10月17日(月)
国立劇場開場45周年記念公演の第一段。
例年正月にやっている菊五郎劇団による復活狂言が開幕を飾った。
通し狂言 開幕驚奇復讐譚(かいまくきょうきあだうちものがたり) 尾 上 菊 五 郎
中 村 時 蔵
尾 上 松 緑
尾 上 菊 之 助
坂 東 亀 三 郎
坂 東 亀 寿
中 村 梅 枝
尾 上 右 近
中 村 萬 太 郎
尾 上 松 也
河 原 崎 権 十 郎
市 村 萬 次 郎
市 川 團 蔵
坂 東 彦 三 郎
澤 村 田 之 助
外題がやけに大げさでそれこそビックリだが、滝沢馬琴の原作だと言うこと。ただし原作の題は少し違って「開巻驚奇侠客伝」。黙阿弥による歌舞伎上演の記録はあるが、今回は新たに書き直したもの。
とまあ詳しく書いてもややこしいだけ。毎年恒例の菊五郎の復活狂言同様、あまりあらすじにはとらわれずに楽しく見た方が良さそうだ。最初は時代物風に始まり、間狂言のように世話物の場があり、最後はまた時代に戻って大団円、と言う作りもだいたい同じ。
菊五郎は今回は3役。第一の仙女の役の扮装がレディ・ガガ風と言うことで話題を呼んでいるが、さすがは音羽屋、歌舞伎の枠にとらわれない発想の斬新さ。私はよく知らないので、イラストレーターの天野喜孝さんの絵みたいと思ったり、アーサー・ラッカムの描くワルキューレみたいな気も。とにかく洋風というかSFっぽいと言うか、な白銀の衣装で、それが白い犬か狼に乗って(こっちはまるでもののけ姫ね)宙乗りすると言うから面白い。そうそう、その宙乗りは、上手を菊五郎が、下手を菊之助が、二人同時に飛ぶ豪華サービス。
第二は世話物での盗賊、実は元は武士で、、、と言う戻りのある役だが、こちらはさすがに手慣れた風情で、盗人ながら粋でいなせな雰囲気。しかし殺しもいとわない悪人振り。こういうのはお手の物。
第三は最後に出てくる捌き役。まあ、これは大団円に出てくるためにつけたおまけっぽい。
話の展開の重要な鍵を握るのは時蔵演じる長総という女。始めは武家の奥方として楚々とした様子で出てくるが、悪者の夫が松緑演じる小六に親の敵として討たれると若党(菊之助)と出奔、ところがお次は盗人(菊五郎)に若党を殺されるとあっさりとその女房に納まり、、、と言う変わり身の早い女で、最後はあっさり殺されちゃう。
まあ正直言って時蔵のニンではないのだろう、こういうその時その時で自分に一番有利な相手を選んでいくといった都合のいい女というのは。また本の方も、最初に奥方として夫に意見するような賢夫人なところを見せるから、よけい後半の変身ぶりが取って付けたようになるのでは。
松緑が先月の久吉に続き正統派二枚目。こういう役ができるようになってきて嬉しい。でもやっぱり月代剃った普通の頭じゃなくて、ええとなんて言うのか、「一条大蔵卿」に出てくる鬼二郎みたいな扮装の方が似合っちゃう松緑なのでした。
菊之助は若党と、親の敵を討とうと仙女の元で修行する姫との二役。若党としては清潔感ある真面目な青年振りですっきり。姫と言っても打ち掛け着てるようなのじゃなくて、菊五郎同様不思議な衣装に滝夜叉姫みたいな鬘。菊ちゃんは声が良いから、こういう男勝りなお姫様はぴったり来る。パパと並行の宙乗りでは、鉄棒みたいにくるんくるん回って大サービス。
梅枝が小六に従う少年剣士といった役どころ。前髪の若者の初々しさがあり、魅せた。
田之助が将軍役で久しぶりに舞台に。出番は少ないがお元気な様子で嬉しい。
お約束(?)の時事ネタでは、宿の仲居がなでしこジャパン風の衣装で出てくるが、歌ったり踊ったりはなしだったのでちょっと物足りなかったな~(笑)。
ま、毎年毎年よく考えて作ってるなあ、と感心はするのだが、正直言うとちょっと飽きてきた気もしないではない。
それに国立劇場も、音羽屋は復活、播磨屋は新歌舞伎、と決まったような演目ばかりやらせないで、音羽屋でも古典の通しとかやって欲しいよなあ、と切に思う。