10月1日 国立劇場大劇場

これも国立劇場開場四十周年記念公演の一つ。

皇太子殿下がご観劇。(雅子様はいらっしゃらず)
そういえば1月の藤十郎襲名公演の時もご観劇日にぶつかった。歌舞伎がお好きなのかしら。あの時は自分の席からはお姿が見えなかったが、今日はバッチリ目撃。考えてみると、生で皇室の方のお姿を見たのは生まれて初めて。(実はやはり皇太子様と同じ飛行機に乗ったことがあるけど、その時も姿は見えなかった。)

今日の公演は、能の「安宅」と歌舞伎の「勧進帳」を続けて上演し見比べようという興味深い試み。
まずは宝生流による能の「安宅」より「延年之舞」
シテ 近藤乾之助
笛  一噌幸弘
小鼓 大倉源次郎
大鼓 亀井忠雄

実を言うとお能は生で観るのは初めて。今回の上演形式は「安宅」全体ではなく、通常とは違う「舞囃子」というもので、シテがお面や装束をつけず紋付き袴で舞う、素踊りといった感じ。
なにしろ初めてなので詳しいことはわからないながらも、シテの乾之助さんの端然とした、虚飾をそぎおとしたような舞には、何か観る人を粛然とさせる緊迫感があったように思う。いつか機会があれば、ちゃんとした形で「安宅」を観てみたい。でもやっぱりお能って難しそうな気もする。

続いてがお目当ての歌舞伎の「勧進帳」。
弁慶  吉右衛門
富樫  梅玉
義経  芝雀

今日のお席は6列目で花道から3番目。電話予約したとき初めはもっと中央寄りの席を言われたのを、「もっと花道に近いところにして下さい!」、と言って取った席。だって「勧進帳」は最初と最後に花道で見せ場があるんだもの。狙い通り、弁慶が登場して花道で立ち止まったところはすぐ横で、手が届きそう。吉右衛門様、格好いい~!もう初めから目がハートになってしまいます(笑)。

吉右衛門の弁慶は大きさも風格もあり、本当に立派。特に優れているのが口跡の明瞭さで、勧進帳の読み上げや問答で何を言っているかわかる人が実はあまりいないのだが、吉右衛門だとはっきり聞き取れる。これは大したことだといつも感心する。
富樫とのやりとりの緊迫感、義経を打ち据える際の苦悩、富樫らに手向かおうとする四天王を押し止める気迫、義経にわびる心情、などの表現も十分。
富樫より贈られた酒を飲むときの番卒とのやりとりでは余裕あるユーモラスさを見せ、最後は豪快な飛び六方での引っ込みも美しくて素晴らしかった。ここまですでに1時間以上ずっと動きっぱなしなのに、息も上がらず片脚で立っても揺らぎもしないって、考えてみるとすごい。

梅玉の富樫は、この人らしい清潔感のある涼しげな造型で、能吏と言うよりは貴公子と言った趣。お行儀良いと言えばよいのだけれど、弁慶との問答などはもう少し息詰まる気迫がほしい気もする。弁慶達を見逃すところでも、今一歩苦衷や情の篤さなどが出ても良いような気もするが、わりと淡々としていたように思う。

芝雀の義経も、最初の出と後半弁慶をねぎらうところ以外顔を見せないながら、強力に身をやつしていても隠しきれない御曹司の気品を漂わせて十分。舞台の隅で弁慶と富樫のやりとりをじっと聞いている間、右手で持った杖に軽く添えた左手の指がピンと伸びていて綺麗。さすが気を抜かずに演じている証拠。

四天王は松江、種太郎、吉之助、由次郎。
種太郎はもうすっかり子役を卒業したようで、立派に勤めていた。松江も襲名以来良いお役をもらって、がんばってる様子で好ましい。

この日の公演は1日1回限りのもの。出演者は吉右衛門さんはじめ、みなさん数日前まで歌舞伎座に出ていて、お稽古する日もほとんどなかっただろうに、1回だけの舞台でこれだけ十分なものを見せられるなんて、歌舞伎役者ってやはりすごい。「勧進帳」なんて何回もやってるから、身に付いてるんだろうけど、本番でやっていなければ「舞台勘」みたいなものが戻らなかったりしないのかしら。
そして4日からはもう「元禄忠臣蔵」が始まるわけで、こちらも楽しみ。