7月24日(日)
山種美術館



最終日に駆け込みで。そこそこの混み方。

かつては至る所で見られたのに、今失われつつある、または失われてしまった日本の自然を描いた日本画を集めた展覧会。

どれも懐かしく、美しく、この景色が取り戻せないとしたら、なんともったいないことをしてしまったのか、という思いに駆られる風景ばかり。
この展覧会自体は、震災前から企画されていたものだろうけれど、あの震災でまた多くの美しい景色が消えてしまったのかと思うと、悲しくなる。

所蔵品からの展示で、中心は川合玉堂、奥田元宋、東山魁夷、それに横山操。

玉堂の「早乙女」(チラシ上)などの里山の穏やかな風景のふんわりとした、特有の湿気をも感じさせる絵。

魁夷の「緑潤う」(チラシ下)を含む京都の四季を描いた連作の瑞々しい美しさ。

さらに元宋の、一見油絵を思わせる豊潤な色彩で描かれた「奥入瀬(春)」や、「玄溟」の艶やかさ。

「玄溟」(1974)

元宋とは対照的に、極力色味を抑えた操の「越路十景」の端正で、しかし温かさも感じさせる爽やかさ。

「越路十景の内 蒲原落雁」

一口に風景と言っても、それぞれにとらえ方も違えば描き方も違う。当たり前だが個性の違いが楽しい。
特に元宋や操は、これまで余りよく知らなかったので、こんな素晴らしい絵を描いてたんだなあ、と感心することしきり。
元宋の「奥入瀬」は壁一面を占める大作で、むせかえるような木々の緑と渓流の白さが美しく、のみこまれるよう。
操は50代の若さで早世してしまったそうで、蒲原落雁はほとんどモノクロだが、他のは淡く色づけされ、特に紙質が感じられる薄塗りの絵が、寂しげなのに優しげでもあって、心惹かれた。

他に、大観や古径、深水らが富士を描いたものもあり、特に美人画で知られる深水の「富士」は珍しくも見事で良かった。


伊東深水 「富士」(1939)

図録がなかったのが残念でした。
この美術館の展覧会、滅多に図録作ってくれないんだよね。絵葉書も種類少ないし。それだけが不満。