく様子が見えて立派。ただ、歌六だと、現在の改心した伝吉にはぴったりだが、昔悪党だったというには人が好いように見えてしまうきらいがあった。
梅枝と松也もそれぞれニンにあった役でなかなか。それにしてもおとせと十三郎は可哀想といつも思う。知らずに畜生道に落ちたからといって、殺されなくてもよさそうなものなのにねえ。その上、身代わり首も結局は無駄になってしまって、死に損だし。

主役の三人ともいずれは本役として持ち役になりそうな、ニンにあった様子だったのは収穫。
ただ、まだこの演目のどろどろとした因果物語の暗さのようなものや、退廃的な雰囲気を感じさせるまでにはいたらず、やや表面的にとどまったのは残念。三人とも真面目というか、健康的すぎるのかな。だが、まあこれからに期待と言うところ。

二・鬼揃紅葉狩(おにぞろいもみじがり)
亀治郎の更科の前・実は鬼女、松緑の平維茂、菊之助の八百媛、亀寿と種太郎の従者、松也、梅枝、巳之助、右近、隼人、吉弥の侍女・実は鬼女

「紅葉狩」にはいくつかのヴァリエーションがあるが、今回のは猿之助の演出の型。個人的にはこれがいちばん面白いと思う。いちばんつまらないのは玉三郎の。だって退屈だったんだもん。

亀治郎は始めのお姫様姿での様子が、あまり高貴な婦人という感じではないのが辛い(どうもこの人は赤姫とか似合わないんだなあ)が、踊りはたおやかで上手い。この人の手先指先の使い方は本当にきれい。
維茂らが寝入ったのをみて鬼女と顕わしてからは迫力いっぱい。後半隈取りしてからの踊りは勇壮で、切れもあり上々。

菊之助の八百媛(普通の「紅葉狩」だと山神だが)は対照的に楚々とした品のある風情が美しい。
松緑は公達らしい気品と凛々しい雰囲気で、踊りも切れがあってきびきびとした様子が気持ち良い。

特に後半の維茂らと鬼女たちとが争って踊る様子が迫力十分で見応えがあった。鬼女たちの若手も奮闘して、花形歌舞伎らしい華やかで若々しい舞台で、昼夜通じてこの演目がいちばん楽しく観られた。20年後、30年後の歌舞伎を背負って立つ人たちばかりの舞台、これからも頑張ってほしいもの。