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七月大歌舞伎・夜の部 [舞台]

7月25日(月) 新橋演舞場

一、吉例寿曽我(きちれいことぶきそが)
  鶴ヶ岡石段の場   
  大磯曲輪外の場                 
工藤祐経  梅 玉                 
曽我五郎  松 江                 
曽我十郎  笑 也                
朝比奈三郎  男女蔵                 
秦野四郎  弘太郎                
喜瀬川亀鶴  梅 丸                
化粧坂少将  春 猿                 
大磯の虎  笑三郎                 
八幡三郎  猿 弥                
近江小藤太  右 近

二場ある割には短い、あっという間の演目。話もなんかいい加減で(苦笑)、これと言って見せ場もないし、正直寝そうになった。
石段の場では右近と猿弥の立ち回りとがんどう返しだけ。石段に二人が立ったまま装置が後ろへひっくり返っていくのを、二人が倒れずに立っていられるのが不思議。右近は昼の忠信は良かったが、こちらは相変わらず口跡が悪くすっきりしない。

大磯はいわゆる対面だが、全員揃ってせり上がってくるのが、なんだか始まりがカットされている気がしてしまう。自己紹介的な台詞の後だんまりになるのもよくわからない。こういうのを見るとよくかかる「対面」は良くできた演目だと思えてしまう。
松江の五郎はいくら何でも力が入りすぎ。見た目は良いんだけど。
笑也の十郎もなんだかふわふわして、敵を討とうとしているようには見えない。
要するに二人とも表面的すぎ。
春猿と笑三郎がさすがに美しい。
梅丸もかわいい。
一人梅玉はさすがに貫禄。でも付き合わせるのが気の毒なくらいつまらなかった。

二、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)
小姓弥生後に獅子の精  海老蔵             
家老渋井五左衛門  市 蔵              
用人関口十太夫  亀 鶴                 
胡蝶の精  玉太郎                 
  同     吉太朗                  
局吉野  右之助                
老女飛鳥井  家 橘

演目が発表になったときは「嘘だろ?」と思った。5月に菊之助がやって大評判を取ったばかり。後シテの獅子はともかく、前シテの弥生は女形舞踊だ。数年前に「藤娘」をやったときはあまりの下手さに悪い冗談としか思えなかった。所作がなってないからとても娘に見えなかった。いいとこあばずれ。それを、まさかに鏡獅子とな。ほとんど怖いもの見たさで臨んだが、これが意外な上出来。

他の人が弥生をやるときは薄い藤色の衣装だが、海老蔵は濃いめの色合いで柄も大柄ではっきりしたものなのは彼に合わせたか。顔は美形だから女形でも綺麗なのはもちろんだが、所作がすっかり落ち着いて危なげもない。さすがに色気を感じさせるところまでは行かないが、品もありたおやかで良い前シテ。難を言えば裾捌き。足が見えすぎる。
後シテは本領発揮というか、迫力いっぱい。隈取りもよく似合い、相変わらず眼力も効いて、まあいろんな人がやる中でこれほど勇猛な獅子もいないだろう。毛振りはまるでぶんぶん丸。回数が凄かったが、一つ一つが綺麗じゃないから魅力半減。ちゃんと腰を使わずに力任せに振っているのだろう、よく首を痛めないものだ。次は回数より完成度を高めてほしい。まあ、今回は復帰公演への意気込みの表れと言うことにしておこうか。

結果、昼夜通してこれがいちばんの見物になった。(ま、台詞ないしね。。)

三、江戸の夕映(えどのゆうばえ)
堂前大吉  團十郎                  
おりき  福 助                 
本田小六  海老蔵                  
お登勢  壱太郎                   
徳松  男女蔵                 
黒岩伝内  亀 鶴                
網徳娘お蝶  宗之助                
吉田逸平太  市 蔵               
松平妻おむら  家 橘                  
おきん  萬次郎                 
松平掃部  左團次

昼の部の「楊貴妃」と同じく大佛次郎の作品。江戸幕府の瓦解後を生きる御家人三人のそれぞれの姿に、官軍を迎えた江戸っ子達の感慨が上手くからんで、世相をとらえた人情ものとなっている。

海老蔵が、江戸を抜け出し五稜郭へ向かおうという一本気な侍。理想に走る純粋さ、かたくなさが出て上々。後半、江戸に戻って来ているのに、許嫁に会いに行こうとしない、いや行けない男の悲しさ辛さに嫌味がなく、黙々と盃を傾ける姿に小六の孤独がにじむよう。
普通に台詞言えるじゃん、海老蔵!なんで楊貴妃ではああなっちゃうのよ?と、昼とのあまりの落差に驚いた。時代物も世話物も、こういう風に普通に発声してほしいのよね。

團十郎が鷹揚でさばけた、心根の暖かい大吉を好演。本来は小六とは同輩だろうが、兄貴分的な大きさと、小六お登勢を案じる包み込むような優しさを見せた。

左團次が元大身の旗本らしい貫禄と、娘を思う親の情を見せて泣かせる。台詞は少ないんだけどね。お登勢に「(小六を)待っていてやろう」というのが、娘への愛情に溢れていて本当に素敵だった。

壱太郎のお登勢がいじらしく健気で愛らしい。ほんとお人形さんみたいに可愛かったなあ。芝居も團十郎、左團次を相手に回して見劣りしない立派さ。いやほんと、先が楽しみ。

福助がちょっと軽はずみだが気のいい芸者でニン。
萬次郎が下町のお妾さんらしい軽さと愛嬌があって上々。

同じ大佛作品でも、「楊貴妃」と違って世話物風の人情味ある芝居で、歌舞伎と言って無理がなく楽しめた。
また、戦後の新作歌舞伎では、映画音楽みたいなのが付いてずっこけることが多いが、これはそれもなく黒御簾音楽だけだったのも情緒があって良かった。

帰宅すると、この日海老蔵夫婦に赤ちゃん誕生のニュースが。「江戸の夕映え」をやってるときはもう生まれた頃で、海老蔵も團十郎もパパ、おじいちゃんになった喜びをかみしめながらの舞台だったのかも。女の子だそうで、おめでとうございます。

タグ:海老蔵
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